- ADHDの診断が遅れる原因は何ですか?
- 男の子と女の子で診断の影響を与える要因はどのように異なりますか?
- 診断を受けていない子どもにおいて、どのような症状が見られますか?
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、子どもから大人まで多くの人々に影響を与える発達障害です。
集中力の欠如や多動性、衝動的な行動といった症状が特徴ですが、その症状は個人によって大きく異なります。
イギリスのカーディフ大学を中心とする研究チームが、「なぜADHDの診断が遅れるのか」「診断が見逃される背景にはどんな要因があるのか」を探る新たな研究を行い、興味深い結果を発表しました。
英カーディフ大学、スウェーデンのカロリンスカ研究所、英ノッティンガム大学、英ケンブリッジ大学英スウォンジー大学らのメンバーによる研究です。
研究チームは、イギリスで行われた大規模な長期調査「ミレニアム・コホート・スタディ」のデータを活用しました。
この調査では、2000年から2002年に生まれた約19,000人の子どもたちを追跡し、健康、発達、家庭環境などのデータを収集しています。
その中から、診断済みのADHDを持つ子どもと、ADHDの症状が見られるものの診断を受けていない子ども約1万人を対象に分析を行いました。
ADHDの診断タイミングに注目し、以下の3つのグループに分けて調査しました:
- 早期診断: 5~7歳までに診断された子どもたち
- 遅れた診断: 11~14歳で診断された子どもたち
- 未診断: 明らかにADHDの症状があるが、診断を受けていない子どもたち
その研究結果によると、早期に診断された子どもは、感情の不安定さや行動の問題がとくに目立つ傾向がありました。
これに対し、遅れて診断された子どもたちは、比較的認知能力が高く、社会的なスキルが良好であることが多いという結果が出ました。
これらの子どもたちは、自分の症状をうまく隠すことができたり、周囲から「問題がない」と見なされやすいのが原因と考えられます。
ADHDの症状が見られるにもかかわらず診断を受けていない子どもたちは、診断を受けた子どもたちに比べて、身体活動が活発であったり、感情の不安定さがあまり見られなかったりする傾向がありました。
研究チームは、身体活動がADHDの症状を軽減し、診断を遅らせる要因になる可能性を指摘しています。
また、親がうつや不安症を抱えている場合、子どもが診断される可能性が高いという結果も得られました。
男の子と女の子では、診断に影響を与える要因に違いがあることも分かりました。とくに、男の子では感情の不安定さが診断につながりやすい一方、女の子ではその影響がほとんど見られませんでした。
この背景には、ADHDが「男の子に多い」という従来の偏見が影響している可能性があります。
また、女の子はADHDの診断基準で重視されない「注意力不足」や「静かな多動」といった症状を持つことが多く、これが診断を遅らせる一因とも考えられています。
この研究は、ADHDの診断が遅れる、または見逃される背景に多くの要因が関与していることを示しています。
研究チームは、以下のような提言を行っています。
- ADHDの症状が見られる場合、認知能力や社会的スキルの高さに関わらず、すべての子どもが適切な評価を受けるべきです。
- 診断基準に含まれていない「感情の不安定さ」などの症状も考慮することで、とくに女の子の診断精度を向上させるべきです。
- 身体活動が活発な子どもや、行動の問題が目立たない子どもも診断の対象とする必要があります。
この研究は、ADHDの診断や治療の公平性を高める重要な一歩といえます。
また、学校や家庭でのサポート体制を整えるための指針ともなるでしょう。
(出典:Research Gate)(画像:たーとるうぃず)
支援が必要な方に適切な支援がなされるためには、適切な診断が必要です。
見過ごされることがないよう、こうした研究と提言は重要です。
(チャーリー)