- 自閉症の子どもたちの記憶障害は顔だけでなく、他の情報の記憶にも影響しているのか?
- 自閉症が記憶障害にどのような具体的な影響を与えているのか?
- 社会性の問題と記憶の問題は、自閉症の子どもたちにどのような関係があるのか?
自閉症における記憶障害は、顔認識能力の低下にとどまらないことが、米スタンフォード大学医学部の研究チームによって明らかにされました。
自閉症が「記憶」に幅広い影響を与えていることを示唆するものです。
今回のスタンフォード大学医学部の新しい研究によれば、自閉症の子どもたちは、顔に関する記憶だけでなく、他の種類の情報を記憶する能力にも障害をかかえていました。
そして、これらの問題は、子どもたちの脳内の配線パターンにも表れていました。
Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimagingに掲載されるこの研究は、自閉症の子どもの記憶機能に関する議論を明確にし、彼らにって記憶の問題が社会的記憶を形成する能力を上回っていることを示します。
研究を行った科学者らは、この発見は子どもの自閉症や発達障害への支援についてのより幅広い考えを促すはずだと考えています。
「多くの高機能自閉症の子どもは通常の学校へ行き、他の子どもたちと同じ指導を受けています」
そう、精神医学と行動科学の博士研究員である筆頭著者ジン・リュー博士は言います。
記憶力は学業における成功の重要な予測因子であり、記憶力の問題は自閉症の子どもたちを学校生活で不利な立場に置く可能性があります。
今回の研究結果は、自閉症の神経的起源に関する哲学的な議論も提起していると研究者たちは言います。
社会的課題は自閉症の中核的特徴として認識されていましたが、記憶障害こそが社会的関与能力に大きく影響している可能性があるからです。
「社会的認知は、信頼できる記憶がなければできません」
そう、主著者であるレイチェル・L・ニコルズ博士とウォルター・F・ニコルズ医学博士は述べています。
「社会的行動は複雑であり、顔や声を特定の文脈に関連付けるなど、複数の脳プロセスが関与します。
このような連想記憶の形成における障害こそ、自閉症の基礎的要素の一つかもしれません」
自閉症は、米国では36人に1人の割合で発症し、社会性の障害と制限的で反復的な行動を特徴とします。
そしてこの疾患は幅広いスペクトラムを持つものです。
最も深刻な人では、会話や身の回りのことができません。
自閉症の人の約3分の1には知的障害があります。
一方で、高機能自閉症の人の多くはIQが正常か高く、高等教育を修了し、さまざまな分野で働いています。
自閉症の子どもは顔を記憶することが困難であることが研究で示されています。
また、自閉症の子どもはより広範な記憶障害があることを示唆する研究はこれまでにもありましたが、小規模であり、記憶力に影響する年齢やIQの幅も広いものでした。
今回の研究では、自閉症が記憶力に及ぼす影響を明らかにするため、8歳から12歳の高機能自閉症でIQが正常な子ども25人と、年齢もIQもほぼ同じ定型発達の子ども29人が、顔、文字、非社交的な写真(人の写っていない写真)を記憶する能力を含む、記憶力の総合的な評価を受けました。
科学者たちは、参加者が情報を正確に認識する能力(以前に見たことがある画像か、聞いたことがある単語かを識別する能力)と、情報を想起する能力(以前に見たり聞いたりした情報の詳細を説明したり、再現したりする能力)をテストしました。
その後、研究者たちは、さまざまな時間の経過後に、子どもたちの記憶をテストしました。
そして、参加者全員が脳の機能的磁気共鳴画像スキャンを受け、記憶に関与することが知られている領域が互いにどのようにつながっているかも評価されました。
これらの結果、これまでの研究結果と同様に、自閉症の子どもは定型発達の子どもよりも「顔」を記憶するのが困難であることがわかりました。
しかし、それだけでなく非社会的な情報を思い出すのにも苦労することがわかりました。
文章を読んだり、非社会的な写真を見たりするテストの結果、即時言語的想起、遅延言語的想起、即時視覚的想起、遅延言語的認識のスコアが低くなっていました。
「自閉症の子どものIQはかなり高く、定型発達児と同程度であったため、差異は小さいのではないかと考えていましたが、とても明らかに記憶障害が観察されました」
そう、リューは言います。
定型発達の子どもでは、記憶能力は一貫していました。
顔に対する記憶力が高い子どもは、非社会的な情報を記憶する能力も高くなっていました。
しかし、自閉症の子どもはそうではありませんでした。
「自閉症の子どもの中には、両方について記憶の障害を持つ子もいれば、どちらか一方の記憶についてより深刻な障害を持つ子もいました」
これは、研究者たちには予想外のことでした。
「2種類の記憶について、両方とも機能不全に陥っているというのは驚くべき発見でした」
また、脳スキャンの結果から、自閉症の子どもたちでは、異なる脳ネットワークで異なるタイプの記憶障害を引き起こしていることがわかりました。
非社会的な情報を記憶する能力、つまり一般的な記憶力は、海馬という部分を中心にしたネットワークのつながりに影響を受けます。
海馬は、記憶を規制する役割を持つ脳の奥深い場所です。
一方、顔の記憶力は、後帯状皮質という部分を中心にした別のつながりに関係しています。
後帯状皮質は、脳の中で社会的な考え方や他の人と自分自身を区別する役割を持つ重要な領域です。
つまり、2つの異なる脳の領域で異なる問題が確認できるほど、自閉症は広い範囲で記憶に関わる問題を引き起こすものだったのです。
そして、どちらのネットワークにおいても、自閉症の子どもの脳は、定型発達児に比べて過剰に接続された回路を示していました。
神経回路の選択的刈り込みが少なすぎるためと思われる過剰な接続は、自閉症の子どもの脳ネットワークに関する他の研究でも見つかっています。
自閉症の子どもへの療育などでは、今後、この研究で明らかになった幅広い記憶障害と、これらの障害が社会的スキルにどのような影響を与えるかを考慮する必要があるとメノンは語っています。
(出典:米スタンフォード大学医学部)(画像:Pixabay)
自閉症の子どもは「顔」の記憶に問題をかかえる。
それだけでなく、他の一般的な記憶にも問題をかかえていることが多くあることもわかった。
さらには、自閉症の特徴とされる社会性の問題も、その「記憶」の問題が原因ではないか。
それに基づいた、療育や支援に変えていく必要があるかもしれない。
ということです。
かかえる困難を減らすことにつながる研究の進展、支援や療育へのいち早い適用を期待しています。
(チャーリー)