- PDAとは何か、一般的な要求回避との違いは何か?
- PDAの子どもたちを支援する際に大切なことは何か?
- PDAの子どもたちとのコミュニケーションにおいて意識すべき点は何か?
子どもが親の要求に抵抗するのは普通のことです。
たとえば、どんな要求にも「ノー」と答えるようになるのは、どの子にもある自然な発達段階です。
幼児期を過ぎても、宿題をすること、健康的な食事をすること、朝起きることなどに抵抗することもあるでしょう。
しかし、一部の自閉症の子は、言うことを聞かないことが幼児期はるかに過ぎても続きます。
自分への要求から逃れるために、あらゆる手段を講じます。
英国に本拠を置く非営利団体Neurodivergent Education Support and Trainingの共同設立者であるハリー・トンプソンはこう言います。
「歯磨きや着替えから、ベッドからの脱出、宿題、質問への応答、さまざまな場面で起こります」
このような特徴を表す診断として、病的要求回避「PDA」があります。
PDAの子どもたちは、要求をかわすようにできていて、しかもそれが得意なのです。
要求に対する彼らの反応は、単純な拒否から、手の込んだ話術、そして物理的にその場から逃げ出すことまで、さまざまです。
しかし、彼らが期待されたことを拒否するのは、頑固さや支配欲のためではありません。
それは、極度の不安のためです。
PDAは40年前、イギリスの心理学者エリザベス・ニューソンによって、自閉症の「プロファイル」あるいは「サブタイプ」として初めて認識されました。
しかし、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)には掲載されていません。
PDAの子どもたちは、家庭でも学校でも、そして広い世界でも、しばしばつらい思いをします。
頻繁に懲戒処分を受けたり、停学になったり、あるいは退学になったりすることもあります。
米メリーランド州在住の神経心理学者のドナ・ヘンダーソンはこう言います。
「こうした子どもたちの親は、さまざまな専門家に相談し、薬物療法を試し、育児教室にも通い、疲れ切っています。
そしてその結果、子どもは自分を『悪い子』だと思い、両親は自分を『悪い親』だと思うようになります。
もちろん、PDAの子どもは悪い子ではありませんし、子育てで家庭内が不和になる必要もありません」
理解するための第一歩は、「病的要求回避」という言葉を分解することだとヘンダーソンは言います。
「『病的』という言葉は、何の役にも立ちません。
あまりにもネガティブです。
重要なのは、『要求回避』という言葉です。
しかし、PDAの核心は要求回避ではありません。そうではないのです」
ヘンダーソンは、自閉症の活動家でコンサルタントのトムリン・ワイルディングの造語である「自律への広汎な意欲」という言葉を好んで使います。
「PDAの核心は『自律性の喪失に対する強い不安』です。
要求に対する抵抗は、好戦的なものではありません。
むしろ、PDAの人たちは、要求が自分の自律性を脅かすもの、つまり自分自身への脅威であると感じているのです」
では、PDAなのか、それとも一般的な小児期の要求回避なのか、どう見分ければいいのでしょうか。
PDAの特徴的な兆候として、子どもが実際にそのことをやりたがっているにもかかわらず、要求を拒否することが挙げられます。
たとえば、ある子どもが、新しいサッカーチームがどんなに好きか、ひっきりなしに話すとします。
しかし、ボールをもって車に乗るように言うと、突然、好きなスポーツの練習から逃れるために、何でもするようになります。
さらに、PDAの子どもたちは、自律の感覚を取り戻すために、驚くほど長い時間をかけて行動することもあります。
話題を変えたり、交渉したり(「歯磨き粉をつけてくれたら歯を磨くよ」)、言い訳をしたり(「ママが許してくれないの」)、無力感を装ったり(「手が動かないの!」)、体を引きずったり、空想の中に引きこもったりします。
「犬や猫になって、うなり声をあげたり、噛みついたり、ヒスを起こしたりすることもあります。
最後の手段は、完全にパニック状態になることです」
