
- SNSでの情報をどのように正しく評価し、利用すれば良いのか?
- 自己診断と専門家の診断の違いは何か?
- ADHDについての誤解を避けるために、どのような情報を探すべきか?
「もしかして、私もADHDかも?」──そんなふうに感じたことはありませんか?
いま、若者を中心に人気のSNS「TikTok」では、「#ADHD」というハッシュタグを使った動画が急増しており、自分の経験を語る人や、症状のチェックポイントを紹介する動画が大きな注目を集めています。
このトレンドに対して、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学などの研究チームが注目しました。
TikTokで広まっているADHD(注意欠如・多動症)関連の情報は、果たして正確なのでしょうか?
そして、こうしたSNSの情報は、私たちの「ADHD」に対する認識にどんな影響を与えているのでしょうか?
研究チームは、TikTokに投稿された「#ADHD」動画の内容や影響を、2つの視点から調べました。
ひとつは、専門の臨床心理士がTikTokの人気ADHD動画100本を分析し、内容の正確さや教育的価値を評価するというもの。
もうひとつは、18〜25歳の大学生843人を対象に、ADHD関連動画を見た経験とその印象、ADHDに対する認識の変化を調査するというものです。
TikTokには、ADHDを持つと自称する人たちが「自分の体験談」や「日常のあるあるネタ」を投稿しています。たとえば、「冷蔵庫を開けて何を取りに来たか忘れた!ADHDあるある!」、「気が散って集中できないのはADHDのせいかも」、「この方法で生活が楽になった!ADHDにもおすすめ!」といった動画です。
こうした投稿は、「私も同じ!」という共感を呼び、時には数百万回以上再生され、コメントや「いいね」が殺到します。
このように、TikTokは「診断されていないけれど、もしかして自分も…」と感じている人たちにとって、共感と安心を得る場所となっているのです。
しかし、臨床心理士が評価したところ、100本の人気ADHD動画のうち、約半数(48.7%)しか診断基準に合っていないという結果でした。
残りの動画は、「他の病気に見られる症状」や「誰にでもある日常的な経験」といった内容が多く含まれていたのです。
さらに、「この症状は人によって異なります」といった“注意書き”がある動画は、たった4%しかありませんでした。
そして、「この治療法は誰にでも効くとは限らない」といった表現は、ほぼ皆無。
つまり、内容の多くは「自分の経験=ADHDの一般的な特徴」として語られており、それを見た視聴者が「私もADHDかも」と思い込んでしまう危険があるのです。
大学生843人への調査では、TikTokでADHD動画を見る頻度が高いほど、内容を「役立つ」「正確」と評価する傾向があることが分かりました。また、視聴者は、専門家が「教育的価値が低い」とした動画でさえ「まあまあオススメ」と判断していました。そしてADHDの自己診断をしている人ほど、動画の内容を信頼しやすい傾向がありました。
このことから、SNSによって「自分の症状をADHDだと自己判断する人」が増えていることがわかります。
実際、調査参加者の約5割は「自己診断のみで、正式な診断は受けていない」と回答しました。
自己診断には、メリットもあります。
「病院に行きづらい」「過去に理解されなかった」といった理由で、SNSを通じて自分の状態を整理し、安心を得る人も多いからです。
しかし同時に、次のようなリスクもあります。
「ただの疲れ」や「性格のクセ」を病気と誤解してしまったり、実際には別の病気が隠れていても見逃してしまったり、本当に必要な治療や支援を受ける機会を逃したり、科学的根拠のない“怪しい治療法”にハマる危険もあります。
たとえば、「ADHDには薬がよくない」とする動画もありましたが、こうした主張はエビデンスに基づかない可能性が高く、注意が必要です。
TikTokには、病気の経験を語る当事者が多く、同じ悩みを持つ人にとっては大きな心の支えとなっています。
しかし一方で、短い動画では正確な情報を伝えるのが難しく、誤解や偏見が広まりやすい側面もあります。
また、TikTokのアルゴリズムは「興味がある内容」を優先的に表示するため、似たような動画ばかり見ていると「それが正しい」と思い込んでしまう“情報の偏り”が起きやすいのです。
研究チームの調査では、動画をよく見る学生ほど、「ADHDの人はこんなに大変」と感じる傾向があり、また「ADHDの人は世の中にたくさんいる」と過大評価する傾向も見られました。
実際、一般的なADHDの有病率は成人で3~7%程度とされていますが、調査対象者の推定では、平均して「33%がADHD」と答えており、大きなギャップがあることがわかります。
また、研究では興味深い実験も行われました。
TikTokのADHD動画10本を見せた後に、専門家による解説動画を見せて、「自分はADHDかもしれない」という気持ちに変化があるかを調べたのです。
その結果、TikTokの動画を見た後は、自己診断者の「自分はADHDだと思う」という気持ちが強まり、一方、非ADHDの人は「もしかして自分もADHDかも…」と感じるようになっていました。
ところが、その後に専門家の解説動画を見ると、非ADHDの人たちは「やっぱり自分はADHDではなさそうだ」と冷静さを取り戻す傾向が見られました。
これは、SNSの情報だけで判断することの危うさを物語っています。
研究者たちは、専門家とSNS利用者の間にある“情報のギャップ”を埋める必要があると指摘しています。
SNSが持つ「共感」や「つながり」の力を活かしつつ、誤解を避ける情報発信が求められています。
自己診断は第一歩として大切ですが、可能なら専門家に相談することが重要です。
TikTokのようなSNSは、若者にとって情報源であり、心の支えでもあります。
その価値を否定するのではなく、「正しい情報と自由な表現」が共存できる社会を目指すことが、今後の課題となっていきそうです。
「SNSで共感した」「動画の症状が自分に当てはまる気がする」──その直感は決して間違いではありません。でも、自己診断だけに頼らず、一度立ち止まって、信頼できる情報を探してみることも大切です。
TikTokやSNSでの「共感」は、心の癒しになります。
でも「診断」や「治療」には、やはり専門家の助けが必要なのです。
情報の時代に生きる私たちがすべきこと──それは、「見た目に流されず、自分の心と正しく向き合うこと」なのかもしれません。
(出典:Plos One)(画像:たーとるうぃず)
適切な支援につながるためには、正しい診断が必要です。
また、軽々しく自称したり、他人にそう言ったりすることで、本当に困難な状態にある人がさらに困難になってしまうかもしれないことを想像してほしいと願います。
(チャーリー)