- 劣等感を感じることがあるのか?
- 自分の特異な能力に誇りを持てるようになるにはどうすればいいのか?
- 発達障害を持つ人として、周囲とのコミュニケーションや社会での適応についてどのように向き合えばいいのか?
2004年、ダニエル・タメットは円周率暗記のヨーロッパ記録を樹立しています。
円周率を22514ケタ、5時間9分をかけて暗唱しました。
現在、44歳のダニエルは、さまざまなジャンルの本を9冊出版し、現在10冊目に取り組んでいます。
ダニエルは11ヶ国語を話すこともできます。
アイスランド語は1週間で習得しました。
「まだ、知らない言語もたくさんあるんです。たとえば日本語はまだわかりません」
ダニエルを前にすれば、一般人は劣等感をもってしまうかもしれません。
それに対し、ダニエルは苦痛に満ちた表情で、こう言います。
「誰もそんなふうに思う必要はありません。
私は長い間、ずっと劣等感を感じていました。
他の人たちができることが、私には何もできませんでした。
自転車にも乗れません。
兄弟は5,6歳で泳げるようになっていたのに、私は10歳になってからです。
社会的な面でも、絶望的でした。
みんな友だちがいるのに、私には友だちはいませんでした。
何が私に足りないのか、なんでできないのか今でも考えます。
まだ、車の免許ももっていません。
それでも、人生のある時期から劣等感をもたないようになりました。
しかし、優越感をもったことは一度もありません。
みんな違うんです。
違うことに価値があることを私は理解しています」
ダニエルは先週、ラジオ番組に出演し、記憶することがとくに優れている人に学術的な研究に参加するように、呼びかけました。
英ケンブリッジ大学の研究者が、行っているものです。
22000ケタ以上の数字を暗記したり、新しい言語を1周間で習得できる。までの必要はありません。
電話番号やチェスの手筋を記憶するなどの課題があり、自分は記憶力がいいと思う人なら、誰でもオンラインで事前クイズに挑戦できます。
その結果、見事合格した人には、ケンブリッジに来るようにとの連絡が入るかもしれません。
ダニエルは25歳のときに自閉症と診断されました。
発達障害のある人が驚くべき能力を発揮するサヴァン症候群という関連疾患ももっています。
最も有名なサヴァンは架空の人物で、1988年の映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じたレイモンド・バビットという人物でしょう。
バビットは実在の人物、キム・ピークをモデルにしています。
2004年にダニエルはキムと会いました
本や数字への愛情を共有する同志に初めて出会ったこの出会いを、人生で最も幸せな瞬間のひとつだとダニエルは言います。
ダニエルは父は板金工、母は秘書という家庭でイギリスに生まれ、今はフランスのパリに43歳の写真家兼アーティストのフランス人のパートナーと一緒に住んでいます。
ダニエルは18歳のときにリトアニアに留学した経験があります。
リトアニアで出会った人たちは、自閉症の特徴よりも先にイギリス人らしさを感じていたと言います。
「リトアニアの人たちは、私にこう言うんです。
『あなたはとても変わっている。でも、それはあなたがイギリス人だからだね』
自閉症であるということは、文化的なことにも左右されるのだと、私はわかったんです」
私たちの多くにとって、数字はただの数字です。
しかし、ダニエルとってはそうではありません。
「私は数字を数えるのではなく、数字と一緒に踊るんです」
すべての数字が立体的な形をしており、それぞれに特徴的な色を持っていると説明します。
「数字が組み合わさると、黄色、青、緑の渦に包まれます。
見るだけでなく、感じるのです。
数字は私の友人です」
円周率など終わりのない数に対しては、さらに「感じる」のだそうです。
円周率の暗唱で、9の数字が続くポイントに到達したときのことを興奮して話します。
「円周率で762ケタを超えたあたりから、魅了するポイントになります。
9が6つ並ぶ、999999が出る確率は100万分の1なのに、たった762ケタの後に出るんです。
