- 遺伝カウンセリングは発達障害のリスクを正確に予測できるか?
- 親の精神的特徴が子どもの障害有病率にどのように影響するのか?
- 両親の遺伝的類似性が子供の障害の重症度にどう関連しているのか?
自閉症や統合失調症、そうした発達障害や精神障害が現れることを予測するのは困難です。
それは、多くの異なる遺伝的および環境的要因の影響によるためです。
米ペンシルベニア州立大学の研究チームの新しい研究は、こうした障害の特徴や関連疾患(うつ病や不安症など)を、「親」がどの程度示しているかを評価することが、遺伝子変異の分析のみよりも、子どもたちの障害の有病率や潜在的な重症度を予測する、より正確な方法になる可能性があることを示しました。
これは、少なくとも部分的には、遺伝子分析では通常検出されない遺伝子変異を、親が子どもに伝えることにより、より重症な疾患につながる可能性があるためだと研究者たちは説明しています。
この研究は、American Journal of Human Geneticsに掲載されました。
両親がどのようにして子どもの診断に貢献するかを理解することは、遺伝カウンセリングやこれらの障害の影響を受ける子どもたちのための療育の開発に役立つかもしれません。
「私たちは、大規模な数の家族を対象に、子どもと親の両方で発達障害および精神障害の特徴について調べました。
その結果、不安やうつ病のような精神的特徴も含めて、そうした障害の特徴を持つと報告する親の子どもたちは、障害をもつことが増えていました」
そう、ペンシルベニア州立大学イバーリー科学大学院の生化学および分子生物学のT. ミン・チュ教授とこの論文の主執筆者のサントシ・ジリラヤンは述べています。
研究チームは、自閉症や知的障害などの神経発達障害を持つ子どもを含む、97000家族を調査し、親のリスク要因(遺伝的特徴と特徴の存在)が子どもにどのように影響するかを評価しました。
大規模な公共バイオバンクからの遺伝情報や特定の神経発達障害研究からの家族の遺伝情報、そしてアンケートデータを利用しました。
研究チームは、親とその子どもたちをさまざまな障害の症状で評価し、また、そのような障害を引き起こすことが知られている遺伝子変異も評価しました。
その分析から、親は同じまたは関連する障害を持つパートナーを選ぶ傾向があり、その結果、子どもたちの障害の有病率と潜在的な重症度が増加することが明らかになりました。
ジリラヤンはこう言います。
「ほとんどの神経発達障害は遺伝的に複雑で、単一の遺伝子によって引き起こされるわけではありません。
そのために、それぞれの人の障害の正確な遺伝的基盤を追跡することや、さらには影響を受ける子どもたちでの障害の進行を予測することが難しくなります」
研究チームの説明によれば、複雑な遺伝性疾患は多くの遺伝子の変異によって引き起こされるもので、変異は一方の親から、または両方の親から受け継がれるか、または子どもの新しく形成されたゲノムで自発的に発生する可能性があります。
そして、子どもの発症は受け継ぐ変異の組み合わせと、それらが発達中にどのように相互作用するかに影響されます。
発達障害は多くの異なる遺伝子の複数の異なる変異の結果として生じると考えられており、それは「マルチヒットモデル」と呼ばれています。
「私たちは、いくつかの神経発達障害のリスク要因として関連付けられている、特定の変異である、16番染色体の小さなセグメントの『欠失』を研究してきました」
これらの障害の症状は、発作、統合失調症の特徴、うつ病、不安、および依存症に関連する特徴として現れることがあります。
「この突然変異は親から子に受け継がれることが多いですが、子のほうが親よりも重篤な症状を呈することがよくあります。
私たちは、この障害に対して、もう一方の親から他の影響が、もたらされる可能性があるかどうかを知りたかったのです。
そこで私たちは、神経発達障害のある子供を持つ家族について、大規模な数で、両方の親の特徴を調べました」
研究チームは、欠失の変異をもつ親は、その子供よりも症状が軽かったか、あるいはうつ病や不安症など、異なるものの関連する精神疾患を抱えていたことを発見しました。
そして、もう一方の親も同様の精神的特徴をもっていることが多いことも見つけました。
ジリラヤンと共に研究している、この論文の第一著者であるコリン・スモレンはこう言います。
「私たちが確認したこと、そして長い間、研究されてきたこと。
それは、人々の間に『同類交配』と呼ばれる現象があるということです。
意識的であれ無意識的であれ、類似の特徴を持つ人々は、パートナーとしてお互いを優先的に見つけます。
他の説明もあるかもしれませんが、私たちはデータでこれを確認しました。
それが私たちが研究した、家族で見られた事実と関係している可能性が高いです」
研究チームの説明によれば、欠失をもたない親も、他の遺伝子変異によってこれらの特徴を持っていて、これらの変異が子どものゲノムの欠失と組み合わさると、より重症の結果をもたらします。
両親の特徴を評価することによって、研究者は遺伝子スクリーニングだけではできない、より正確な子どもたちの発症を予測することができるのです。
また、今後はこのデータを使用して、欠失ではない、親が持つこれらの特徴を引き起こす要因となる、他の新しい変異を特定できるかもしれません。
ジリラヤンはこう言います。
「両親の間に、似ている特徴があることがわかりました。
統合失調症の人は、統合失調症のパートナーを見つける可能性が高く、不安とうつ病を持つ人は、不安とうつ病を持つパートナーを見つける可能性が高いのです。
例えば背の高い人が他の背の高い人と結婚することなどは、よく知られています。
これらの特徴はすべて、または少なくともいくつかは遺伝的成分がパートナー間で類似しています。
つまり、祖先にまで遡れば、遠い遠い『近親婚』に似た状況といえます」
つまり、似た者同士の配偶者選択の傾向が、パートナー間の遺伝的類似性につながり、その結果、子供でより多く、より重症の特徴となる可能性があるのです。
研究チームは今回の研究から、次の例をあげました。
「両方の親が不安症を持っていない場合、その男の子が不安症をかかえている場合は12.6パーセントでした。
一方の親が不安症を報告している場合は25.7パーセントとなりました。
両方の親が不安症を持っている場合は33.8パーセントにまで増加しました」
(出典:米ペンシルバニア州立大学)(画像:たーとるうぃず)
なんとなく想像できるものの、それが、97000の家族を調べた大規模な研究によって裏打ちされたという感じがします。
似た者同士がくっつく、「同類交配」は避けられないものですしね。
私の子どもの困難を減らすことに本当につながるのであれば、私のデータを使ってください。
そう考える親は少なくないはずです。
(チャーリー)