
- 発達障害がある人にとって、どのような音が特にストレスとなるのか、具体例は何か?
- 自分自身で音を調整することで、どの程度ストレスが軽減されるのか?
- AI技術を用いた音の調整は、どのような形で日常生活に取り入れられる可能性があるのか?
多くの人にとって何気ない音でも、発達障害を持つ人たちにとっては強いストレスとなることがあります。
とくに自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)の方々は、特定の音が耳に痛みを感じるほど過敏に聞こえたり、不安や不快感を覚えたりすることがあります。
日本の研究チームが、こうした「聴覚過敏」によるストレスを軽減するための新しいシステムを開発しました。
国立障害者リハビリテーションセンター研究所と東京大学の研究者が共同で行ったこの研究は、人工知能(AI)技術を使った画期的な取り組みです。
研究チームは、発達障害のある人々が普段どのように音を感じているか、また、どのような音の調整をするとストレスが軽減されるかを調査する実験を行いました。
実験に参加したのは、自閉症スペクトラム障害や注意欠如・多動症と診断された方28名と、発達障害がない方29名の合計57名です。
実験ではまず、「回想タスク」という課題が与えられました。
これは、参加者が過去に聞いたことのある音を再現し、自分がその音をどのように感じていたかを評価するものです。
次に、「緩和タスク」として、参加者自身が音の調整を行い、できるだけストレスを感じない状態に音を変える作業を行いました。
たとえば、ある人は特定の音を聞いたときに耳が痛く感じたり、不安になったりした経験を思い出しながら、その感覚を再現しました。
その後で、同じ音を自分で調整し、不快感が少なくなるような設定を行ったのです。
この調整には、音の高さを変えたり、特定の周波数を抑えたり、逆に音を強調したりといった細かな工夫が含まれます。
その結果、多くの参加者が自分で調整を行った「緩和タスク」の方でストレスが明らかに軽減されました。
このことから、参加者が行った音の調整を学習したAIモデルを作れば、発達障害を持つ人が日常生活の中で遭遇する不快な音を自動で和らげるシステムが作れるのではないかという期待が生まれました。
研究チームはそこで、参加者が行った音の調整を予測する人工知能モデルを開発しました。
このAIは、実際に人がどのような状況で、どのような音を不快に感じるかを予測し、その音をどのように調整すればストレスが軽減されるかを自動で提案することができます。
実験では、AIモデルが実際に参加者が行った調整とかなり近い予測を出すことができました。
AIが提案する調整を使えば、人々が普段感じている音への不快感を減らせる可能性が十分にあるという結果です。
このAIモデルがさらに進化すれば、将来的にはデジタル耳栓やスマートイヤホンといったウェアラブルデバイスに搭載されるかもしれません。
たとえば、カフェや職場、学校など日常的な環境で、耳に入ってくる音をリアルタイムで調整してくれるデバイスが実現すれば、発達障害を持つ人々の生活の質は大きく向上するでしょう。
今回の研究で得られた成果は、実用化に向けた最初の一歩です。研究チームは、さらに多くの人からデータを集め、さまざまな音や状況に対応できるようにモデルの精度を高める予定です。
将来的に、こうした技術が社会に普及すれば、発達障害を持つ人々だけでなく、音に敏感でストレスを感じやすい多くの人にとっても、大きな支えとなるでしょう。
現代社会では、様々な音が私たちの周りにあふれています。誰もが快適に音のある暮らしを楽しめるようになるために、こうしたAI技術が大きな役割を果たす日が近づいているのかもしれません。
(出典:Frontiers)(画像:たーとるうぃず)
自閉症やADHDの方がかかえる、人によっては痛みにさえなる不快を軽減できる技術。
いち早い実用化を期待しています。
(チャーリー)