- ADHDを持つ人の寿命を延ばすためにはどのような支援が必要ですか?
- 社会全体でADHDに対する理解を深めるためには何ができるのでしょうか?
- 心理的健康や医療へのアクセスを改善するために、どのような施策が有効ですか?
イギリスで行われた最新の研究によると、ADHD(注意欠如・多動症)と診断された成人は、そうでない人に比べて平均して7〜9年寿命が短いことがわかりました。
この研究は、イギリスの医療データをもとに約30万人の健康状態を調査し、ADHDが寿命にどのような影響を与えるのかを分析したものです。
研究を主導したのは、ロンドン大学(UCL)の研究チームで、エリザベス・オニオンズ博士を中心に行われました。
研究者たちは、2000年から2019年までの約950万人分の医療データを分析し、その中でADHDと診断された成人約3万人と、年齢や性別が一致するADHDでない人々30万人を比較しました。
その結果、ADHDと診断された男性の平均寿命は73.3歳で、一般の男性よりも約6.8年短く、女性では75.2歳で、一般の女性よりも8.6年短いことが判明しました。
とくに若い年代の死亡率が高く、ADHDの人はうつ病や不安障害を抱えやすく、自殺や事故のリスクも高いことが示されました。
ADHDは、集中力の欠如や衝動的な行動を特徴とする神経発達症で、子どもの頃に診断されることが多いですが、大人になっても症状が続くことが少なくありません。
研究では、ADHDの人が教育の機会を逃しやすく、失業率が高いことも指摘されており、これらが寿命の短縮に関係している可能性があると考えられています。
また、ADHDと診断された人は、心血管疾患や代謝異常のリスクが高く、健康上の問題を抱えやすいことも分かっています。
これは、食生活の乱れや運動不足、定期的な健康診断を受けないことが影響している可能性があります。
研究チームは、ADHDそのものが寿命を縮めるのではなく、喫煙や飲酒、精神的なストレス、医療へのアクセスの問題など、環境要因が影響していると考えています。
実際、調査対象となったADHDの人々は、一般の人よりも高い割合で喫煙や飲酒の習慣があり、心血管疾患や糖尿病、慢性呼吸器疾患などの健康問題を抱えていることが多かったそうです。
たとえば、ADHDと診断された人のうち、約40%が喫煙者であるのに対し、ADHDでない人の喫煙率は20%程度でした。
また、アルコールの過剰摂取もADHDの人に多く見られ、依存症のリスクが高いことが分かっています。
これらの要因が重なることで、ADHDの人々は健康的な生活を維持するのが難しくなり、結果的に寿命が短くなってしまうのです。
さらに、ADHDの人は医療機関を受診する頻度が低い傾向にあり、健康診断を受ける機会も少ないとされています。
これにより、病気の早期発見や適切な治療が受けられず、病気が進行してしまうことも一因となっています。
この研究の結果は、ADHDの診断と治療の重要性を改めて示しています。
現在、イギリスでは成人のADHD診断を受けるのに数年待たなければならないケースもあり、専門的な医療サービスが不足していると指摘されています。
研究者たちは、早期の診断と適切なサポートが、ADHDの人々の健康を改善し、寿命を延ばすことにつながると述べています。
また、ADHDの人々に対する社会的な理解を深め、教育や雇用の支援を強化することも重要です。
研究者たちは、ADHDの人々が自分に合った仕事を見つけ、安定した生活を送れるようにすることで、健康リスクを減らし、寿命を延ばすことができると指摘しています。
とくに、職場での適応が難しいとされるADHDの人々に対しては、柔軟な働き方の導入や、集中しやすい環境の整備などが求められます。
たとえば、テレワークの導入や、静かな作業スペースの提供などが効果的だと考えられています。
今回の研究は、ADHDの人の寿命が短いという現実を明らかにし、その背景にある健康リスクや社会的課題を浮き彫りにしました。
しかし、適切な支援を受けることで、ADHDの人々はより健康的で充実した人生を送ることができます。
医療機関の体制強化、教育現場での支援、職場での配慮など、社会全体でADHDの人を支える仕組みを作ることが、健康寿命の延伸につながるでしょう。
今後、ADHDに対する理解がさらに深まり、すべての人が自分らしく生きられる社会を目指すことが求められています。
(出典:英ケンブリッジ大学出版局)(画像:たーとるうぃず)
「研究者たちは、ADHDの人々が自分に合った仕事を見つけ、安定した生活を送れるようにすることで、健康リスクを減らし、寿命を延ばすことができると指摘」
違う人を、同じようにしようとするのではなく、違うことをますます発揮できるほうが、人類にとって良いはずです。
(チャーリー)