
- 自閉症やADHDを持つ子どもが成長する中で直面する孤独感はどのように対処すればよいのか?
- 自殺リスクを低下させるために、家族や学校はどのような支援を提供できるのか?
- 高い知能を持つ自閉症の子どもが抱える苦悩を理解するためには、どのような情報やリソースが必要なのか?
ニールとサマラの夫妻が息子のアンソニーの様子がほかの子どもと違うと気づいたのは、彼が3歳頃のことでした。
米南カリフォルニアに住む夫妻が幼いアンソニーを家に残して外出して戻ると、彼が自分の髪の毛を大量に引き抜いていました。
驚いた両親はすぐに専門家に相談しました。
アンソニーは4歳で不安症と診断され、7歳の頃には「高機能自閉スペクトラム症」(知能が高いタイプの自閉症)と診断されました。
診断によって息子の状態を理解できた夫妻は安堵し、その後しばらくアンソニーは順調に育っているように見えました。
学校ではとても優秀で、成績評価平均(GPA)は4.6という高い数字を達成しました。(通常4.0が満点。高度な大学レベルの授業を受けると、最大で5.0まで加算)
医師からは「友達作りが難しいかもしれない」と言われていましたが、幸い、アンソニーには多くの友人がいました。
16歳の頃には自宅に友人を招いてパーティーやポーカー大会を楽しみ、運動にも熱心に取り組み、スパルタンレースやマラソンにも参加していました。
しかし、新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに、彼の精神状態は急激に悪化します。
アンソニーは親友に自殺願望を打ち明けました。
その友人から母親を通じて両親に伝わり、両親はすぐに支援を開始しましたが、彼の苦悩は深刻なままでした。
父ニールは語ります。
「息子は運動や健康管理に全力を注いでいました。
でも私たちは彼の心の痛み、苦しみをはっきり感じていました」
ある晩、アンソニーは「ちょっと散歩してくる」と家を出ました。
その直後、夫妻の耳にサイレンの音が届きました。
近年、若者の自殺は増加傾向にありますが、自閉症の子どもではそのリスクがさらに高まります。
2023年に米ピッツバーグ大学が発表した研究によれば、自閉症の子どもはそうでない子どもに比べ、自殺を考えるリスクが約5%高く、自殺を試みるリスクは約2倍高いことが分かっています。
とくに知的能力が高い自閉症の子ども(「二重に特別な子ども」と呼ばれる)は、さらにリスクが高まります。
米アイオワ大学が2023年に発表した研究では、知能の高い自閉症の子どもは非自閉症の子どもよりも、自殺念慮を抱く可能性が約6倍高いという結果が出ています。
しかし、こうした問題についての研究はほとんど進んでおらず、自閉症コミュニティ以外では、このことがあまり知られていません。そのためアンソニーのような子どもたちは、親や教師、場合によってはセラピストさえも十分な対応ができないまま、孤独な苦しみを抱え続けることになります。
父ニールはこう言います。
「自閉症による問題なのか、普通の10代の問題なのか、その区別が難しいのです。
私たちにとってはそこが一番大変でした。
必要な知識や支援を見つけられませんでした」
米サウスウッド精神科病院のグプタ医師は2015年頃から、自殺未遂で来院した若者たちに共通点を見つけました。
それは、学業が優秀で、家族にも恵まれているにもかかわらず、友人関係に苦しんでいるというものでした。
さらに、多くの子どもが食べ物や服の感触、騒音などに強い感覚過敏を持っていました。
彼らの多くが未診断、あるいは誤診された自閉症の子どもであることに気づきました。
グプタ医師はこう指摘します。
「これは大きな問題なのにほとんど研究されず、誰も対策をとっていません」
自閉症の子どもたちの自殺リスクが高い理由の一つは、「白黒はっきりと分けて考える」傾向にあります。
細かいニュアンスを掴みにくく、絶望すると極端な結論を出してしまいがちです。
また、人間関係を築きにくいため孤立し、いじめを受ける場合もあります。
とくに知能が高い自閉症の子どもは、周囲に馴染むために「マスキング」と呼ばれる周囲に合わせる行動を取りますが、これは心身ともに非常に疲れる行動であり、内面的な孤立感を深めます。
アンソニーの場合もそうだったのではないか、とサマラは感じています。
「息子は社会的にとても頑張っていましたが、内面では孤独で違和感を抱えていたと思います」
別のケースとして、米アイダホ州に住むサミアの14歳の娘マイサの事例があります。
マイサは非常に聡明で、本が大好きな子どもでしたが、社会的な違和感を抱え、13歳で初めて自殺を試みました。
母親が自閉症の可能性を医師に相談しましたが、理解は得られず、結果として適切な支援を受けないまま、2023年11月、14歳で亡くなりました。
自閉症で知的能力の高い子どもは、周囲からは「才能がある」と言われますが、それが逆に苦しみを見えにくくしてしまいます。
「頭が良いと人生は楽だと思われがちですが、それは違います。
頭が良すぎることが娘の苦しみを深めてしまったように感じます」
そう母親は話します。
晩に散歩に出た、アンソニーは一度は病院で回復に向かいました。
しかし、2024年5月、17歳で亡くなりました。
生前、彼の携帯電話には毎朝8時、「自殺防止活動のボランティアをする」という通知が表示されていました。
両親は息子の意思を継ぎ、自閉症と自殺の問題を隠さず語ることで命を救おうと、「エンデュラント・ムーブメント」というキャンペーンを始めました。
自閉症と自殺の関連についての議論はまだ始まったばかりです。
グプタ博士はこう言います。
「次に問われるのは、人々がこの問題に耳を傾けてくれるかどうかです」
(出典:米USA TODAY)(画像:たーとるうぃず)
【電話やチャットで気軽に相談できる窓口があります。悩みや不安を感じたら】
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「頭が良すぎることが娘の苦しみを深めてしまったように感じます」
そういうこともあるはずです。
つらい悲しいことが起きている、その可能性も高くなっていることを、知っておいてほしいと思います。
(チャーリー)