- 子どもがコミュニケーションを取れるようになるために、どのような支援が必要か?
- 自閉症の人たちが本来持つ能力や個性を最大限に引き出すには、どのようなアプローチが有効か?
- 現在の研究や治療法によって、自閉症の人たちの生活がどのようにより良いものになる可能性があるか?
キルスティ・オートンは、子どもが自閉症であることについて、とくに心配はしていませんでした。
ただ、オートンが望んでいたのは、1歳の息子が、母親との時間を楽しむことができるようになることです。
たとえば、オートンが部屋に入ると、息子が彼女に気づき、話しかけると目を合わせて、一緒にコミュニケーションを取ることができるようになることです。
「私が本当に求めていたのは、息子のフィンと心を通わせ、お互いの絆を深めることだけでした。
しかし、子どもが親のことを見ずに、常に部屋の他の場所ばかりを見て、自分の世界に閉じこもっているように感じ、まるであなたが彼にとって何の意味も持たないかのように思えるときは、言葉では表現しづらいほど悲しいものです」
オートンは、家族内で自閉症を受け入れることに反対しているわけではないと繰り返し強調しています。
「それは全く問題ありません。
ただし、フィンがコミュニケーションを取れないことは、子どもにとって安全ではなく、成長するにつれてさらに安全でなくなります。
何か悪いことが起こったときは、コミュニケーションを取ることが必要です」
イギリスのケントに住むオートンはインターネットを利用して、自閉症の発達可能性が高いとされる10か月の赤ちゃんを対象とした社会的コミュニケーション療法プログラムの最初の試験機会を見つけました。
このパイロット療法はまだ初期段階ですが、親や介助者との1対1の社会的相互作用に焦点を当てることで、赤ちゃんのコミュニケーション能力と脳機能をサポートし、最大化することを目指しています。
これにより、子どもが成長するにつれて、その後の行動にも変化が見られることが期待されています。
このプロジェクトは、ジョナサン・グリーン教授らの研究チームによって率いられ、医学研究評議会、慈善団体のAutistica、そしてNHSイングランドの国家自閉症チームによって資金提供された研究に基づいています。
赤ちゃんの発達の軌道を改善すると主張するもので、自閉症の子どもたちは発達の違いを持ちつつも、より容易に社会的になり、人との関わりを持つことができるようになることが期待されています。
「これは私たちの自閉症に対する理解を変えるでしょう」
そう、英マンチェスター大学の子どもと青年の精神医学の教授であるグリーンは言います。
「この取り組みは私たちを、自閉症が実際に何であるかより深く理解するための私たちの注意を向けさせるものとなります」
近年、自閉症の研究は大きく変化しました。
自閉症を「治療」しようとする、攻撃的で誤解を招く試みではなくなりました。
つまり、自閉症の人たちを、治療が必要な対象として扱う、非人間化された、医学化されたアプローチではなくなったのです。
また、自閉症の子どもたちに自分の自閉症のアイデンティティを隠すよう強いる、信用されていない、物議を醸すアプローチもなくなりました。
グリーンは次のように述べています。
「伝統的に与えられた治療は、自閉症の行動を取り除くことに焦点を当てていました。
多くの自閉症の人たちはこれを自分たちのアイデンティティへの攻撃と感じていました。
そして、遺伝子による研究は、世界から自閉症の人をなくすことが目的であるという懸念につながりました」
自閉症に関する研究が進化しても、まだ理解されていないことが多くあります。
研究を継続することは重要です。
たとえば、多くの遺伝的および環境的影響がどのようにしてさまざまな表現を生み出すのかがわかっていません。
また、自閉症の人たちには、精神的健康の問題に対する従来の治療に効果がないか、受け入れがたい副作用を経験する可能性があるにもかかわらず、自閉症の人たち向けに調整された薬がまだ存在していません。
研究は現在、これらの問題、および他の多くの問題に取り組もうとしています。
そして、その方法は参加型アプローチを採用します。
自閉症の人たちとのエンゲージメントを得て、自閉症体験の共感的理解の開発に焦点を当てた介入の共同設計です。
研究者は、自閉症の人たちからの理解のもとに、自閉症の人たちが繁栄するのを助けるための環境調整を考案するのです。
グリーンの療法は、乳児の環境の側面を変更することを目指しており、親たちが子どものコミュニケーションスタイルを理解し、それに対する自分たちの反応を適応させるのを助けます。
彼のプロジェクトに参加した家族は、子どもたちが大幅に改善し、より深くつながり、そして関係も変わりました。
