
- 発達障害のある子どもは、注意力や実行機能の発達にどのような具体的な遅れが見られるのか?
- 発達障害における注意力や実行機能の遅れに、種類ごとの違いはどのように表れるのか?
- 早期の支援が発達に与える影響は、どのような形で見られるのか?
豪シドニー大学のブレイン&マインドセンターに所属するアダム・ガステラの研究チームが行った新たな研究によると、発達障害を持つ幼児たちは、注意力や実行機能(計画を立てたり、情報を覚えたり、柔軟に考える力)に遅れが見られることが明らかになりました。
研究チームは0~5歳までの幼児を対象に、発達障害がある子どもと、発達が標準的な子どもとで注意力や実行機能にどのような違いがあるかを比較しました。
この比較は、とくに幼児期に発達障害が認知機能にどのような影響を与えるのかを探る目的で行われました。
この研究は、発達障害といっても自閉症やADHD(注意欠陥・多動性障害)、学習障害、コミュニケーション障害など多岐にわたるため、それらが共通して注意力や実行機能にどのような影響を及ぼすかについても分析しています。
研究チームは、注意力と実行機能を「幼児期の初期発達にとって重要な基盤」と捉えており、これらが成長の初期段階から適切に発達しない場合、その後の生活全般にわたる能力に影響を及ぼす可能性があると考えています。
研究チームは、約4300件の関連研究を調査し、その中から約111件の信頼性の高い研究を選出しました。
このメタ分析では、注意力や実行機能における発達障害の影響を比較し、分析の結果、発達障害のある幼児は同じ年齢の健常児と比べて、注意力および実行機能において平均的に遅れがあることがわかりました。
とくに、年齢が上がるにつれてこの遅れが顕著になる傾向が見られ、乳児期には目立たなかった遅れが、1歳を過ぎた頃から少しずつ現れるようになります。
2歳を迎える幼児期、さらに就学前の3歳から5歳の時期に、注意力と実行機能の遅れが一層顕著になることが示されました。
注意力とは、周囲の変化に気づいたり、自分の関心を長時間持続する力を指し、幼児期にこれが十分に育まれないと、生活のさまざまな場面で周りの状況に反応したり、目標に向けて集中することが難しくなる可能性があります。
実行機能は、将来的な計画を立てる力や、何かを達成するために手順を守ったりする能力で、情報を記憶したり、感情を抑制したりする力も含まれます。
実行機能が未熟な子どもは、思い通りに行動をコントロールするのが難しくなることが多く、対人関係や学業の場面で課題を抱えるリスクが高くなります。
とくに今回の研究では、発達障害の種類によっても注意力や実行機能の遅れに差が見られることがわかりました。
ADHDやコミュニケーション障害を持つ子どもたちは、他の発達障害と比較しても注意力に大きな遅れが見られ、これはこれまでの研究でも確認されてきたADHDの特徴に一致しています。
また、言語発達が遅れる傾向があるコミュニケーション障害の子どもたちでも、注意力に問題があるとされ、この傾向が研究によって再確認されました。
一方、自閉症スペクトラム障害の子どもたちには注意力の遅れが統計的には有意に確認されなかったものの、家族に自閉症傾向がある高リスクの幼児では注意力のわずかな遅れが見られる結果となりました。
この高リスク群には、通常の発達の子どもに比べてADHDや学習障害などを発症するリスクが高く、注意力の遅れが他の発達障害の指標となり得る可能性が指摘されています。
研究チームは、「こうした注意力や実行機能の遅れは発達障害の子どもたちにとって共通する課題であり、早期に支援を始めることで成長の土台を強化し、将来的な課題を減らすことができる可能性がある」と述べています。
この研究は、注意力や実行機能の遅れを改善することで、発達障害のある子どもたちが生活の場面でより適応しやすくなる可能性を示唆しています。
とくに発達障害は就学前の時期に介入することで、脳の神経が最も成長するこの時期に適切な対応を行える可能性があります。
さらに、今回の研究で用いられたデータ分析方法には、両親や教師からの報告をもとにした評価と、実際のパフォーマンスに基づく測定が含まれています。
これらの分析によると、家庭や保育所などの生活環境での観察に基づいた評価の方が、実際の課題遂行能力のテストよりも、遅れをより大きく検出することができました。これには、生活環境の中で注意力や実行機能を発揮することの難しさが関係していると考えられます。
また、注意力の遅れに関する生理的測定(脳の電気活動など)は今回の研究データには少ないため、今後は脳の構造や機能と発達障害との関係を詳しく調べることも必要とされます。
今回の研究によって、発達障害のある幼児の脳は、とくに前頭前野と呼ばれる部分が異なる構造や活動パターンを示すことがわかってきました。
前頭前野は計画や意思決定、感情のコントロールに重要な役割を果たしており、この部分が他の脳領域とどう連携するかが、注意力や実行機能に影響を与えることが示唆されています。
この違いが2歳以降に顕著になり、発達障害のある子どもたちは通常の発達と異なる認知の仕組みを持つ可能性があると考えられています。
この研究結果は、発達障害があるかどうかに関係なく、すべての幼児に対する注意力と実行機能の発達支援の重要性を示唆しています。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
うちの子について言えば、小さな頃は何かに注意したり関心をもつことが本当にありませんでした。
簡単に言えば、私が何をしても反応はうすく、ぼーっとしている感じ。
注意や関心がなければ、発達に困難をかかえることはすぐに想像できるはずです。
「注意力と実行機能の発達支援の重要性」
はそのとおりだと思います。
(チャーリー)