- なぜ自閉症スペクトラム障害(ASD)に対する偏見が根強く残っているのか?
- YouTubeはASDについての正しい理解を広めるのにどのように役立つのか?
- ASDに関する情報の多様性はどのように社会の認識に影響を与えるのか?
カナダ・オタワ大学のシュワーブ・バコンボ、ポーレット・エワレフォ、アン・ティー・エム・コンケル教授らは、YouTubeを通じて自閉症スペクトラム障害(ASD)に対する社会の認識がどのように形成されるかを探る研究を発表しました。
ASDに対する正しい理解が社会全体に広まることは、ASDのある人々やその家族にとって大切であり、この研究はSNSがその役割をどう果たしているかを検討しています。
研究の背景として、ASDは、幼少期から社会的なコミュニケーションや行動に独特の特徴が現れる神経発達障害で、知的障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)を伴うこともあります。
ASDは「スペクトラム(連続体)」と表現されるように、症状の程度や特性は人によって大きく異なり、軽度から重度まで様々です。
しかし、その多様性にもかかわらず、社会ではASDが単一の特徴として認識されがちで、とくに「感情を理解できない」「知的に遅れている」などといった偏見が根強く残っています。
この研究では、YouTubeというプラットフォームがASDについての正しい理解を広める一助となるのか、あるいは逆に誤解を助長するのか、その影響を明らかにしようとしています。
研究チームは、ASDに関連する動画とコメントを収集するため、2019年と2022年にYouTubeで検索を行いました。
検索には「自閉症」「自閉症スペクトラム障害」「アスペルガー症候群」などの一般的なキーワードを使用し、検索結果の中から最初の10件で視聴者数が多い動画を対象にしました。
選ばれた動画には、ASDに関する情報や体験談が含まれ、コメント欄が有効であるものとしました。
2019年には50本の動画を、2022年には9本の動画を対象にし、合計で680件のコメントを分析しました。
また、分析の際には各動画やコメントのテーマと感情(ポジティブ、ネガティブ、混合)についても評価しました。
分析の結果、ASD関連の動画には「教育的情報提供」「個人の体験談」「日常生活の描写」という3つの主要テーマがあることがわかりました。
とくに多かったのは「教育的情報提供」で、ASDの特徴や原因、診断方法、支援策に関する内容が中心でした。
しかし、医療や教育の専門家が出演している動画は全体の22%にとどまり、多くはASDの当事者やその家族が個人の視点から語っているものでした。
これにより、視聴者にとっては親しみやすい一方で、正確な医療情報が不足している可能性が指摘されました。
一方、コメント欄では視聴者がASDに関する自身や家族の体験をシェアする傾向が強くみられました。
たとえば、「自分もASDで、周りから偏見を持たれている」「学校でいじめを受けている」といった具体的な悩みが多く、多くのコメントが共感や励ましの言葉にあふれていました。
しかし、ASDの重い症状を扱った動画や、ASDに対する誤解が含まれた動画には、ネガティブなコメントが多く寄せられ、とくにASDの重度な症状に関する内容に対しては否定的な反応が強い傾向が見られました。
研究では、ASDに対する誤解や偏見が依然として多いことも明らかになりました。
たとえば、「ASDの人は感情が分からない」「ASDは知的な障害である」「ASDは小児期にしか現れない」といったステレオタイプが根強く残っています。
このような偏見が、ASDを持つ人々が社会で理解されることや適切な支援を受けることを妨げています。
さらに、動画の中で取り上げられる人種や性別に偏りがあることも、ASDに対する誤解を助長している可能性があると研究チームは指摘しています。
実際、2019年の動画では、ASDの人物として白人の男性が多く登場しており、これが「ASDは白人に多い障害」という誤解を助長している可能性があります。
ASDの発症は人種や性別によらないとされていますが、マイノリティに対する診断の遅れや誤診が背景にあると考えられます。
YouTubeはASDの認知度を高めるための重要なプラットフォームであり、多くの視聴者がASDに関する知識を得るために利用しています。
このプラットフォームで情報が広まることは、ASDについての理解を深める一方で、誤った情報が広がるリスクも伴います。
教育的な動画の中には、視聴者がASDの診断や支援に役立つ具体的な情報を提供するものもあり、こうした動画がASDの早期発見や適切な支援につながる可能性があります。
一方で、研究チームは、YouTubeの匿名性がASDに対する偏見の表出を助長しているとも指摘しています。
匿名であることから、視聴者は自身のASDに対する偏見や否定的な感情を率直にコメントに表すことができ、とくにASDの重度な症状を扱った動画には厳しい意見が多く寄せられていました。
このことは、YouTubeがASDに関する多様な意見が集まる場である一方で、偏見や誤解を広める温床にもなりうることを示しています。
この研究は、YouTubeがASDに関する教育や当事者同士の支援の場として大きな可能性を持つ一方で、視聴者に対してASDについてのバランスの取れた理解を提供する工夫が必要であると提言しています。
とくに、医療専門家の関与を増やし、エビデンスに基づいた情報提供が行われることが望まれます。
また、ASDに関する動画が多様な人種や性別を取り上げることで、ASDに関する誤解を防ぎ、誰もがASDについての理解を深める機会を得られるようにすることが求められます。
研究チームはさらに、医療従事者や教育機関がYouTubeなどのSNSを通じて信頼性の高い情報を発信し、ASDの早期発見や適切な支援につながることを期待しています。
(出典:International Journal of Environmental Research and Public Health )(画像:たーとるうぃず)
この研究はカナダのものですが、日本のYouTube、そしてTikTokでも、同様な傾向かと思います。
TikTokが自閉症の人を大きく助けている。しかし注意も必要
(チャーリー)