- 自閉スペクトラム症の子どもたちはどのように感情を動作で表現しているのか?
- 社会的な場面で自閉症の子どもたちの感情表現がどのように変化するのか?
- 自閉症の子どもたちが感情を効果的に伝えるためにどのような支援が必要なのか?
イタリアの研究者たちが、自閉スペクトラム症の子どもたちがどのように感情を表現するかについて、新しい視点を提供する研究を発表しました。
この研究は、イタリア技術研究所、パルマ大学、および国立研究評議会などの研究機関の専門家によって行われ、自閉症の子どもたちが行動を通じて感情を表現する際の「動作の感情的特徴」に注目しています。
研究チームの中心には、ジュゼッペ・ディ・チェザーレとジェンナーロ・タルタリスコが含まれ、彼らは自閉スペクトラム症の子どもたちが社会的な場面でどのようにコミュニケーションをとるかを詳しく分析しています。
研究の焦点は、人間が動作の「どのように」という質的な側面、いわゆる「活力形態(Vitality Forms, VFs)」を通じて感情を表現する方法にあります。
VFsは、動作に含まれる感情的なニュアンスを示すもので、たとえば、友人に優しく手を振るのか、冷たく無表情に手を振るのか、といった違いを表現します。
この概念は、日常のコミュニケーションの中で無意識のうちに行われる感情表現に深く関わっていますが、自閉症の子どもたちがこうしたVFsをどのように表現し、他者と違う点があるのかについては、これまで十分に研究されていませんでした。
この研究の目的は、自閉スペクトラム症の子どもたちが、社会的および非社会的な状況で、どのようにVFsを表現するかを解明することです。
自閉スペクトラム症の子どもたちは、しばしば他者とのコミュニケーションに課題を抱えることが多く、特に社会的な場面で他者の意図や感情を読み取るのが難しいと言われています。
また、自分の感情を適切に伝えることが困難な場合もあります。
この研究では、自閉症の子どもたちが、こうした課題を持ちながらも、どのように感情を動作で表現するのかを調べました。
研究チームは、とくに社会的な文脈が自閉症の子どもたちのVFs表現にどのような影響を与えるかを明らかにしようとしました。
自閉症の子どもたちが、他者とのやりとりにおいて、動作の感情的なニュアンスをどのように調整するのか、また、定型発達の子どもたちと比較して、動作にどのような違いが生じるのかを探ることが、研究の中心的なテーマとなっています。
実験には、7歳から13歳までの25名の自閉症の子どもたちと、23名の定型発達の子どもたちが参加しました。
全員が右利きであり、知能指数(IQ)は70以上という基準で選ばれました。
参加した子どもたちには、まず「穏やか」「乱暴」という言葉の意味を理解してもらうために、簡単な説明が行われました。
次に、子どもたちは、異なる感情を込めて小さなボトルを動かすように指示されました。
実験は、2つの異なる場面で行われました。
1つは「非社会的な場面」で、子どもたちはボトルをただテーブルの指定された位置に動かすだけです。
もう1つは「社会的な場面」で、ボトルを他の人に手渡すというものです。
それぞれの場面で、子どもたちは「穏やか」「乱暴」「中立」の3つの異なる感情を表現するよう求められました。
この実験中、子どもたちの動作はビデオカメラで撮影され、その後、動作のスピード、加速、手の動きの広がりなどの運動学的な特徴が分析されました。
分析の結果、自閉症の子どもたちもVFsを適切に表現できることが確認されました。
彼らは、穏やかな動作や乱暴な動作を区別して行うことができ、これは、自閉症の子どもたちが感情を動作で伝える能力を持っていることを示しています。
しかし、定型発達の子どもたちと比較すると、自閉症の子どもたちは動作のスピードや加速度において異なるパターンを示しました。とくに、乱暴な動作を行う際に、自閉症の子どもたちは動作が控えめになりがちであることがわかりました。
社会的な場面では、自閉症の子どもたちは非社会的な場面に比べて、動作の感情表現があまり明確でなくなる傾向がありました。
たとえば、ボトルを他者に渡す際、自閉症の子どもたちは穏やかな動作と乱暴な動作の違いがはっきりと表れにくくなるのです。
これに対して、定型発達の子どもたちは、社会的な場面でも動作の違いを明確に表現していました。
さらに、運動学的なパラメータを詳しく見ると、自閉症の子どもたちは定型発達の子どもたちと比べて、動作の加速度や速度が低下する傾向があり、特に乱暴な動作を行う際の変化が顕著でした。
また、手の動きの広がりや、動作を完了するまでの時間にも違いが見られ、自閉症の子どもたちは、動作を調整する際により多くの時間がかかることがわかりました。
この研究でとくに注目されたのは、自閉症の子どもたちが他者と関わる社会的な場面において、感情表現に苦労するという点です。
社会的な場面では、自閉症の子どもたちは非社会的な場面に比べて動作が控えめになり、感情的なニュアンスが弱くなってしまう傾向がありました。
これは、彼らが社会的な状況で他者の存在を意識することで、感情表現に困難を感じている可能性があります。
定型発達の子どもたちは逆に、社会的な場面であっても、明確に感情を表現することができていました。
この研究の結果は、自閉症の子どもたちが感情を表現する際に、社会的な要因が大きく影響していることを示唆しています。
とくに、社会的なやりとりにおいて、彼らが感情を効果的に伝えるためには、より多くの支援やトレーニングが必要であることが分かりました。
この研究は、自閉症の子どもたちがどのように感情を表現し、社会的な場面でどのように他者とコミュニケーションをとっているのかを理解する上で、重要な知見を提供しています。
とくに、彼らの動作に含まれる感情的なニュアンスを理解することは、今後の支援や教育において大いに役立つと考えられます。
研究チームは、今回の研究結果が、自閉症スペクトラム症の子どもたちの社会的スキルを向上させるための新しい方法の開発に貢献すると期待しています。
たとえば、感情を表現するためのトレーニングや、他者との関わり方を学ぶためのプログラムが、より具体的で効果的なものになる可能性があります。
また、研究には人工知能を用いた動作の解析が用いられており、今後さらに多くの応用が期待されます。人工知能技術を使うことで、
これまで困難だった感情の動作表現をより正確に理解できるようになるかもしれません。
今後の研究では、今回の結果を基に、より広範な状況での感情表現や、他の年齢層や性別の子どもたちを対象にした調査が行われることが期待されます。
また、今回の研究は限定的なシナリオでの実験でしたが、日常生活での動作や感情表現がどのように異なるかについても、さらなる調査が必要です。
このような研究を進めることで、自閉スペクトラム症の子どもたちが持つコミュニケーションの課題をより深く理解し、彼らが社会の中でより効果的に感情を表現できるような支援が可能になるでしょう。
(出典:Nature)(画像:たーとるうぃず)
うちの子は、たまに爆発することはありますが、基本的にいつも「穏やか」です。
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(チャーリー)