9は私にとって非常に重い数字なので、そこに到達したとき、私の声はより深くなり、態度も変わりました。
9は私にとってとても重い数字なんです」
ダニエルは、想像を絶する能力をもつ人のように思えますが、今でも、携帯電話を使うことも車を運転することもできません。
「障害者だと感じるかというと、考えますが、私は障害者です。
定型発達の人たちが何も考えずにできるのに、私にはできないことがあります」
自動車免許の試験は2回受けました。
ペーパーテストは2回とも100点でした。
しかし、運転の試験となるとナンバープレートが目に入れば、数字に集中してしまい、信号があればそれだけを見てしまい、スピードが出ればメーターばかり見て、危険なことになります。
他人は、私が384×6934を一瞬で解くことに驚きますが、私は車を運転できる人の能力に驚きます」
自分の変わった長所を認めてもらうのに、ダニエルは長い時間がかかりました。
多くの発達障害の子どもたちと同様に、学校では奇妙なことをする変人だと思われていました。
「先生にとっては、私は完璧な生徒でした。
でも、他の子にとっては、私はただの変人だったんです。
友だちはいませんでした。
私は、天才だと思われていても、私だけの小さな世界にいることはとても嫌でした」
神経多様性/ニューロダイバーシティであることは、「超能力」の持ち主かもしれない。
そんな考えには、ダニエルは注意するべきだと考えています。
なぜなら、ほとんどの場合、そうではないからです。
「私は今でもできるだけ、まわりに溶け込みたいと思っています。
もし子どもの頃に、
『みんなと同じようになりたい?』と聞かれたら、
『はい』と答えたでしょう。
自分の持っているものが特別なものであるかもしれないという意識はありませんでした。
ただ、仲間はずれにされたくない、人と違うという理由でいじめられたくないという気持ちだけでした」
ダニエルのような子どもたちは、今でもこぼれ落ちてしまう可能性があります。
ダニエルは両親のケビンとジェニファーのおかげで、そうならずに済んだと信じています。
「無条件の愛と受容を、両親は与えてくれました」
ダニエルは9人兄弟の長男で、ひっきりなしに泣く大変な赤ちゃんでした。
3歳の時には、自閉症と関係があるてんかんの発作に悩まされました。
学校では、コミュニケーションの取り方がわかりませんでした。
今のダニエルの雄弁さと感情の流暢さを考えると、これはおかしく思います。
「他の子どもたちとどう話したらいいのか、わかりませんでした。
私は言葉が通じなかったんです。
予防接種を受けたとき、誰かが冗談で『腕が落ちる』と言ったのを覚えています。
私はそれを文字通りに受け取りました。
すごく怖かったです」
ダニエルは多読家でした。学校の図書館は彼の聖域であり、その本を研究することによってコミュニケーションの方法を学んだと思っています。
しかし、それでうまくいったわけではありません。
「読んでいた本が当時よりさらに50年も40年も前に出版されたものだとは知らずに、その内容を真似していました。
他の子どもたちからは、なんでそんな変なことを言うんだ、どうしたんだ、と言われました」
目を合わせることも学ばなければなりませんでした。
「先生や親はこう言うんです。
『私の顔を見なさい』
どうしたら正解なのか、私には理解できませんでした。
なぜなら、私がそうすると今度は、
『ずっと見つめていないで』
と言われるからです」
ダニエルが次に出版しようと考えている本は、これまでに出会った自閉症の人たちをテーマにしたものです。
たとえば、ある盲目の自閉症の女性は、部屋に入るだけで、椅子がいくつあるのかがわかったそうです。
「脳の働きについて、私たちはまだ理解していないことがたくさんあります。
だからこそ、多くの科学的研究を支援したいと思っています」
(出典・画像:英Mail Online)
「すごい」ばかりでない人のほうが、人間的な魅力を感じたります。
ますます、ご活躍いただきたいと思います。
参加を呼びかけているのはこちらの研究ですね。
自閉症の人に多い?ケンブリッジ大「超記憶」人をネットで募集中
(チャーリー)