- 自閉症スペクトラム障害を持つ子どもは「かわいい刺激」にどのように反応するのか?
- 重度のASDの子どもは、社会的刺激に対してどのような興味を示すのか?
- この研究の結果をどのように介入方法や治療法に生かすことができるのか?
スイスの研究チームが、自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちが「かわいい」と感じる刺激にどのように反応するのかを詳細に調査しました。
この研究は、スイスのフリブール大学やジュネーブ大学に所属する心理学者や特別支援教育の研究者たちによって行われました。
研究を主導したのは、フリブール大学のアレクサンドラ・ザハリアとアンドレア・サムソンで、その他にもジュネーブ大学の専門家らが協力しました。
研究の焦点となったのは、「ベビー・スキーマ」と呼ばれる概念です。
これは、丸い顔、大きな目、ふっくらとした頬といった特徴が、人間に「かわいい」と感じさせる効果を持つというものです。
ベビー・スキーマは、自然に私たちの関心を引きつけ、保護行動や社会的なつながりを促進することが知られています。
赤ちゃんや動物にこの特徴が多く見られるため、こうした「かわいい刺激」は私たちの脳にポジティブな感情を引き起こし、社会的な交流や感情の共有を助けると考えられています。
自閉症スペクトラム障害を持つ人々は、一般的に社会的刺激への反応が異なることが知られており、これがASDの子どもたちにどのように現れるかを明らかにすることが今回の研究の目的でした。
この研究では、スイス国内で1歳から6歳までの子ども94人を対象にしました。
参加者のうち31人は定型発達(非ASD)の子どもで、63人はASDと診断された子どもでした。
ASDの子どもたちは、症状の重症度に応じてさらに「軽度から中程度グループ」と「重度グループ」に分けられました。
この研究では、視線追跡技術(アイ・トラッキング)を活用し、子どもたちが「かわいい」とされる刺激(赤ちゃんや動物)にどの程度の関心を示すかを測定しました。
以下の4種類の画像が使用されました。
- 赤ちゃん(かわいい刺激、人間)
- 動物(かわいい刺激、犬と猫)
- 大人(非かわいい刺激、人間)
- 日常の無機物(非かわいい刺激、家具や道具)
これらの画像は、過去の研究やオンラインで利用可能なデータベースから選定されました。
赤ちゃんや大人の画像は中立的な表情をしており、感情的なバイアスが視線のパターンに影響を与えないように工夫されています。
また、無機物の画像には、家具やキッチン用品といったASDの子どもたちにとって特定の興味を引きにくいものが選ばれました。
子どもたちは、アイ・トラッキングデバイスに接続されたモニターの前に座り、約60cm離れた距離から画面を観察しました。
子どもたちが特定の画像にどの程度注視するかを注視時間(各画像に費やした視線の割合)、平均注視時間(各画像への注視が続いた平均時間)、最初の注視までの時間(特定の画像に最初に視線を向けるまでの時間)で測りました。
研究の結果、定型発達の子どもたちや軽度〜中程度のASDの子どもたちは、赤ちゃんや動物といった「かわいい刺激」に多くの注目を向ける傾向があることがわかりました。
一方、重度のASDの子どもたちは、この「かわいい刺激」に対する注目が他のグループに比べて顕著に少ないことが示されました。
また、ASDの症状が重い子どもほど赤ちゃんや動物への関心が薄れる傾向があり、社会的スキルと視線のパターンに関連性があることも確認されました。
このように、アイ・トラッキング技術を用いた詳細な研究手法によって、ASDの子どもたちが社会的刺激に対してどのように反応するかを明らかにすることができました。この結果は、ASDの子どもたちのための新しい介入方法や治療法の設計に役立つと期待されています。
研究成果は学術誌「Journal of Autism and Developmental Disorders」に掲載され、オープンアクセスで公開されています。
この研究は、今後、自閉症の子どもたちの社会的スキルの支援に関するさらなる研究と応用が期待されています。
(出典:Journal of Autism and Developmental Disorders)(画像:たーとるうぃず)
重度自閉症のうちの子について言えば、「かわいい」からと言って興味を持つことは、たしかにありませんでした。
それよりも、手触りや色や輝きの多さに惹かれるという感じがします。
自閉症の子の父は言う。「何に興味を持っているか理解すること」
(チャーリー)