
- 自閉症の子どもは、寝つきの悪さを改善するためにどのような方法が効果的ですか?
- 親が観察する睡眠の問題と、科学的なデータとの違いをどう理解すれば良いですか?
- 発達障害を持つ子どもにおいて、睡眠障害はどのように行動や情緒に影響するのですか?
近年、「子どもの眠り」に関心が高まっています。
とくに発達障害のひとつである自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちは、「寝つきが悪い」「夜中に何度も目を覚ます」「朝起きられない」といった問題を抱えやすく、それが学習や感情、家族の生活全体にまで影響していることが指摘されています。
ところが、こうした睡眠の問題は、これまで多くが保護者のアンケートや聞き取りに頼ってきました。
つまり、「お母さんやお父さんが見た感じ」で評価されてきたのです。
しかし、睡眠というのは、実際にどれくらい眠ったのか、どのくらいで眠りについたのかなど、目で見ただけでは分からない情報が多く含まれています。
そこで、アメリカのサイモンズ財団は、「サイモンズ・スリープ・プロジェクト(SSP)」という研究を立ち上げました。
自閉症のある子どもたちとその兄弟姉妹を対象に、最新のウェアラブル技術(身につけられる機器)を使い、家庭で何週間にもわたって睡眠の様子を詳細に記録し、科学的に分析したのです。
この研究で何がわかったのでしょうか?
結論から言えば、私たちが思っていた「自閉症の子どもは夜にたびたび目を覚ます」というイメージは、必ずしも正しくなかったこと。
そして、「寝つきの悪さ」こそが、彼らにとって大きな課題であることが明らかになりました。
ここからは、SSPの研究で判明した、注目すべき5つの「わかったこと」をご紹介します。
① 寝つき(睡眠潜時)が長いのは自閉症の子どもたちの特徴だった
この研究でもっともはっきりとした違いが見られたのが、「寝つきまでにかかる時間(Sleep Onset Latency, SOL)」でした。
自閉症のある子どもたちは、兄弟姉妹に比べて、平均して8分ほど長くかかっていたのです。
これは「たった8分?」と思われるかもしれませんが、これは平均値であり、中には30分〜1時間近く寝つけない子もいました。
子どもにとって「布団に入ってもなかなか眠れない」状態は、ストレスになりますし、家族も付き添わなければならず、生活全体に負担がかかります。
また、この「寝つきの悪さ」は、親が日記に書いた情報(主観的な評価)よりも、脳波や動きなどから測定された客観的なデータの方がはっきり現れていました。
② 寝ている時間(総睡眠時間)や夜中の覚醒は、兄弟姉妹とほぼ同じだった
一方で、「一晩でどのくらい寝ているか(Total Sleep Time, TST)」や、「夜中にどれだけ起きたか(Wake After Sleep Onset, WASO)」については、驚くことに、自閉症の子どもとその兄弟姉妹の間で明確な違いは見られませんでした。
実際、保護者は「夜中に何度も起きる」と感じていることが多いのですが、睡眠センサーで測定すると、実際にはそのような頻繁な覚醒はなかったのです。
これは、親が「起きたように見えた」だけで、実際には浅い睡眠だったのかもしれません。
この結果は、保護者の印象と、機械による客観的な測定結果がずれることがある、という重要な教訓でもあります。
③ 保護者の報告と、機械で測った睡眠データには大きな差があった
今回の研究では、毎晩の睡眠日誌(親が記録)と、3つの異なるセンサーからの客観的データを比較することができました。
その結果、3つの機器同士のデータ(脳波、スマートウォッチ、ベッドセンサー)では、かなり一致した結果が出ていたのに対して、保護者が記録した情報とは一致しないことが多かったのです。
とくに「夜中にどのくらい起きていたか(WASO)」については、親の記録とセンサーのデータはほとんど一致していませんでした。
このことから、「客観的なデータをとることの重要性」があらためて浮き彫りになりました。
親の印象や記憶だけでは、正確な睡眠の様子をつかむのは難しいということです。
④ 寝つきの悪さは、ADHDや感覚過敏などの行動の問題と深く関係していた
研究チームはさらに、寝つきの悪さ(SOL)や夜中の覚醒(WASO)と、子どもたちの日中の行動との関係も調べました。
その結果、「寝つきが悪い」ことは、「注意が散りやすい(ADHDの特徴)」「音や触感に敏感(感覚過敏)」「不安や抑うつ」といったさまざまな問題と強く関係していることがわかりました。
逆に、「夜中に目が覚めること(WASO)」は、こうした問題とはほとんど関係がなかったのです。
つまり、「眠るまでに苦労していること」が、その子の行動や情緒の困りごとと深くつながっており、単に「睡眠時間が短い」ことよりも重要なポイントであると示されました。
⑤ 兄弟姉妹のデータも大切な意味を持っていた
今回の研究では、「自閉症の子ども」と、その「兄弟姉妹」がペアで参加しています。これは研究上とても価値のある設計です。
なぜなら、兄弟姉妹は同じ家庭で育ち、同じ環境、同じ親からの記録、同じ寝室環境であることが多いため、「外的な要因」がそろっており、より正確に「自閉症そのものによる違い」を見ることができるからです。
ただし注意すべきは、兄弟姉妹の中にもADHDや不安症など、発達に何らかの特徴を持つ子が多く含まれていたという点です。これは、自閉症の家族に共通する遺伝的・環境的な影響がある可能性を示しています。
このように、「診断の有無」に注目するのではなく、「それぞれの子どもが持つ特徴や傾向」に注目する「次元的アプローチ(ディメンショナル・アプローチ)」が、今後の発達研究にはますます重要になると考えられます。
SSPの研究チームは、今回の研究で集めたすべてのデータ、分析コード、質問票などを、SFARI(サイモンズ財団の研究データベース)にて公開しています。
これにより、世界中の研究者がこの貴重なデータを活用し、新しい研究や治療法の開発に役立てることができます。
また、スマートウォッチや脳波センサーなどのウェアラブル技術を使って、自宅でリラックスしながら睡眠や行動を測定できることが証明され、今後のリモート研究や医療支援のあり方にも大きな影響を与えると期待されています。
この研究は、自閉症に限らず、ADHDや不安障害、睡眠障害など、さまざまな子どもたちの支援につながる「未来の医療・教育・福祉」の第一歩とも言えるでしょう。
(出典:bioRxiv preprint)(画像:たーとるうぃず)
うちの子は、小さな頃は本当に眠りませんでした。
私もよくヘロヘロになっていました。
しかし、薬を飲むようになってからはよく眠ってくれて、私や家族もよく眠れるようになりました。
小さな頃はボーっとしていることが多いように思いましたが、よく眠れるようになってからは日中はスッキリ楽しく活動することが多くなったように思います。
小さな頃は薬を飲ませることにちょっと抵抗感がありましたが、本人だけでなく家族にとっても、薬はとてもよかったように思います。
無理する必要はありません。
(チャーリー)