- ASDとADHDを併発しているかどうかをどのように判断すれば良いのか?
- 早期に診断を受けるために保護者や教師は何を見落とさずに注意すべきか?
- ASDとADHDが併存する子どもへの効果的な支援や治療方法にはどのようなものがあるのか?
スペインのロビラ・イ・ビルジリ大学に所属するホセファ・カナルス教授が率いる研究チームが実施した大規模な調査が注目されています。
この調査は、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠陥・多動性障害(ADHD)の併存率や、それに関連する特徴を明らかにするために行われました。
保護者と教師の報告に基づき、臨床診断を組み合わせたデータにより、ASDとADHDがどのように併存しているかを調査しています。
研究には、幼児から学齢児までの約3700人の子どもが参加し、非常に詳細な分析が行われました。
この調査は2段階に分けて実施され、まず、幼児(4〜5歳)と学齢児(10〜11歳)を対象に保護者と教師から情報を収集しました。
第1段階では、3727人の子どもの保護者と教師が、それぞれの子どもの行動について詳細なアンケートに答えました。
その結果、保護者や教師から見て、ASDやADHDの兆候があるとされた子どもたちは、後により専門的な臨床評価に進むこととなりました。
第2段階では、個別の臨床診断が行われ、781人の子どもたちが専門家による診断を受けました。
この診断は、DSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル)に基づく厳密な基準に従って行われ、ASDやADHDの正式な診断や、診断基準にはわずかに達しないが日常生活に支障をきたしている軽度の状態も評価されました。
研究の結果、ASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠陥・多動性障害)の両方を併発している子どもの割合は0.51%であることが明らかになりました。
とくに興味深いのは、男女間で大きな差が見られた点です。
男児における併存率は0.89%と高く、一方で女児の併存率はわずか0.16%でした。
この差は、ASDやADHDが男児に多く見られる傾向があるという、過去の研究結果とも一致しています。
年齢に関しては、全体的な併存率に大きな違いは見られませんでしたが、学齢児(0.62%)の方が幼児(0.39%)よりやや高い併存率を示しました。
この結果から、年齢が上がるにつれて併存症の認識や診断が進む可能性が示唆されますが、その差はわずかであり、年齢による顕著な影響は確認されませんでした。
また、ASDを持つ子どもの32.8%がADHDも併発していることがわかり、逆に、ADHDを持つ子どもの9.8%がASDも併存していることが確認されました。
この結果は、これら2つの障害が単独で存在することは稀であり、両者が併存するケースが少なくないことを示しています。
軽度のASDの子どもたちの31.4%もADHDの症状を持っており、軽度のADHDの子どもたちの5.7%がASDの症状を持っていることも示されました。
これらの結果は、ASDやADHDが一方の症状を伴うことが一般的であることを示しており、これまでの研究でも同様の傾向が報告されてきました。
しかし、とくに注目すべき点は、ASDとADHDの両方の診断を事前に受けていた子どもは、わずか15.8%に過ぎなかったということです。
これにより、多くの子どもが複数の障害を抱えているにもかかわらず、その全貌が適切に把握されていない可能性があることが浮き彫りになりました。
研究チームは、早期診断の重要性を強調しています。
とくに、ASDとADHDの併存は、それぞれの障害が単独で存在する場合よりも、子どもの発達や学習に大きな影響を与えることが知られています。
ADHDの症状は、学業における集中力や注意力の欠如を引き起こし、ASDの症状は社会的なコミュニケーションの困難を伴います。
この両方が併存することで、子どもたちは学校や家庭でさらなる困難に直面しやすくなります。
研究チームは、保護者や教師が早期にこれらの兆候を見逃さずに捉え、適切な対応をとることが、子どもの成長と生活の質を向上させるために不可欠であるとしています。
また、教師や保護者からの報告では、ASDとADHDの症状がそれぞれ3.2%(教師報告)および3.19%(保護者報告)の子どもに見られることがわかりました。
この一致率は非常に高く、学校と家庭の両方でこれらの症状が一貫して観察されていることが示されています。
これにより、教師と保護者が早期に協力し合い、子どもの発達に関する情報を共有することが、併存症の早期発見と正確な診断に役立つことが期待されています。
この調査の一環として、子どもたちの認知能力や情緒的な問題についても評価が行われました。
結果、ASDとADHDの併存を抱える子どもたちは、単一の障害のみを持つ子どもたちに比べて、ワーキングメモリ(作業記憶)のスコアが低い傾向があることがわかりました。
これにより、認知機能に関する課題がとくに顕著であり、学校での学習や日常生活において注意を要することが示されています。
また、感情調整の問題も併存することが多く、このような情緒的な問題が、子どもたちの社会的な課題を増大させている可能性があります。
この研究のもう一つの興味深い結果は、併存症を抱える子どもたちが、学校や家庭でより多くの支援を受けているということです。
ASDやADHDの単一診断を受けた子どもたちと比較して、併存症を持つ子どもたちは、教育的および心理的なサポートを受ける割合が高くなっており、薬物治療を受けている割合も高いことが明らかになりました。
具体的には、心理的なサポートを受けている子どもたちの割合は73.7%に達しており、ASDのみの子どもたち(62.9%)やADHDのみの子どもたち(36.7%)よりも高い数値です。
これらの結果は、併存症が子どもの発達においてより複雑な課題をもたらすことを示しており、より包括的な支援が必要であることを示唆しています。
研究者たちは、今後さらに多くの地域で同様の調査が行われることを期待しており、これによりASDとADHDの併存に関する理解がさらに深まることが期待されています。
(出典:Autism Research)(画像:たーとるうぃず)
AuDHD という言葉も使われるようになってきました。
ASDとADHDの併存はよくあることです。
正しく認識され、より助かる支援につながることを願います。
(チャーリー)