
- Y染色体が多いことが自閉症スペクトラム障害のリスクにどのように影響しますか?
- 自閉症スペクトラム障害の性差について、どのように理解を深めれば良いですか?
- 性染色体の数が神経発達に与える影響を認識することで、どのような支援が可能になるか?
米国のガイジンガー研究所とフロリダ大学医科大学院の研究者たちが、自閉症スペクトラム障害(ASD)の発症リスクにおける性染色体の数の影響を詳細に調査した研究を発表しました。
自閉症は社会的コミュニケーションの障害や、限られた行動・興味のパターンが特徴の神経発達障害で、男性に多く見られることが知られています。
これまで、男性のASD発症率が女性の約4倍高い理由として「女性保護効果」という仮説が主流でしたが、この仮説では十分に説明できない点も多く残されていました。
そこで、性染色体の異常に着目して、ASDリスクとの関連を探るための大規模な研究が行われました。
この研究では、性染色体数異常(SCA)と呼ばれる、通常の46本の染色体セットに対してX染色体やY染色体が1本多い、または少ない状態を持つ人々を対象とし、ASDとの関連を詳しく調べました。
具体的には、X染色体やY染色体が余分に1本多い「47,XXY」や「47,XYY」、あるいはX染色体が1本少ない「45,X」といった染色体構成を持つ人々を研究対象にしました。
性染色体数異常は、新生児の約450人に1人の割合で見られる比較的よくある遺伝的状態ですが、この研究では特にASDのリスクに注目しています。
これまでの研究の多くは、診療を受けた患者のデータに依存していたため、重度の症状を持つ人が多く含まれ、ASDリスクが過大評価される可能性がありました。
しかし、今回の研究は、より大規模なコホートデータを使用し、一般集団におけるSCAとASDリスクとの関係を精密に分析しました。
研究チームは、米国の「SPARK」という自閉症研究プロジェクトから集めた25,085人のASD患者データと、ペンシルベニア州を拠点とする「マイコード」コホートから得られた152,331人のコントロールデータを統合し、ASDリスクと性染色体数異常の関係を解析しました。
SPARKは、自閉症の診断を受けたアメリカの子どもたちのデータを集めたプロジェクトで、マイコードは、成人を中心とした医療データベースです。
研究の結果、Y染色体が1本多い「47,XYY」の男性は、ASDリスクが通常の染色体構成を持つ男性に比べて2.4倍高いことが示されました。
この「エクストラY効果」と呼ばれる現象は、Y染色体が余分にあることがASDリスクに強く影響することを示唆しています。
一方で、X染色体が余分に1本ある「47,XXY」の男性や「47,XXX」の女性では、ASDリスクはそれほど高くならないことが確認されました。
つまり、「エクストラX効果」として、X染色体が増えてもASDリスクに大きな影響を与えない可能性が示されました。
さらに、X染色体が1本少ない「45,X」の女性では、ASDリスクが通常の染色体を持つ女性に比べて6.4倍も高いことが分かりました。
この「性染色体ハプロ不全」という現象は、性染色体が不足していることがASDリスクに強く影響することを示しています。
この研究は、Y染色体がASDリスクにおいて特に重要な役割を果たしていることを強調しており、これまで主に女性保護効果という仮説で説明されていた男性の自閉症発症率の高さに、新たな遺伝的視点を提供しています。
具体的には、Y染色体に存在する特定の遺伝子がASDリスクを高める可能性が示唆されており、今後の研究ではこれらのY染色体関連遺伝子に注目が集まるでしょう。
この研究はまた、既存の「グリーンモデル」と呼ばれる、X染色体とY染色体の数がASDリスクにどのように影響するかを説明する理論を統計的に検証したものでもあります。
グリーンモデルでは、「Y染色体が増えるとASDリスクが増加し、X染色体が増えてもリスクはほとんど変わらない」と仮定されており、今回の研究結果はこれを支持するものとなりました。
とくに、Y染色体が増えるとASDリスクが大幅に増加することが確認され、これにより、Y染色体がASD発症に強い影響を与えている可能性が一層明確になりました。
研究チームは、この結果をさらに裏付けるために、デンマークの大規模なコホート研究「iPSYCH」のデータとも照合し、メタ分析を行いました。
これにより、別の独立したデータセットでも同様の結果が得られ、Y染色体がASDリスクに与える影響が一貫して確認されました。
この研究は、ASDの性差に関する理解を大きく進めるものであり、ASDの発症メカニズムやリスク要因の解明に向けた新たな道筋を示しています。特に、Y染色体の数がASD発症にどのように関与しているのか、今後の研究でさらに詳しく解明されることが期待されます。
この研究を行ったのは、ペンシルベニア州ルイスバーグにあるガイジンガー研究所に所属するアレクサンダー・S・F・ベリー博士、ブレンダ・M・フィヌカン博士、スコット・M・マイヤーズ博士、ローレン・K・ウォルシュ博士、ジョン・M・シーバート博士、クリスタ・レゼ・マーティン博士らの研究チームで、フロリダ州ジャクソンビルにあるフロリダ大学医科大学院のデビッド・H・レッドベター博士も参加しています。
研究の責任著者はガイジンガー研究所のマシュー・T・オートジェンス博士であり、この研究成果は2024年に発表されました。
この研究は、自閉症に関する今後の遺伝子研究においても重要な示唆を与えており、性染色体の数が人間の神経発達にどのような影響を与えるのかを理解するための新たな視点を提供しています。
また、ASDだけでなく、他の性差が関連する疾患や状態に対する理解も深めるきっかけとなる可能性があります。
Y染色体が1本多いと自閉症のリスクが大幅に高まる。
つまり、そういう研究内容です。
Y染色体をもつ男性に自閉症が多い、性差もそれで説明できる。
必要とする方に適切な支援がなされることに、ますますつながるように研究の成果が活かされることを願います。
(チャーリー)