- 母親語への注意が少ない幼児は、ASDの早期スクリーニングに有益な情報となるのか?
- ASDの幼児が母親語に注意を払わない要因は、社会性や言語能力の低さとどのような関連があるのか?
- 「母親語」への注意がASDの幼児の将来の社会的スキルにどのような影響を及ぼす可能性があるのか?
赤ちゃんがいると誰もが自然と、甲高い声、歌うような声、が口から出てしまいます。
親はこの楽しい、感情的で大げさな話し方「母親語」(マザリーズ、幼児語とも)を使って、子どもの注意を引きつけてきました。
そして今、研究者たちは、この言葉を自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断に利用できるかもしれないと考えています。
“JAMA Network Open”に掲載された研究では、米カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の研究者が、幼児の母親語への注目度を定量化する新しいアイトラッキングによるテスト方法を開発しました。
この測定法を用いることで、研究者らは一部のASDの幼児たちを確実に特定することができました。
そして、その幼児の母親語に対する注意の低さは、社会性や言語能力の弱さと関連していることもわかりました。
母親語の発話は、子どもの注意力と学習力を刺激し、言語能力や感情反応性の発達を助けることがこれまでの研究で明らかにされています。
ASDの幼児がこの発話スタイルにそれほど注意を払わない場合には、成長後の社会的スキルに影響を与える可能性が考えられてきました。
そして今回の研究により、アイトラッキング検査が、ASDの早期スクリーニング、診断、予後に役立ち、どのような療育がその子に最も有効であるかを特定するのに役立ちそうなことがわかりました。
カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の神経科学教授であり、カリフォルニア大学サンディエゴ校自閉症センターオブエクセレンスの共同ディレクターである筆頭著者カレンピアース博士はこう言います。
「私たちは、療育を行うのは早ければ早いほど、より効果的であることを知っています。
しかし、ほとんどの子どもは、3〜4歳頃まで正式に診断を受けることができません。
幼児にも利用できる、簡単で効果的な診断ツールは本当に求められています。
このアイトラッキングはその手始めとして最適なのです」
今回の研究では、1歳から2歳の、ASDの診断を受けている幼児と受けていない幼児653人が参加しました。
実験では、幼児たちはスクリーンに映る2つの動画を見せられました。
1つは女性が「母親語」で話しているもの、
もう1つは人間が映っていないもの(交通量の多い高速道路、または電子音楽を伴った抽象的な形や数字の動画)
でした。
動画は1分間見ることができるもので、幼児は与えられた時間にどちらの動画にどれだけ視線を向けるか調査されました。
ASDでない幼児は一貫して母親語の動画に高い関心を示し、約80パーセントの時間をその動画に費やしました。
しかし、ASDと診断された幼児ではその時間はばらばらで、0パーセントから100パーセントの全範囲に及びました。
母親語の動画を見ていた時間が30パーセント未満の幼児たちについては、その幼児たちがASDであることを正確に特定できました。
そして、これらの幼児たちは、その後の言語や社会的スキルのテストでも低いスコアを示していました。
ASDであっても、母親語の動画を見る時間が多かった幼児は、より高い社会性と言語能力を示しました。
ASDの子どもたちの多様性を示す結果となりました。
ASDの子どもたちの社交性の低さは、もともともっているものなのか、それとも「母親語」への関心が低いことが原因となっているのかは、わかっていません。
しかし、いずれにせよ「母親語」が、一部のASDの子どもたちを特定するのに役立つものだと、カレンピアース博士らは述べています。
「このような簡単で時間がかからない、アイトラッキングテストで、自閉症の子どもを確実に特定できるという事実は、本当に驚くべきことです。
将来的には、子どもにどの療育が最も効果的かを知る手がかりとして、また、それらの療育がどれだけ効果があったかを測定するツールとして、母親語への子どもの注目を使いたいと考えています」
(出典:米カリフォルニア大学サンディエゴ校)(画像:Pixabay)
この研究結果には納得します。
重度の自閉症のうちの子は、赤ちゃんの頃はどうあやしても、ほとんど反応がありませんでした。
大きくなるにつれて、たくさん笑顔を見せてくれるようになりましたが、その頃の笑顔はほんとうに貴重なものでした。
(チャーリー)