
- HD-tDCSはASDの子どもたちの反復行動をどのように軽減することができるのか?
- この新しい治療法は、ASDの子どもたちやその家族の生活の質をどのように向上させる可能性があるのか?
- HD-tDCSがASDの治療における「第3の選択肢」としてどのような役割を果たすのか?
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちは、特定の行動を繰り返したり、決まった習慣を変えられなかったりすることがあります。
たとえば、いつも同じ順番で物を並べたり、特定の道順でないと落ち着かなかったりすることです。
こうした「反復行動」は、本人にとって安心できる一方で、生活の幅を狭めたり、周囲とのコミュニケーションを難しくしたりすることがあります。
これまでASDの治療では、言葉の発達や社会性の向上を目指したものが中心で、反復行動に特化した治療法は限られていました。
しかし、イタリア・ローマにあるバンビーノ・ジェズ小児病院の研究チームが、新しいアプローチとして「高精度経頭蓋直流電気刺激(HD-tDCS)」の効果を調査する研究を進めています。
HD-tDCSは、脳に微弱な電流を流すことで神経の働きを調整する技術で、痛みがなく安全に利用できるため、医療分野で注目されています。
この研究では、HD-tDCSがASDの子どもの反復行動を和らげることができるのかを検証しています。
HD-tDCS(High-Definition transcranial Direct Current Stimulation)は、脳の特定の部位に微弱な電流を流し、その活動を調整する技術です。
通常のtDCSと比べてより精密な刺激が可能で、特定の脳領域だけに作用するよう設計されています。
この技術では、直径約1センチの小さな電極を頭皮に貼り、0.5ミリアンペアというごく弱い電流を流します。この電流は、人が日常的に感じる静電気のようなものではなく、痛みもありません。
電流の強さは極めて微弱なため、刺激を受けた本人がとくに何も感じない場合もあります。
HD-tDCSは、過去の研究で安全性が確認されており、副作用の報告はほとんどありません。
わずかに「チクチクする感覚」や「かゆみ」を感じる場合がありますが、痛みを伴うことはなく、治療後にすぐ消えることがほとんどです。
HD-tDCSは、もともと脳卒中後のリハビリやうつ病の治療など、さまざまな分野で研究されてきました。
最近では、集中力の向上や認知機能の改善にも有効ではないかと期待されています。
今回の研究では、この技術をASDの反復行動に応用しようとしています。
この研究には、8歳から13歳までのASDの子どもが参加しました。
彼らは、知能指数(IQ)が70以上で、過去3か月以内に特定の認知行動療法を受けていないことなどの条件を満たしていました。
研究では、子どもたちを次の3つのグループに分け、HD-tDCSを10回実施しました。
1. 前運動野(Pre-SMA)にHD-tDCSを行うグループ
– 体の動きを制御する脳の領域に電気刺激を与えることで、「手をひらひらさせる」「体を揺らす」といった低次の反復行動を和らげることを目的とする。
2. 前頭前野(dlPFC)にHD-tDCSを行うグループ
– 計画を立てたり、考えを切り替えたりする脳の領域に電気刺激を与えることで、「特定のルールに固執する」「決まった順番でしか行動できない」といった高次の反復行動を和らげることを目的とする。
3. プラセボ(偽の刺激)グループ
– 実際には電流を流さず、電極をつけるだけのグループ。このグループと比較することで、HD-tDCSの効果を正しく評価する。
子どもたちは週3回のペースで、20分間のHD-tDCSを10回受けました。
その後、治療前(T0)、治療直後(T1)、3か月後(T2)に、反復行動の変化を詳しく調査しました。
研究チームは、「HD-tDCSによってASDの子どもの反復行動が軽減されるのではないか」と考えています。
とくに、刺激を与える脳の部位によって、低次の反復行動と高次の反復行動のどちらに効果が出るのかが異なる可能性に注目しています。
たとえば、前運動野を刺激した場合は、体の動きを伴う反復行動が減少し、前頭前野を刺激した場合は、こだわりや習慣の固定化が緩和される可能性があります。
また、HD-tDCSを受けた子どもたちが、日常生活のストレスを減らし、より柔軟に行動できるようになるかどうかも調べています。
さらに、この研究では、子どもたちの睡眠の質や感情の安定度、親のストレスなどの変化についても評価しています。
もしHD-tDCSが反復行動の軽減だけでなく、家族全体の生活の質を向上させる効果があるとわかれば、ASDの新しい治療法として大きな一歩となるでしょう。
研究では、すべてのセッションの後に、子どもたちがどのように感じたかを記録し、万が一の体調変化にも対応できる体制を整えています。
また、親も一緒に経過を観察し、子どもが安心して治療を受けられるように配慮されています。
この研究が成功すれば、HD-tDCSは「こだわり行動」に悩むASDの子どもや家族にとって、新しい希望となる治療法になるかもしれません。
また、HD-tDCSは機械があればどこでも実施できるため、病院だけでなく、将来的には家庭でのケアにも応用できる可能性があります。
現在のASD治療では、薬物療法や行動療法が主流ですが、HD-tDCSはそれらとは異なる「第3の選択肢」として期待されています。
とくに、特定の脳の領域に直接働きかけることで、より効果的で個別化された治療が可能になるかもしれません。
今回の研究は、ASDの子どもたちとその家族にとって、より良い未来を築くための大きな一歩となるでしょう。今後のさらなる研究と技術の進化によって、より多くの子どもたちの生活をサポートできる方法が開発されることが期待されています。
(出典:BMC Psychiatry)(画像:たーとるうぃず)
頭に貼る小さな電極から、ほんのわずかな電気刺激なので、本人に苦しみを与えることはありません。
それなら、効果が確認できればすごく有望ですね。
自傷行為の軽減にもつながることをとても期待しています。
(チャーリー)