- 先天性心臓疾患(CHD)を持つ子どもたちに自閉症などの発達障害がみられる理由は何か?
- CHDと自閉症の関連性はどのようにして生じる可能性があるのか?
- CHDを持つ子どもたちの脳の発達に影響を与える要因は何か?
以前は、先天性の心臓の問題は多くの新生児にとって死の宣告のようなものでした。しかし、医療ケアと手術の改善により、心臓の欠陥を持つほとんどの赤ちゃん(アメリカ合衆国では100人に1人)が成人まで生き延びるようになりました。
ところが、もう一つの問題が浮かび上がってきました。先天性心臓疾患(CHD)を持つ人の約半数が自閉症などの発達障害を持っていることです。
過去5年間の推定によれば、CHDを持つことは自閉症の診断を受ける可能性を1/3から6倍に高めるとされています。2023年のメタ分析では増加の可能性を2倍としています。
CHDを持つ子どもの中には、自閉症の診断には該当しないものの、心の理論や実行機能に問題があるなど、自閉症に似た特徴を持つ子もいます。
かつては、これらの発達障害はCHDを持つ赤ちゃんが受ける命を救う手術から起こると考えられていました。しかし、2019年のレビューによれば、CHDを持つ人々の神経発達障害の違いの5〜8パーセントしか心臓手術に起因していませんでした。また、軽度の心臓の欠陥は重度の欠陥よりも自閉症との関連性が強いという2019年の別の研究結果も示されています。さらに、CHDを持つ子どもたちの多くが、手術室に入る前から非典型的な脳の発達の兆候を示していました。
最近の研究によれば、神経発達の結果は心臓と脳の両方に影響を及ぼす遺伝子変異やCHDに関連する脳の変化によってより多く決定される可能性が高いとされています。一部の遺伝子変異はCHDと発達障害の両方のリスクを高める可能性があるとする研究結果も増えています。
遺伝的な要因であれ、発達中の心臓に影響を与える要因であれ、CHDを持つ子どもたちの脳の違いは子宮内で始まります。最近の研究によれば、CHDを持つ胎児の一部は脳の体積が減少し、皮質の折りたたみが減少し、白質損傷を受けることがあります。そして、これらの子どもの脳の発達は、出生時には通常4〜6週間遅れている傾向があります。
特に海馬にその影響が出ている可能性があります。CHDを持つ赤ちゃんにはこの領域での接続に違いがあります。他の研究でも、胎内にいる時点でCHDを持つ子どもたちの海馬の体積は減少しており、それが作業記憶や長期記憶に問題があることと関連しているとしています。
CHDを持つ子どもと思考の問題の間には、脳の血流が減少していることとの関連性も考えられます。これが認知的な検査においてパフォーマンスが低下する要因となるとされています。
CHDと自閉症の遺伝的なつながりはまだ仮説段階ですが、臨床的にはすでに重要なことです。米ベイラー医科大学の小児科の准教授で、テキサス州子ども病院のカーディアック発達成果プログラムを指揮しているソニア・モンテイロは、親や医師によって自閉症の特性が見過ごされることを防ぐ助けにもなるとしています。
「社会的な欠陥や言語の遅れを子どもの手術の結果だと考えようとする家族に出会うこともあります。理解不足です。
遅れのリスク要因になるかもしれませんが、それで自閉症になることはありません」
モンテイロは、CHDを持つ子どもたちは、米国平均の4歳よりも幼い時点で、自閉症と診断されているという研究結果を発表しています。
現在、米国とヨーロッパでは心臓疾患に関連する、神経発達障害に対する注意が強化されています。2016年には、Cardiac Neurodevelopmental Outcome Collaborativeが設立されています。これは米国とヨーロッパのさまざまな医療センターからなるネットワークであり、「神経発達サービスのベストプラクティスを決定し、実施する」という使命を持っています。CHDを持つ子どもたちは思春期に至るまで神経発達の問題に対して、より注意深く観察される必要があります。
「ただ心臓に気を配るだけではなく、本当に子ども全体を気にかけることが必要だと思います。
全体を気にかけることで結果を改善することができると思います」
そう、フランスのモンペリエ大学の神経発達学の教授で、フランス国立保健医療研究所のカーディアック神経発達チームのリードサイエンティストでもあるヨハンナ・カルデロンは述べています。
自閉症と正式に診断される程度ではない、困難をかかえる子どもたちは見逃される可能性があります。その結果、CHDを持つ子どもと若者の約4分の1が行動問題に苦しんでおり、これは偶然に起こっているのではないとカルデロンは述べています。
これらの問題に対処するプログラムも増えてきています。しかし、CHDを持つ子どもの作業記憶を改善するトレーニングプログラムは、社会コミュニケーションの問題に対しては効果がなかったことをカルデロンらの研究チームは発見しています。
オーストラリアでは、フォンタンバイパス(重度のCHDを治療するための一種の心臓手術)を受けた人々に対して4か月間の運動プログラムの効果を測定する臨床試験が行われています。主な焦点は有酸素能力であり、同時に心理的および認知的な効果も調査されています。そして、CHDを持つ子どもの脳のネットワークに運動がどのように影響するかを調査する研究を開始されました。
カルデロンも、CHDを持つ8歳から25歳までの人たちを対象とした運動研究を開始し、療育介入が神経発達の結果にどのように影響するかを調査しています。
先天的な「心臓」との関連については初めて知りました。
運動能力、視覚、腸、性別、その他いろいろ体や症状との関係性についての研究がこれまでに発表されています。
かかえている困難を理解し、見逃さないようにする研究には期待と感謝をしています。
(チャーリー)