- 聴覚過敏と自閉症との関係はどのように理解されているのか?
- 聴覚過敏の客観的な診断基準はどのように確立されつつあるのか?
- 新たな治療法開発において、聴覚過敏のバイオマーカーの発見はなぜ重要なのか?
米テキサス大学ダラス校の聴覚神経科学者が行っている、自閉症スペクトラム障害を持つ人たちの多くが音に異常に敏感である理由と、より効果的な新たな治療法につながる研究に米陸軍からの資金提供が行われます。
行動脳科学部の言語聴覚学の助教授であるケリー・ジャーン博士は、紙のしわが寄る音、掃除機の音、車のクラクションなどの日常の音に耐えることが困難であり、不快感や痛みを感じるほどの聴覚障害である聴覚過敏を研究しています。
この状態は自閉症の人の間でとくに多く、約35000人の米軍扶養家族を含む350万人のアメリカ人がかかえています。
さらに、230万人以上の退役軍人が難聴や耳鳴りに悩まされています。
これらの症状は聴覚過敏を合併することがよくあります。
米陸軍医療研究開発司令部からの3年間で85万ドル(約1億3千万円)の助成金は、自閉症の人の5割から7割に発生し、社会的交流、医療へのアクセス、教育、社会的活動を制限することが多いこの症状のバイオマーカーを探すジャーン氏の研究を支援します。
現在、聴覚過敏を客観的に診断することは困難であり、聴覚過敏と自閉症との関係も明らかにはなっていません。
「聴覚過敏は、難聴と診断されている人、あるいはまったくそうでない人にも発生する可能性があります。
肉体的な痛みに苦しむ人もいます。 日常生活を送るのが困難になります」
コミュニケーション障害相談センター の神経聴覚学研究室の所長でもあるジャーン博士は、聴覚過敏の症状を把握する方法の開発を可能にする、聴覚過敏の背後にある潜在的なメカニズムについて研究を続けてきました。
「動物での研究では、何らかの形で聴覚系に損傷を与えると、脳や中枢神経系の他の部分の音に対する反応が強化されることが示されています。
したがって、有力な理論の1つは、脳の活動が活発になるということですが、それを確認または反論するには、人間を対象としたさらなる研究が必要です」
ジャーン博士の研究チームは、18歳から36歳までの4つのグループ(聴覚過敏のある自閉症の人と聴覚過敏のない自閉症の人、聴覚過敏のある自閉症でない人と聴覚過敏のある自閉症でない人)からデータを収集する予定です。
将来の研究では子どもたちも含めたいと考えています。
「脳波、瞳孔サイズの変化、汗の分泌を記録し、動物モデルで見られるものと同様の多動性を探します。
これらの指標は、感情の興奮と音量知覚との相関関係という点で十分に確立されています」
脳波は、個々の参加者に合わせた音の強度レベルで、グループ間で簡単に比較できる反応が測定できるとジャーン博士は言います。
「研究に参加する人たちがみんな同じ強さに耐えられるわけではないため、私たちが作成したサウンドは上下に変化し、それぞれの人にあった快適な音になります。
聴覚過敏を伴う自閉症の人たちでは、他の人たちと比較して中枢神経系の反応が上昇しているものと考えられます」
研究結果は今後の研究への道を示し、自閉症ではない人に使われている治療法が自閉症の人にも効果的に使えるかどうかを明らかにするのに役立つはずです。
「聴覚過敏の主な治療法の一つは、認知行動療法とある程度の音への曝露を組み合わせたもので、時間の経過とともに徐々に効果が出てきます。
ただし、すべての人に効果があるわけではありません。
とくに、音を聞いて身体的な痛みを感じている場合はそうです」
聴覚学者として、ジャーン博士はこれまでに解決策がない多くの人々に会いました。
これが、客観的な診断基準を求める原動力となっています。
「ここに来る子どもたち、とくに自閉症の人たちは、この状況をうまく説明できません。
ほとんどの人がこのような症状を経験していないことを知らないとしたら、どうやって助けを求めればよいのでしょうか?
だからこそ、医療機関では主観的ではない評価が非常に重要なのです」
聴覚過敏の研究を複雑にしているのは、耳鳴り、心的外傷後ストレス障害、片頭痛、外傷性脳損傷など、音過敏症に関連するさまざまな症状があるためです。
「明らかな併存疾患がなくても聴覚過敏をかかえる人もたくさんいます」
(出典:米テキサス大学ダラス校)(画像:Pixabay)
「調子が悪いと感じる」 + 「37度を超える体温」 = これはたしかに体調が悪い。
体温が高いという客観的な事実から、医師など他人にもこの人は「体調が悪い」とわかるわけですが、
「音が痛いほどの感覚」 + ? = どれほどの苦痛かわからない。
聴覚過敏のつらさについて、他人がわかるための、「体温」のような使える、客観的事実がまだはっきりしていないため、それを見つけるために取り組んでいる研究ですね。
そうした客観的な事実=バイオマーカー。
見つかれば、正しい支援につながり、多くの人が助かるはずです。
(チャーリー)