- 自閉症スペクトラム障害を持つ子どもたちは、行動を想像する能力をどれだけ持っているのか?
- 行動を想像する能力は、自閉症のリハビリテーションにどのように役立つのか?
- 自閉症の子どもたちの能力評価が変わることで、どのような支援策が期待されるのか?
自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子どもたちが、目標を持った行動を頭の中で想像する能力を持っていることが明らかになった研究が注目を集めています。
この研究は、イタリアの複数の大学や医療機関に所属する研究チームによって実施され、ASDに関する「壊れたミラーニューロン仮説(Broken Mirror Hypothesis)」の再考を促すものです。
この研究は、ブレシア大学、ボローニャ大学、ミラノのサンラファエレ大学などの研究者たちによる共同研究として行われました。
研究チームを率いたのは、ミラノのサンラファエレ大学とIRCCSサンラファエレ病院に所属するジョバンニ・ブッチーノです。
また、ブレシア大学やASSTスぺダーリ・チヴィリの小児神経学と精神医学部門に所属する医師や研究者も参加しています。
研究に関与したメンバーの中には、哲学の専門家も含まれており、学際的なアプローチが取られました。
この研究の主な目的は、ASDの子どもたちが行動を想像する能力を持っているかを明らかにし、それがASDの特性や治療にどう関係するのかを探ることでした。
ASDの子どもたちは、社会的な相互作用や他人の行動を理解することが難しいと言われていますが、その背景には、行動を観察したり想像したりする際に関与する「ミラーニューロン」という神経系の障害があるのではないかと考えられています。
この仮説を「壊れたミラーニューロン仮説」と呼びます。
しかし、この仮説にはまだ議論の余地があり、とくにASDの子どもたちが行動を想像する能力(モーターイマジネーション、以下MI)についての研究は十分に進んでいませんでした。
そこで研究チームは、ASDの子どもたちがMIをどの程度できるのかを調べることにしました。
さらに、この研究はMIをASDのリハビリに活用できる可能性についても検討しました。
MIは、実際の動きを伴わずに頭の中で行動を再現する能力で、スポーツや医療分野で効果的なトレーニング手法として使われています。
この方法がASDの子どもたちにも適用できれば、新しい治療アプローチとして期待されます。
研究は、2022年12月から2023年3月にかけて、イタリア・ブレシア市にあるASSTスぺダーリ・チヴィリ病院で実施されました。
対象となったのは、6歳から15歳までのASDの子ども18人と、年齢・性別を一致させたTD(典型的発達)グループの子ども18人です。
ASDの子どもたちは、DSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)に基づいて診断を受けており、知能指数(IQ)が70以上のレベル1(比較的軽度)の子どもたちが選ばれました。
重度のASDや視覚・聴覚障害のある子どもたちは除外されました。
研究では、子どもたちに2種類の課題を実施しました。
一つめは、自己申告によるMI能力を測る質問票「運動イメージ鮮明度質問票-2(VMIQ-2)」です。
この質問票では、子どもたちに自分の動作を第三者の視点(外的イメージ)や自分の視点(内的イメージ)から想像するよう求め、それがどの程度鮮明にできるかを評価しました。
二つめは、新たに設計された実験的な行動想像タスクです。
これは、子どもたちが4秒間の短いビデオクリップを見た後、その行動を自分で想像し、途中で想像を止めて、ビデオの特定のシーンを選ぶ課題です。
ビデオには、日常的な行動(例:手を洗う、物を取るなど)が含まれており、子どもたちはビデオの時間経過を正確に再現することを求められました。
このタスクでは、子どもたちが想像した行動のタイミングと実際のビデオのタイミングがどの程度一致しているかを測定しました。
結果として、ASDとTDの子どもたちは、行動を想像する能力において同等のパフォーマンスを示しました。
とくに、新たなタスクでは、両グループともほぼ同じようなエラーパターンを示し、ASDの子どもたちも目標指向の行動を正確に想像できることが明らかになりました。
興味深いことに、両グループの子どもたちは、想像した行動を実際のビデオよりも少し早く進める傾向がありました。
この結果は、ASDの子どもたちが行動を想像する際に、目標を意識して全体的な流れをスピードアップさせている可能性を示唆しています。
また、VMIQ-2の結果も両グループで大きな差は見られませんでした。
ASDの子どもたちも、自分の視点や第三者の視点から行動を想像する能力を持っていることが示されました。
この研究結果は、ASDに関する「壊れたミラーニューロン仮説」を全面的に支持するものではありませんでした。
ASDの子どもたちが行動を想像できるという事実は、ミラーニューロンがASDの症状のすべてを説明するものではない可能性を示しています。
一部の研究者は、ミラーニューロンの機能そのものではなく、それを制御する脳の別の領域(例:前頭前野)の問題が関与している可能性を指摘しています。
さらに、この研究は、ASDのリハビリテーションに新たな可能性を示唆しています。
MIを活用することで、ASDの子どもたちが日常生活のスキルを向上させるサポートができるかもしれません。
たとえば、行動を頭の中で繰り返し想像することで、実際の行動がよりスムーズに行えるようになる可能性があります。
研究チームは、この結果を基に、今後さらに大規模な研究を進める計画を立てています。
とくに、より重度のASDの子どもたちや、異なる種類の行動を対象とした研究が必要とされています。
今回の研究は、ASDの子どもたちが持つ能力を肯定的に評価し、その特性をより深く理解する重要な一歩となりました。
ASDに対する認識が変わることで、より効果的な支援策やリハビリテーションが生まれることが期待されます。
このような研究が、ASDの子どもたちとその家族に新たな希望をもたらすことを願っています。
(出典:frontiers)(画像:たーとるうぃず)
「子どもたちが持つ能力を肯定的に評価し、その特性をより深く理解する」
それに貢献する、いろいろな研究が進み、広く理解され、実践されることにとても期待しています。
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(チャーリー)