- どのように知的発達障害を持つ子どもたちの共感能力を向上させることができるのか?
- 認知行動療法を利用したスポーツを通じて、社会的スキルや感情認識を強化するには何が必要か?
- この研究のアプローチは、他の障害を持つ子どもたちにも適用可能か?
中国・中央民族大学体育学院に所属するドゥアン・グアンティンらの研究チームが、知的発達障害(IDD)を持つ子どもたちの共感能力を向上させるための新しい方法を開発しました。
この研究では、認知行動療法(CBT)に基づくスポーツゲームを利用することで、子どもたちの社会的スキルや感情認識能力を高める可能性を調査しました。
CBTとは、認知(思考)と行動の関連性に焦点を当て、否定的な考え方や行動パターンを特定し、それを肯定的で実用的なものに変えることを目指すものです。
今回の研究は、特別支援を必要とする子どもたちが、インクルーシブ教育環境により良く適応できるよう支援することを目的としています。
知的発達障害は、認知機能や適応行動の障害を特徴とし、多くの子どもが社会的な場面で困難を経験します。
感情を理解し表現する能力が制限されるため、他者との交流が難しくなり、孤立しがちです。
とくに、学校などの集団生活では、仲間とのコミュニケーションや協力が重要となりますが、これがうまくできないことが課題とされています。このような背景から、研究チームは、認知行動療法をスポーツゲームに応用するという新しいアプローチを試みました。
研究では、7歳から8歳の知的発達障害を持つ子ども31人を対象としました。
このうち17人を実験グループ、19人を対照グループにランダムに分け、実験グループにのみCBTを基盤としたスポーツゲームのプログラムを実施しました。
一方で、両グループとも同じ頻度と内容の通常の体育活動にも参加しました。
実験グループでは、18週間にわたるプログラムが行われ、週4回、1回あたり50分のセッションで構成されていました。
各セッションは、子どもたちにとって馴染みのある学校のダンススタジオで実施され、主導講師と2〜3名の補助スタッフが指導にあたりました。
プログラムは、基礎トレーニングと発展トレーニングの2つの段階に分けられました。
基礎トレーニングでは、基本的な感情の認識や表現を学ぶことに重点を置きました。
たとえば、喜びや悲しみ、怒り、恐怖といった感情を理解し、それを模倣するゲームが含まれました。
また、自分自身の感情を表現する練習や、社会的な物語を通じて他者の感情を認識する活動も行われました。
一方、発展トレーニングでは、協力行動や助け合いの精神を育むゲームが組み込まれました。
具体例として、「悪い狼と戦おう」と題したチーム協力型のゲームや、仲間と共にボールを投げる競技がありました。
また、順番を守るルールや集団行動の基礎を学ぶための活動も含まれています。
効果の測定には、「グリフィス共感尺度(GEM)」と呼ばれるアンケートが使用されました。
この尺度は、認知的共感(他者の感情や視点を理解する能力)と感情的共感(他者の感情を共感的に体験する能力)の両方を測定します。
プログラム前後で両グループの子どもたちにアンケートを実施した結果、実験グループの子どもたちは、プログラム終了後に共感能力が大幅に向上していることがわかりました。
とくに、認知的共感の向上が顕著であり、他者の感情を理解し適切に反応する能力が高まっていました。
一方、対照グループでは、このような顕著な変化は見られませんでした。
この研究の重要な発見は、CBTを活用したスポーツゲームが、知的発達障害を持つ子どもたちの共感能力を高めるための有効な手段であることです。
研究者たちは、このプログラムが子どもたちの感情認識能力を強化し、結果として彼らの社会的スキルの向上に寄与すると結論づけています。
さらに、このアプローチは、子どもたちが集団生活によりスムーズに溶け込み、他者と積極的に関わる自信を持つための基盤を提供します。
ただし、研究にはいくつかの限界も指摘されています。たとえば、サンプルサイズが比較的小規模であり、研究期間が短かったため、長期的な効果の追跡が課題として挙げられています。
また、家庭や学校の連携が十分ではなく、社会全体での包括的な支援体制が必要とされています。
研究チームは今後、より大規模なサンプルを用いた研究や、家族と学校の連携を強化したプログラムの開発を目指しています。
この研究は、知的発達障害を持つ子どもたちの共感能力を育成するだけでなく、インクルーシブ教育の実現に向けた具体的な一歩として注目されています。
特別な支援を必要とする子どもたちが、健常児と共に成長し、社会に貢献できる未来を築くための基盤となるでしょう。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
「共感能力を高める」
知的発達障害を持つ子どもたちのふだんの困難の軽減につながるはずです。
効果的な療育につながることを期待します。
(チャーリー)