- 不適応的空想に影響を与える要因について、どのように理解すればよいのか?
- 神経多様性を持つ人々が抱える感情的な課題にはどのようなものがあるのか?
- スティグマが個人の自己認識や空想に与える影響とは何か?
”the Journal of Attention Disorders”に掲載された新しい研究によると、神経多様性のある成人における「不適応的空想」と呼ばれる現象に影響を与える重要な要因が明らかになりました。
この研究“The Daydream Spectrum: The Role of Emotional Dysregulation, Internalized Stigma and Self-Esteem in Maladaptive Daydreaming Among Adults With ADHD, ASD, and Double Diagnosis,”では、感情の調整が苦手な「感情調整不全」、内面化されたスティグマ(社会的偏見を自分に適用してしまうこと)、現実逃避、自尊感情の低さが主な要因として挙げられています。
これらの要因は、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、およびその両方の診断を持つ人々の間で異なっていることがわかりました。
この発見は、神経多様性を持つ人々が感情的・社会的な課題に対処するために、鮮やかな空想をどのように利用しているかについての洞察を提供します。
「不適応的空想」は、日常生活に支障をきたすほど過剰で鮮明な空想に没頭してしまう状態を指します。
普通の空想が短時間で済み、生活への影響が少ないのに対し、不適応的空想では自分で制御できなくなり、何時間も空想の中に没頭してしまいます。
この行動は仕事や人間関係といった重要な活動を妨げ、大きなストレスを引き起こすことがあります。
研究チームは、特に神経多様性を持つ人々において、不適応的空想の根本的な要因を探るためにこの研究を実施しました。
過去の研究では、自閉症スペクトラム障害やADHDを持つ人々の間で不適応的空想の発生率が高いことが示唆されていましたが、その理由は明確ではありませんでした。
この研究では、感情調整不全、内面化されたスティグマ、現実逃避、自尊感情が不適応的空想にどのように影響を与えているのかを調べ、それぞれの要因がどのように相互作用しているのかを明らかにしようとしました。
とくに、自閉症、ADHD、そして両方の診断を持つグループ(「AuDHD」と呼ばれる)の間で、これらの要因がどのように異なるかを比較することで、それぞれの課題をより深く理解することを目指しました。
「不適応的空想の研究は比較的新しい分野であり、まだあまり研究されていませんが、研究者や一般の人々、特にオンライン上では徐々に認知が広がっています」
そう、ポーランド・シレジア大学のアンナ・ピシュコフスカは述べています。
「これまで、不適応的空想と自閉症やADHD特性との関連性についての研究はいくつかありましたが、これらの要素を同時に調査した研究はありませんでした。
私たちはこれらの集団における不適応的空想の発生率に大きな違いがあるかどうか、そしてそれぞれの集団がどのように不適応的空想を経験しているのかを調べたかったのです。
とくに、どのような要因が予測因子となるかについての違いを明らかにしたかったのです」
研究者たちは、自閉症スペクトラム障害、ADHD、またはその両方の正式な診断を受けた参加者を募集しました。
参加者は主にポーランド国内の神経多様性支援団体や精神衛生クリニックを通じてオンラインで募集されました。
対象者は、ADHDが139人、自閉症が74人、両方の診断を持つ人が80人でした。
研究の結果、不適応的空想の発生率は3つのグループ全てで似たような割合(37%から46%)を示しました。
しかし、その要因にはグループごとに違いが見られました。
- 感情調整不全: 自閉症の参加者にとって、感情の特定や管理が難しいことが不適応的空想の大きな要因でした。これは、空想が感情的な課題への対処手段として機能している可能性を示しています。
- ADHDの特徴: ADHDの参加者では、感情調整不全のうち特定の側面、例えば感情反応を受け入れることの困難さが、不適応的空想の予測因子となっていました。このことから、感情調整不全の役割が神経発達障害の種類によって異なることが示されました。
- 現実逃避: 特に自己抑制型の現実逃避は、全てのグループにおいて不適応的空想の一貫した要因でした。これは、不適応的空想がネガティブな感情や困難な現実を避ける手段として機能している可能性を支持します。
- 内面化されたスティグマ: 社会的な偏見による孤立感や自己否定感は、特に自閉症の人々において不適応的空想と強く関連していました。これらの結果は、神経多様性を持つ人々が抱える社会的・感情的な負担を浮き彫りにし、彼らが空想の世界に逃げ込む理由を説明しています。
- 自尊感情: 自閉症の参加者では、自己能力感の低さが不適応的空想と関連していました。一方で、ADHDの参加者では自己への好感度が高いほど空想が少ない傾向が見られました。
とくに注目すべきは、両方の診断を持つ人々が独自のパターンを示したことです。
このグループでは、感情調整不全、内面化されたスティグマ、自己抑制型の現実逃避が他のグループよりも高い水準で見られました。
このことは、両方の症状の相互作用が不適応的空想を引き起こす要因を悪化させている可能性を示唆しています。
「不適応的空想は注意力や感情の調整に関連しており、不快な現実から逃避する手段としても考えられます。
とくに神経多様性のある人々にとって、この現象はスティグマや差別によってさらに深刻化する可能性があります。
このような状況では、否定的なステレオタイプを自分自身に適用してしまう内面化されたスティグマが現実逃避の動機となり得ます」
研究者たちは、サンプルサイズの限界や参加者募集の偏りといった課題にも言及しました。
今後の研究では、より大規模で多様なサンプルを用いることや、不適応的空想の内容や機能についてさらに詳しく調査することが求められます。
また、感情調整訓練やスティグマ削減プログラムなどの介入策を探ることも、不適応的空想の管理に役立つと期待されています。
(出典:PsyPost)(画像:たーとるうぃず)
「不快な現実から逃避する手段」
そんな手段をなるべく使わなくて良い現実世界に少しでもなることを願うばかりです。
(チャーリー)