「私たちが示したのは、私たちの療法の取り組みを行った親たちの子どもたちは依然として自閉症のままです。
しかし、社会により適応し、幸せになったということです。
私たちは、早期介入プログラムであるiBasisや、もっと年齢が上の子供向けのPactと呼ばれるプログラムが、子供の自閉症の特性を変化させることを証明しました。
この変化は、目を合わせないこと、繰り返し行動をすること、コミュニケーションを取らないことなど、自閉症のさまざまな表現が、環境体験の二次的な結果としてよく見られることを示唆しています。
つまり、これらの特性は自閉症自体の不可欠な部分ではないかもしれません。
このプロジェクトは大成功でした。
私は英全国の幼年期自閉症サービスの新しいモデルとして提案されることを心から望んでいます」
グリーンのプロジェクトだけでなく、自閉症の人々の生活体験に根本的な違いをもたらそうと懸命に取り組んでいるプロジェクトは他にもあります。
デクラン・マーフィーは、世界最大の自閉症研究ネットワークであるNational Autism Projectを率いています。EUによって資金提供され、14か国で48のパートナーとともに実施されているこのプロジェクトは、2025年5月早々に結果を出すことを望んでいます。
英キングス・カレッジ・ロンドンのマーフィーは、自閉症の個人の脳シグナルを変更するための「薬」を探求しています。
「これは治療法ではありません。そのようには考えるものではありません」
この薬は、例えば視覚を改善することにより、感覚の過敏性やイライラといった多くの自閉症の人々を悩ませる問題の症状を改善します。
マーフィーの研究についてすばらしい点は、別の病気の薬としてすでに承認され、一般に利用されている薬を利用できることです。
もしマーフィーの研究結果が成功すれば、ただちに、その薬を自閉症の人たちが問題の症状を改善するために使えます。
マーフィーは次のように述べています。
「現時点では、30%から40%の人がこの薬に対して顕著な脳反応を示しています。
もしこれが臨床試験でもうまくいけば、自閉症の人たちの三分の一にとって大きな意味を持ちます」
英キングス・カレッジ・ロンドンの法医学および神経発達科学部門および精神医学、心理学、神経科学研究所の臨床教授であるグレイン・マカロナンは、マジックマッシュルームに含まれるサイケデリック化合物であるシロシビンの研究を始めています。
マカロナンは、感覚処理、認知、気分、睡眠などの一連の基本的な機能で重要な役割を果たすセロトニン経路を調査しています。
自閉症研究で最も一貫している発見の一つは、セロトニン経路の違いです。
25%以上の自閉症の人たちが高血漿セロトニンレベルを持っています。
もし、マカロナンがシロシビンによって標的とされる脳内セロトニンシステムの個人差を特定できれば、次のステップは、その薬が臨床的に有用な生物学的反応をもたらすかどうかを確認することになります。
「究極的には、この研究により、薬物治療の選択肢を求める自閉症の人たちに、よりそれぞれの人にあった薬を提供できるようになるかもしれません」
現在は自閉症研究にとって興奮する時期であると、英国自閉症協会の研究、評価マネージャーであるマシュー・スウィンデルズは述べています。
彼は、実生活の問題に取り組む他の研究について言及します。
英プリマス大学が主導するブリッジング・プロジェクトは、仮想現実を使用して自閉症の雇用ギャップを減らすことを目的としています。
英クイーン・メリー・ロンドン大学が主導する自閉症のアフィニティ・スペースは、若い自閉症の人々が自分の興味に没頭するためにソーシャルメディアプラットフォームをどのように使用しているかを探るものです。
そして、英ロンドン大学カレッジが主導するAudit 50は、しばしば見過ごされがちな高齢の自閉症の人々の経験に焦点を当てています。
スウィンデルズは次のように述べています。
「おそらく最も重要なことは、研究者たちが自閉症の人に汚名を着せる、欠陥に基づく言語やアプローチから離れ、自閉症の人たちにとって本当に重要なトピックに焦点を当て始めたことです。
多くの自閉症のリード研究者と、参加型アプローチの素晴らしい研究例が多く見られるようになってきたことがその現れです」
(出典:英The Guardian)(画像:たーとるうぃず)
自閉症、発達障害の人たちが、より生きやすく、楽しくなることに貢献する研究がますます行われ、それがさらに実現されていくことを心から願います。
「参加型」と言ったときには、自らの考えや意見などを伝えられる自閉症の方に限らず、知的障害もあるうちの子のように話すことができず、意思表示ができない人も対象外にせずに、考慮されるようどうかお願いします。
(チャーリー)