
- 自傷行動は年齢とともにどのように変化するのか?
- 知的障害の程度によって自傷行動に違いはあるのか?
- 自傷行動を軽減するためにはどのような支援が必要か?
アメリカのミネソタ大学とメイヨークリニックの研究チームは、発達に遅れや障害がある子どもたちに見られる、自分自身を傷つけてしまう行動(自傷行動)が年齢とともにどのように変化するのかを詳しく調査しました。
この研究は、知的障害や自閉症など、様々な理由から発達に遅れがある子ども110人(2歳~12歳)を対象に行われました。
これまで、自傷行動(自分の頭を叩いたり、体を噛んだり、肌を引っかいたりするなど)が発達障害のある子どもに多いことは知られていましたが、その行動が年齢によってどのように変わるのかは、あまり明らかではありませんでした。
そこで今回の研究チームは、子どもたちが年齢を重ねるにつれて、自傷行動が増えるのか、減るのか、あるいは変化しないのかを調べました。
研究方法としては、参加した子どもたちの保護者が毎年、子どもの行動についてアンケートに答えました。
調査は2年から4年の間続けられ、合計で317回のアンケートが集まりました。
アンケートでは、自傷行動が起こる頻度や、その行動が子どもや家族の生活にどの程度影響を及ぼしているのかが評価されました。
調査結果は次のようなものでした。
【1. 自傷行動の全体的な傾向】
- 参加した110人の子どものうち、90%が調査期間中に何らかの自傷行動を一度は見せました。
- 約25%の子どもについては、自傷行動が頻繁に起き、日常生活に深刻な支障をきたしていると保護者が報告しています。
- 「全く自傷行動がなかった」と回答されたのは、110人中わずか12人(約11%)のみでした。
【2. 知的障害の程度による違い】
子どもたちを知的障害の程度によって、「中度〜重度」と「軽度または無し」の2つのグループに分け、それぞれの傾向を詳しく分析しました。
<中度〜重度の知的障害をもつ子ども>
- 自傷行動は、幼児期(2歳ごろ)から小学校時期(6~9歳ごろ)にかけて非常に多く見られ、その頻度や影響は年齢を重ねてもほぼ一定で、高い水準のまま安定していました。
- 保護者は日常生活に大きな支障をきたしていると感じているケースが多く、年齢によって改善しない傾向がありました。
<軽度または知的障害がない子ども>
- 幼児期(2〜4歳頃)には自傷行動の頻度は比較的少なく、日常生活への影響も小さいと評価されました。
- 年齢が上がるにつれ、自傷行動の頻度や生活への影響が徐々に増加しました。特に学童期(6〜12歳頃)以降、自傷行動の頻度が顕著に増える傾向がありました。
【3. 自傷行動の具体的な種類と変化】
調査では、自傷行動を以下の7つの具体的な種類に分けて評価しました:
- 自分の体の一部(手など)で自分を叩く
- 物を使って自分を叩く
- 壁や床、家具などに自分の体をぶつける
- 自分の体を噛む
- 自分の肌を引っ掻く、つまむ、突く
- 自分の髪を引っ張る
- 皮膚をむしる(強く掻きむしったり、傷をつける)
<中度〜重度の知的障害の子ども>
- 「体の一部で自分を叩く(55%)」「壁や床に自分をぶつける(54%)」「自分を噛む(45%)」が特に多く見られました。
- 「皮膚をむしる」行動は4歳頃にピークがあり、その後一旦落ち着きますが、思春期に再び増える傾向がありました。
- 「自分の髪を引っ張る」行動は最も少なく(28%)、変化はあまり見られませんでした。
<軽度または知的障害がない子ども>
- 「皮膚をむしる(46%)」「体の一部で自分を叩く(42%)」「自分の肌を引っ掻く、つまむ(40%)」が多く見られました。
- 「自分の肌を引っ掻く、つまむ」行動は年齢と共に増加し、特に学齢期以降に頻繁になりました。
- 「物を使って自分を叩く(28%)」「自分を噛む(29%)」などの激しい行動は、中度〜重度の子どもよりは少ないものの、年齢と共にやや増加しました。
【4. 年齢に伴う変化のパターン】
- 全体として自傷行動は、子どもが年齢を重ねても減少せず、小学校高学年から思春期にかけて増える傾向が見られました。
- 特に軽度または知的障害がない子どもでは、小学校以降に自傷行動が増加するケースが特に顕著で、皮膚をむしったり掻いたりする行動が思春期に近づくにつれ増加しました。
研究チームはこの結果を踏まえ、早期の支援や継続的なサポートが自傷行動の予防や軽減に重要だと強調しています。
(出典:Wiley Online Library)(画像:たーとるうぃず)
「自傷行為」
本人はもちろん、家族にとっても、本当に本当に辛いことです。
さらに、今回の研究調査結果では、
子どもが年齢を重ねても自然に減るとは限らず、むしろ一部の子どもでは年齢とともに悪化する傾向が見られる。
実態について正しく把握され、少しでも軽減する方法の開発につなげてほしいと心から願います。
(チャーリー)