- 自閉症スペクトラム障害(ASD)の早期診断にはどのような方法があるのか?
- AI技術はASDの診断にどのように役立つのか?
- どのようにして家庭や保育園でASDの情報を得られるのか?
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難さや繰り返し行動など、多様な特性を持つ発達障害です。
米国では約36人に1人の割合で診断される非常に一般的な障害ですが、その診断は現在、行動観察や保護者との面談に大きく依存しています。
そのため、早期発見や診断の客観性に課題が残っていました。
こうした現状を改善するため、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の「ユニス・ケネディ・シュライバー国立小児保健発達研究所」のアミール・ガンジバクチェ博士を中心とする研究チームが、自閉症診断に新たなアプローチを提案しました。
彼らは、子どもの運動特性をAI(人工知能)の一種であるディープラーニングを活用して解析することで、ASDの診断プロセスを進化させようとしています。
ASDの診断には現在、行動観察や面接が中心であり、診断の客観性を裏付けるバイオマーカー(生物学的指標)が存在しません。
また、ASDの社会的コミュニケーションの困難さは通常、幼児期後半から明確になり始めるため、診断が遅れるケースも多くあります。
しかし、研究者たちは、ASDの特徴が運動機能にも現れることに注目しました。
たとえば、目標に向かって物をつかんで移動させる動き(到達・把持運動)が典型的な発達をする子どもとは異なるパターンを示すことが知られています。
今回の研究は、ASDの子どもたちが示すこうした運動の違いを解析し、それをAI技術を使って診断や早期発見に役立てる方法を探ることを目的としています。
とくに、手軽なセンサー技術を用いることで、実用性の高い診断ツールを目指しています。
研究チームは、41名の学齢期の子どもたちを対象に実験を行いました。
このうち26名はASDの診断を受けており、15名は典型的な発達を示す子どもたちでした。
平均年齢は両グループとも10歳程度です。
実験では、子どもの手首に小型の慣性センサー(IMU)を装着し、ブロックを取って別の場所に置くという単純な動作を繰り返すタスクを実施。
動作中の腕の動きを3次元的に計測し、動作開始までの時間や速度、加速度、動作のスムーズさなど、12の運動指標を記録しました。
そのデータを基に、AI技術を活用してASDの子どもたちを分類するモデルを構築しました。
結果として、ASDの子どもたちは以下のような特徴を示しました:
1.動作開始までの時間が長い
ASDの子どもたちは動作を始めるまでに時間がかかる傾向が見られ、これは計画力や先行的な動作制御(フィードフォワード制御)の課題を反映していると考えられます。
2.動作中の速度や加速度が大きい
動作そのものは速い場合が多く、目標地点を過ぎてしまう(オーバーシュート)ことが多く見られました。
3.動きのスムーズさが低い
動作中に速度や方向が頻繁に変化し、いわゆる「ギクシャクした」動きが特徴的でした。
4.AIによる分類精度は78%
収集した運動データをAIで解析したところ、ASDと通常発達の子どもを78%の精度で分類することができました。
これらの結果は、運動データを基にASDを診断する可能性を示しており、特に小児期の早期発見において有用であると考えられます。
今回の研究が進展すれば、ASDの診断がより早期に、かつ客観的に行えるようになる可能性があります。
たとえば、幼児期における「気になる行動」をデータとして解析することで、まだASDの診断基準を満たさない段階で支援を始めることができます。
これにより、親御さんが早い段階で必要な情報や支援を得られるようになり、子どもの発達において重要な介入のタイミングを逃すリスクが低減します。
さらに、腕の動きだけを測定するという簡便な方法であるため、病院やクリニックだけでなく、保育園や家庭でも気軽に導入できる可能性があります。
これは、親や教育者が子どもの発達を見守る上で非常に役立つツールとなるでしょう。
研究チームは、さらなる検証が必要であることを認めています。
今回の研究では、比較的小規模なサンプル数で行われたため、今後はより大規模なデータを収集し、他の発達障害(発達性協調運動障害など)との違いを明確にする必要があります。
また、乳児や幼児に適用できるように技術を改良することも課題の一つです。
加えて、AIモデル自体の改良も予定されています。
現在のモデルでは、計測データを前処理し、解析可能な形に整える必要がありますが、将来的には生データを直接AIに入力できるようにすることで、より高い精度を目指します。
アミール・ガンジバクチェ博士らによる今回の研究は、自閉症の診断に新たな光を当てる可能性を秘めています。
運動解析とAI技術を組み合わせることで、診断の客観性が向上し、より多くの子どもたちが早期に適切な支援を受けられる日が近いかもしれません。
保護者にとっても、この新しい診断法は大きな希望となるでしょう。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
「ASDの診断には現在、行動観察や面接が中心」
そのために難しく、早期診断ができないこともあります。
こうした研究によって、確実にできるようになることを期待します。
(チャーリー)