- 自閉症の子どもの歯科受診をどうすればもっとスムーズにできるのか?
- 歯科治療に恐怖を感じる子どもにどのように対応すれば良いのか?
- 自閉症専門の歯科医院やプログラムはどこで受けられるのか?
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)歯学部の研修医であるキミヤ・アブタヒは、11歳のアレックスの歯を優しく磨きながら、声を出して数を数えています。
アレックスは、お母さん、お父さん、弟が見守る中、じっと座っています。
アブタヒが「10」を数えると、家族全員が一緒になって歓声を上げました。
1年前、自閉症のアレックスは、歯科医院の椅子に座ることも、ましてや通院することも嫌がりました。
今は、鏡を使ってアレックスの口の中を覗き込み、吸引チューブを使い、さらに歯を磨くことができます。
各ステップで、カウントダウンが行われ、拍手で締めくくられます。
診察が終わると、歯科医師とアレックスのお母さんはハグをしました。
「昨年、アレックスは近くの歯医者では、無理に椅子に座らせ、無理に口を開かれたトラウマになりました」
そう、アレックスの母親、ヤニンは言います。
「ここUCSFでは、誰もが辛抱強く、優しく接してくれます。
4歳の子どもも連れてくるようになりました。
彼も自閉症なのですが、大丈夫だということを早くから学んでほしいからです」
発達障害である自閉症の子どもたちにとって、歯科受診は困難なものです。
椅子の背もたれを倒される感触や、工具の回る音、フッ素塗布の香りに圧倒されることもあります。
診察のために拘束されたり、鎮静剤を投与されたり、場合によっては全身麻酔をかけられます。
UCSF小児歯科の自閉症プログラムでは、アレックスのような患者には、時間をかけてゆっくりと歯科診療の各ステップを体験してもらい、耐性を高めていきます。
初診の場合、自宅の安全な場所で診療所のバーチャルツアーを行う人もいれば、歯科用椅子に5秒座るだけの人もいます。
アレックスは6週間ごとに来院し、自閉症を専門とする行動分析官が作成したプランに従います。
このプログラムを率いる口腔科学助教授のジャン・カルボはこう言います。
「歯科治療のために子どもを鎮静・拘束する方法はあります。
しかしそれでは、歯科医に行くというライフスキルが一生身に身につきません。
私たちは、子どもたちが生涯にわたって衛生的な治療を受けられるようにすることを目的としています」
米国では自閉症の子どもを専門に診ている歯科医院はほんの一握りで、行動分析官を雇っているところはほとんどないとカルボは言います。
UCSFでは、小児歯科の2年目の研修医が、自閉症プログラムとのローテーションを義務づけられています。
「UCSFだけでなく、より多くの患者が将来的にこうした歯科医院を利用できるように、私たちは新しい世代の歯科医を育成しています」
自閉症の患者の診察は、第1、第3月曜日の午後に行われます。
開院前には、カルボと、患者一人ひとりに合わせた個別計画を作成する行動分析官兼コンサルタントのタラ・グラヴィンがミーティングを行い、診察のさまざまな部分に慣れてもらうようにします。
カルボとグラヴィンは、患者一人ひとりに個別のプランを作成し、訪問のさまざまな場面に慣れるよう努めます。
「彼はおしゃべりで、野球の話をするのが好きなんです」
そう、カルボは最近ミーティングである患者について言いました。
グラヴィンはこう言います。
「この後の診察の話はしないようにしましょう、そうしないと彼は怒ります。今に集中してもらいましょう」
診察中、グラヴィンは診察室の外に出て、自分が必要とされないかどうか耳を傾けています。
不安な患者と一緒に廊下を歩いて気持ちを落ち着かせたり、呼吸法を指導したりすることもあります。
大切なのは、患者の現状を把握すること、挑戦するように誘うものの押し付けないこと、そして、成功したらたくさん褒めてたくさん喜んでもらうことだと言います。
グラヴィンはプラスチックの容器に入ったグッズを見せながらこう言います。
「ステッカーやスライム、砂糖不使用のキャンディーもありますよ。
そして、診察までの時間を乗り切るために、ウェイトブランケット、イヤーマフ、フィジェットトイを用意しています。
お気に入りの歯磨き粉は、名前入りの袋に入れ、ストックしています。
できる限り、子どもたち一人ひとりを理解し、知ってもらえるような、親しみやすく歓迎される環境を作っています」
このプログラムは、UCSF歯学部の卒業生であるヘレン・モーの発案によるものです。
モーは現在個人で開業していますが、今でもUCSF小児自閉症歯科プログラムのボランティアとして参加しています。
モーは、研修医時代に自閉症の患者が苦労しているのを目の当たりにし、また、身内に特別支援を必要とする人もいました。
もっといい方法があるはずだと思ったと言います。
「2017年にUCFSの自閉症クリニックの責任者に連絡を取り、最初は私がそこで口腔内のスクリーニングをすることから始めました。
しかし、その方法では適切な歯科治療を行うことができなかったので、すべての設備が整っているUCSFの小児歯科クリニックでそれらの患者を診ることができるよう計画を立てました」
やがて、モー、カルボ、グラヴィンの3人で、患者さんの課題やニーズ、モチベーションを評価し、歯科医師とともに一定期間をかけてゆっくりと段階的にケアを導入していくシステムを構築しました。
これは、歯科と医科が、歴史的に別々だった2つの分野の統合を再考している一例といえます。
UCSFの歯科クリニックは、精神面や行動面を含む医療との統合を国内でいち早く始めています。
「歯科と行動衛生の相互協力が、このプログラムを際立たせているのです」
そう、モーは言います。
現在では、カルボが監督しグラヴィンとモーがサポートする3人の歯科医が、常時クリニックの主な歯科治療を担当しています。
現在では90人の患者を抱えてフル稼働しています。
開院から2年間で521人の患者が訪れ、20人の研修医がこのプログラムに参加しています。
とても喜ばれているため、カルボは別のプロジェクトを立ち上げようと思い立ち、小児歯科の学生が在学3、4年目に特別な医療ニーズを持つ患者を治療するためのトレーニングを受けられるようにしました。
特別支援を必要とする子どもをもつ親たちに、UCSFに行くように勧めている言っているヤニン・ソリスはこう言います。
「このような安全な場所があることを、もっと多くの親に知ってもらいたいと思います。
そして、このような場所がもっと増えることも必要です」
(出典・画像:米カリフォルニア大学サンフランシスコ校)
うちの子は、幸いすばらしい歯医者さんに出会うことができて、もう困ることはありません。
しかし、それまではたいへんでした。
こうした、歯科医院が身近になっていくことを願っています。
米ハーバード大から自閉症の子を歯医者に連れて行くためのヒント
(チャーリー)