
- 自閉症特性の自己申告は、臨床診断とどのように異なるのか?
- 社会不安や回避傾向は自閉症とはどのように関連しているのか?
- より正確な自閉症の診断には何が必要なのか?
アメリカ・ニューヨークのマウント・サイナイ医科大学を中心とする研究チームは、「自己申告による自閉症特性と臨床診断された自閉症の違い」についての研究を発表しました。
この研究は、学術誌『Nature Mental Health』に掲載され、オンラインで自己申告に基づいて収集されたデータと、専門医による診断を受けた人々の特性を比較することで、自閉症研究の方法論に関する重要な知見を提供しています。
近年、オンラインプラットフォームを利用した心理学研究が盛んに行われています。
とくに自閉症スペクトラム障害(ASD)に関する研究では、多くの調査が自己申告のアンケートに依存しています。
しかし、今回の研究では、自己申告による自閉症特性と臨床診断された自閉症の間に顕著な違いがあることが示されました。
研究チームは、オンライン調査プラットフォーム「Prolific」で集めたデータと、ニューヨークのシーバー自閉症研究・治療センターで臨床評価を受けた56名のASD患者のデータを比較しました。
オンライン参加者は、自閉症特性が高いグループ(56名)と低いグループ(56名)に分けられました。
その結果、自己申告で自閉症特性が高いとされたオンライン参加者は、実際のASD診断を受けた人々とは異なる社会的行動を示すことがわかりました。
- 社会的不安と回避傾向
– オンラインで「自閉症特性が高い」と申告した人々は、ASD診断を受けた人々よりも社会不安や回避的な傾向が強かった。
– 一方で、臨床診断されたASD患者は、自己申告した自閉症特性と医師による評価との間に相関が見られなかった。 - 社会的意思決定の違い
– 臨床診断されたASD患者は、社会的な影響力を適切に認識することが難しく、仮想キャラクターとの交流においても親和的な行動を取ることが少なかった。
– これに対し、オンラインで自閉症特性が高いとされた人々は、社会的行動において低特性グループと同様の傾向を示した。 - 自己申告の限界
– 自閉症特性の自己申告と、臨床医による評価には一致しない部分が多く、とくに社会的スキルや行動の観察に関しては、自己申告だけでは正確な診断が困難であることが示された。
この研究は、オンライン調査を活用した自閉症研究において、自己申告データだけで結論を出すことのリスクを指摘しています。
自己申告は本人の主観的な体験を反映する一方で、客観的な行動観察とは異なる可能性があるため、両方を組み合わせた研究が必要です。
また、今回の研究では、オンライン参加者の多くが社会不安や回避的性格を持っていたことが分かりました。
これらの特性は自閉症とは異なるものの、自己申告のアンケートでは区別がつきにくいため、臨床的な評価がより重要になることが示唆されています。
今後は、オンライン調査の精度を向上させるために、自己申告データに加えて、行動観察や臨床評価を組み合わせた新たな方法が求められます。
また、社会不安や回避的傾向が強い人々がオンライン調査に積極的に参加する傾向があるため、そのバイアスを考慮した研究設計も必要となるでしょう。
この研究は、自閉症に関する科学的理解を深めるとともに、より適切な診断手法の確立に貢献するものです。今後の研究が、より正確な自閉症の診断や治療に役立つことが期待されます。
(出典:nature mental health)(画像:たーとるうぃず)
「自己申告による自閉症特性と臨床診断された自閉症の間に顕著な違いがある」
誰しも想像することが、きちんとした研究で示されたということですね。
(チャーリー)