- 自閉症スペクトラム障害のある人々は、視覚的な心的イメージをどのように処理するのか?
- 自閉症の人々は、心的イメージの生成、保持、検査の各段階においてどのような特徴を持つのか?
- 自閉症の人々の視覚的心的イメージを活用した学習や問題解決において、どのような支援が考えられるのか?
研究によると、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある人々は、視覚的な心的イメージを保持し、操作する能力が、一般の人々よりも優れている可能性があることが明らかになりました。
この研究は、フランスのトゥールーズ・ジャン・ジョレス大学、カナダのモントリオール大学、およびケベック大学モントリオール校に所属する研究者たち、トゥールーズ・ジャン・ジョレス大学のクララ・ブレッドを筆頭に行われました。
自閉症の人々は、一般的に知覚や感覚処理において独特の特性を持っているとされます。
これまでの研究では、自閉症の人々が視覚情報を処理する際、他の人々とは異なる方法でそれを認識し、記憶することがあることが示されています。
しかし、これまでの研究は、主に視覚的心的イメージの操作(例えば、物体の回転や変形)に焦点を当てており、イメージの生成、保持、検査といった他の段階については十分に検討されていませんでした。
この研究では、自閉症の人々がこれらのすべての段階において、どのような特徴を示すのかを明らかにすることを目的としました。
研究は、トゥールーズ(フランス)とモントリオール(カナダ)の二つの地域で行われ、自閉症の成人44名と一般の成人42名を対象に、心的イメージの生成、保持、検査、操作の各段階を評価しました。
参加者は、それぞれの段階を評価するために以下のような課題を実施しました。
参加者はまず、グリッド上で特定のアルファベット文字を心的に生成する課題を行いました。
具体的には、参加者は画面に表示された「小文字のアルファベット」を見て、それに対応する「大文字のアルファベット」を頭の中で思い浮かべます。
例えば、小文字の「a」が表示された場合、参加者はそれを大文字の「A」として頭の中でイメージします。
その後、画面には縦5列、横4行の20個のマス目が並んだ「グリッド」が表示され、どこか1つのマスに「X」というマークが付けられます。
参加者は、このグリッドいっぱいに頭の中でイメージした「A」を描き、その「A」の一部が「X」の位置に重なるかどうかを判断します。
例えば、「X」が「A」の横線が通るマスに置かれていれば、「重なっている」と答えます。
この課題は、参加者が頭の中で文字を正確にイメージし、それがグリッド上でどのように配置されるかを考える能力を測るものです。
次に、参加者は視覚的なパターンを記憶するテストを受けました。
このテストでは、異なるサイズのグリッド上に配置された黒い正方形のパターンを覚え、その後、記憶したパターンを再現するよう求められました。
パターンは次第に複雑になり、参加者の記憶保持能力が評価されました。
この段階では、参加者は心的イメージを検査するために、スクリーン上に表示されたドットの配置を記憶し、その後提示される矢印が以前に見たドットの位置を指しているかどうかを判断しました。
この課題では、矢印の位置とドットの位置との距離が異なる2つの条件(短距離と長距離)で反応時間が測定されました。
具体的には、参加者は心の中でドットの位置をイメージし、そのドットと矢印の間の距離が短いか長いかを考えます。
一般的には、距離が長くなるほど判断に時間がかかるのですが、自閉症の参加者は距離に関わらず同じ速さで反応できたのです。
最後に、参加者は3次元図形を心的に回転させ、それが別の図形と同一であるかどうかを判断する課題を行いました。
この課題では、回転させた図形と元の図形が同一かどうかを判断する速度と正確さが評価されました。
研究の結果、いくつかの興味深い発見がありました。
まず、心的イメージの生成と操作においては、自閉症の参加者と一般の参加者の間で大きな差は見られませんでした。
しかし、心的イメージの保持能力に関しては、自閉症の参加者が一般の参加者よりも優れていることが確認されました。
具体的には、視覚的パターンを保持する能力が自閉症の参加者の方が高く、より複雑なパターンを記憶することができました。
また、心的イメージを検査する課題では、自閉症の参加者は、イメージ内での距離の違いに関わらず、短い距離でも長い距離でも同じ速さで反応できることがわかりました。
これは、一般の参加者が距離が長くなるほど反応時間が遅くなるのとは対照的な結果です。
この結果は、自閉症の人々がより詳細で、かつ効率的な視覚的心的イメージを持っている可能性を示唆しています。
この研究は、自閉症の人々が視覚的な心的イメージにおいて、一般の人々とは異なる特徴を持っていることを明らかにしました。
とくに、視覚的情報を保持し、それを効率的に検査する能力が自閉症の人々において優れていることは、彼らの知覚や認知スタイルが独特であることを示しています。
研究者たちは、このような知覚と認知の特性が、自閉症の人々の日常生活における思考や意思決定にどのように影響を与えているのかについて、さらに研究を進める必要があると考えています。
たとえば、自閉症の人々が持つ「視覚的に考える」能力が、学習や問題解決においてどのように活用されているのかを探ることで、教育や支援の新しい方法が開発される可能性があります。
この研究はフランスの国立研究機関からの資金提供を受けて実施され、今後も自閉症における視覚的心的イメージの研究が進められることが期待されています。
この分野でのさらなる研究が、自閉症の人々の認知機能をより深く理解するための重要な手がかりとなるでしょう。
(出典:Autism Research)(画像:たーとるうぃず)
どんな違いあるのかを知ることで、もっと寄り添い、かかえている困難を少しでも減らせるようになるはずです。
うちの子は話すことができないので、見ている、生きている世界をどんなふうにとらえているのかよく疑問に思っているので、すごくそう思います。
(チャーリー)