- 自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人も体の姿勢から感情を理解できるのはなぜですか?
- 日常生活で感情を読み取る際、体の姿勢をどのように活用すればよいですか?
- 教育やセラピーでASDのある人の感情理解を支援する具体的な方法は何ですか?
英カーディフ大学のアビゲイル・フィンと研究チームは、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ成人が他者の表情を読み取る際に、体の姿勢がどのような役割を果たすのかを調査しました。
この研究は、ASDのある人が感情理解において体の姿勢に強く依存することを示し、社会的な相互理解を支援する新たな方法に示唆を与えるものです。
研究の背景として、ASDのある人々は表情のみから感情を判断するのが難しいことが既に報告されていますが、体の姿勢が感情理解に与える影響については十分な研究が行われていませんでした。
研究では、ASDのある人と一般成人の両方を対象にしたオンライン実験を実施しました。
参加者は、顔の表情のみを見て感情を判断するタスク(「顔のみ」タスク)と、体の姿勢と一緒に表情を判断するタスク(「体込み」タスク)の2種類に取り組みました。
この研究の最終的な分析はASDのある44名と非ASDの53名で行われました。
顔の表情と体の姿勢には、怒りと嫌悪の2つの感情を表現するものを用いました。
表情は4人の白人男性の怒り・嫌悪表情が使用され、これをモーフィングソフトウェアで10%ずつの増分で変化させ、合計9段階の表情を生成しました。
体の姿勢も同様に、怒りから嫌悪にかけて段階的に変化するポーズを作成するため、モーションキャプチャースーツとUnity 3Dゲームエンジンを使って記録され、同じく9段階に調整されました。
各タスクでは、顔のみや体込みの刺激が1.5秒間表示され、1秒経過後から回答が可能になりました。
顔のみタスクでは顔の表情だけを見て「怒り」または「嫌悪」を選択し、体込みタスクでは体の姿勢も含めて同じく感情を判断します。
各刺激はランダム順で複数回表示され、合計で数百回の判断が行われることで、正確なデータ収集が可能となりました。
参加者の回答から得られたデータは、心理物理学的な解析方法を使って、感情の判別精度や体の姿勢が表情判断に与える影響を定量化しました。
とくに、顔の表情や体の姿勢の識別能力を精度で示す「スロープパラメータ」と、体の姿勢が表情判断に与える影響を示す「主観的等価点(PSE)」という指標を用いました。
スロープパラメータは、より急な傾斜が高い識別能力を示し、PSEの差は体の姿勢の影響を表します。
解析の結果、ASDのある人は、顔のみタスクにおいて一般の人に比べて表情の識別精度が低いことが明らかになりました。
また、体込みタスクでは、ASDのある人が体の姿勢に大きな影響を受ける傾向が確認されました。
怒りの姿勢と組み合わせた表情では怒りとして認識しやすく、嫌悪の姿勢では嫌悪として認識されやすいという結果です。
このような結果から、ASDのある人は感情を判断する際に顔よりも体の姿勢からの情報を強く参照することが示唆されました。
研究結果は、ASDのある人が他者の感情を判断する際に、体の姿勢が重要な役割を果たすことを示しています。
とくに、顔だけでの表情認識が困難な場合、体の姿勢が感情理解を補完する効果があることがわかりました。
ASDのある人々にとっては、顔の表情が不明確な場合、体の姿勢が相対的に信頼性の高い情報となり、これに頼ることで感情判断が補完されると考えられます。
今回の研究は、ASDのある人々に対する新しいコミュニケーション支援の可能性を示唆しています。
たとえば、教育やセラピーで、表情と体の姿勢の両方を取り入れたトレーニングを行うことで、ASDのある人々が他者の感情をより正確に理解できるようにする支援が考えられます。
また、実際の日常生活でも、感情表現が多様な方法で行われる場面でASDのある人々が適切に対応できるよう、体の姿勢や全体的な動作から感情を読み取るスキルを養うことが重要です。
今後、研究チームはさらに広範な感情や、女性の表情と姿勢、年齢層の異なる対象者を含めて調査を進める予定です。
感情理解において体の姿勢が果たす役割や、ASDのある人々がどのように他者の感情を把握しているのかについて、より多くの理解が得られることが期待されています。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
外国の方は、体も大きく使って感情表現をします。
日本人は、比べるとそうでもないので、日本ではより難しくなっているかもしれません。
家庭や学校では意識して、大げさに体を使って表現するとよさそうです。
(チャーリー)