これらの社会的戦略は、PDAの子どもたちが、PDAでない子どもの多くと異なるもう一つの特徴を示しているとトンプソンは言います。
「PDAの子どもたちは、少なくとも表面的には優れた社会性を持っています。
目を合わせたり、社会的な礼儀を守ったりすることに何の問題もないのです。
また、想像力豊かな遊びが好きなことも多くあります」
自身も自閉症でPDAをもつトンプソンは、子どもの頃についてこう言います。
「私はよく、キャラクターになりきって、真似をしたりしました」
しかし、このような表面的な社会性をもつものの、PDAの子は社会の上下関係を理解するのに苦労しています。
「PDAの子どもたちは、しばしば、自分自身が別人の大人であるかのように教師に話しかけます。
まるで自分が子どもであることを知らないかのようです」
そうヘンダーソンは言います。
PDAの子どもたちは、通常、要求によって引き起こされる劇的な気分転換をします。
これらの要求は、大きく危険があるものとして認識され、要求のたびに、PDAの子の体内にはアドレナリンとコルチゾールが溢れ出します。
「PDAの子は、学校に行く準備をしろ、本を開け、ランチに行け、授業中はじっとしてろ、といった具合に、最後の要求から落ち着く前に次の要求が来ることを知っています。
次の要求が来るのは時間の問題だと学習しているため、危険に対して過敏になっているのです。
彼らは、気分から気分へと揺れ動いているのです。
本当に大変なことです。
その根底にあるのは、極度の不安なのです」
このような子どもを助けるために、介護者はどうすればいいのでしょうか?
ヘンダーソンは、まず根本的な受容を実践することだと言います。
「要求を拒否することが悪いことだという考えを大人が捨てることです」
PDAの子どもたちとは、対等な立場で話をする。
たとえば、ヘンダーソンは、PDAの子がいる、あるいはそう疑われている子がいる場合、決して「ヘンダーソン先生」と自己紹介をしません。
その代わり、自分のファーストネームである「ドナ」を使い、その人に仲間として話しかけます。
また、トンプソンはこう言います。
「自分のコミュニケーションに微妙な要求がないかどうか観察してみましょう。
自分の発言に潜む要求の多さに驚くでしょう。
『元気?』は具体的な返答を要求します。
『愛してる』は『私も愛してる』を要求しています。
『今日の予定は?』は何かすることを求めます」
もちろん、シャワーを浴びたり、栄養のあるものを食べたり、学校生活を送るなど、生活にはさまざまな、しなければならないことがあります。
PDAの子どもたちには、内発的な動機付けを見つける機会を与えてあげましょう。
そして、自分なりの制限を持つことは許していいとヘンダーソンは言います。
「たとえば、子どもが家族で夕食を食べたくないと言ったら、夜中に料理を出してやる必要はありません。
宿題が終わるまでXboxは使わないというルールを設けてもいいんです。
ただ重要なのは、そうした制限を脅しやご褒美の枠にあてはめないことです。
食事や宿題をするよう強要するのではなく、条件を設定し、それによる結果を示すのです」
家庭でのストレスを減らすには、不必要な要求を減らして争いの回数を減らすことだとヘンダーソンは言います。
「決まった時間に無理に食事をさせようとすることよりも、子どもが好きな健康的な食べ物を家に置いておくのです。
幼い子には宿題はあまり必要ありません。減らすようにしましょう。
年長児や10代の子には、スケジュールや計画表を使って、要求を口にせずにあとは子どもたちに任せましょう」
PDAの子どもたちに対応するのは、簡単なことではありません。
他の親や教師から「あなたは子どもに甘すぎる」「子どもにしつけが足りない」と言われているときにはなおさらです。
ヘンダーソンはこう言います。
「しつけや要求が家庭を戦争状態に変えてしまうことがあるのを、彼らは知らないのです。
最も重要なことは、子どもに対する自分の直感を信じ、自分の経験を信じることです」
うちの子は重度の自閉症、知的障害もあり話すこともできません。
なので、こうした経験はしたことがないのですが、そうした子であれば本当に疲れてしまうだろうと想像します。
「PDA」というものがあることを知ることが、助けへの一歩になるはずです。
(チャーリー)