- インフォームド・コンセントによる研究参加者保護の具体的な措置は何か?
- 自閉症の人々に適したインフォームド・コンセントプロセスを開発するために、IRBがどのような役割を果たすことができるか?
- 自閉症の人々が研究参加を決定するのを支援するために、研究者がどのようなコミュニケーション戦略を取ることができるか?
コミュニケーションに困難を抱える自閉症の人たちの中には、研究に参加する前に特別なサポートが必要な人もいます。
そして、インフォームド・コンセントを行うには、研究のリスクと利益を理解できるように説明する必要があります。
人間を対象とした研究を規制する米国の共通規則では、「強制や不当な影響を受けやすい」参加者に対して「追加の保護措置」を要求しています。
この記述は、一部の自閉症の人、とくに話すことができない人や知的障害の人にも当てはまりますが、この規則には、どのような保護措置が必要かは明記されていません。
米連邦政府ヒト研究保護局(OHRP)は、
「意思決定能力が損なわれた被験者に特有の同意手続きについては、規制が黙殺されている」
ことを認めています。
言葉や知的に不自由な自閉症の人たちは、研究において十分な存在感を示しておらず、自閉症の人々の生活体験に焦点を当てることを意図したプロジェクトでさえ、高い支援ニーズを持つ人たちを含めることはめったにありません。
しかし、機関審査委員会(IRB)に必要な専門知識を持つ委員やコンサルタントがいれば、委員会は「(研究)対象者のニーズに最も合致した」インフォームドコンセントのプロセスを自由に開発することができるとOHRPは言っています。
IRBと協力することで、研究者は利用しやすいインフォームド・コンセントのプロセスを作成し、より多くの自閉症の人を研究に参加してもらうことができます。
そのようなプロセスがどのようなものであるかを次に説明します。
■ インフォームド・コンセントは単なる事務処理なのか?
インフォームド・コンセントの基礎は、書類に署名する前に始まっています。
広告、募集資料、情報提供のための電話などはすべて、研究者が潜在的参加者に重要な情報を伝えるために利用されています。
インフォームド・コンセントの共通規則によれば、誰かが最初に興味を示した後でも、研究についての事実のリストを渡すだけでは十分ではありません。
研究者は、被験者がなぜ参加したいのか、あるいはしたくないのかを理解する手助けをする必要があります。
しかし、インフォームド・コンセントは、実際には研究者と参加者の間の継続的な会話であるべきです。
1979年のベルモントレポートで規定されたように、「自分に何が起こるべきか、起こらないべきかを選ぶ」という参加者の自主性の尊重に根ざしたものであるべきです。
そのため、研究に参加してもらうためのインフォームド・コンセントには、研究者が研究およびその目的、ならびに潜在的なリスクおよび便益を説明することが含まれるべきです。
研究者は、参加者がいつでも参加の中止をできることを説明し、質問に答えるように申し出なければなりません。
参加する研究での試験で実験的な治療法が提供される場合は、参加者は既存の今ある療法について聞くべきです。
■ 研究者は、どのようにして参加者に研究の詳細を理解させることができますか?
治験責任医師は、研究の詳細を説明する一方で、参加者の理解度にも注意を払う必要がある。
そう、米コロンビア大学で精神医学、医学、法律のポール・アペルバウム教授は言います。
米ハーバード・メディカル・スクールの医療倫理講師でもあり、米ボストン地域のいくつかの病院のIRB議長も務めるベンジャミン・シルバーマンは、参加者が理解できないようであれば、研究チームは外部の臨床医を招聘することがあると説明します。
その臨床医が参加者と話し、その「意思決定能力」について判断をします。
よりリスクの高い研究、あるいは「能力がない」可能性の高い人たちを対象とする研究では、すべての参加者がより正式な「診断」を前もって受ける必要があるかもしれないとアペルバウム教授は述べています。
「参加者がすでにある程度の認知機能障害を伴う診断を受けているからといって、必ずしも同意が得られないということにはなりません」
しかし、必要な意思決定能力のレベルは、研究の「リスクや負担のレベル」に連動して高い必要があると、シルバーマンは言います。
たとえば、ある参加者はオンライン調査に同意するのに十分な意思決定能力を有していても、「手術」には同意しないでしょう。
■ 理解するのに苦労している参加者を、研究者はどのようにサポートすればよいのでしょうか?
もし、自閉症の人が参加の希望をたずねられた研究についての情報を理解するのが困難な場合、特別なサポートが必要かもしれません。
研究者は、必要に応じてコミュニケーション戦略を変えられます。
実際、共通規則では、情報は「被験者に理解できる言語であること」と定められています。
自閉症の人は、とくに電子メールのような非同期やテキストベースのコミュニケーションのほうが理解しやすいことがあります。
これは、情報の処理に時間がかかる人が考え、反応するために必要な時間を持つことができます。
Autistic Self-Advocacy Network (ASAN)は、「Plain Language」(一部の政府文書で求められるわかりやすい文体)や「Easy Read」(知的障害のある読者が利用しやすい形式)など、理解を促進する目的で特定のコミュニケーション形式を使用するよう提案しています。
また、研究者は、拡張代替コミュニケーションシステムを使用する参加者には、協働するために必要なすべての時間を取る準備をしなければならないと、ASANの法務部長であるR. ラーキン・テイラーパーカーは述べています。
シルバーマンが共同執筆したNature Medicine誌の解説によれば、障害者が金銭や医療などの責任に関する法的自治を維持できるように開発されたSDM(Supported Decision Making)モデルを利用することで、研究の参加に関して意思決定を支援する必要がある人を助けられます。
自分の代わりに、法定代理人に選択を委ねるのではなく、自分のコミュニティの公式または非公式のネットワークのサポートを受けることで自分で意思決定を熟考するのです。
■ インフォームド・コンセントを全く行えない人がいたらどうするか?
米国では代理意思決定モデル(特に後見制度)は、自閉症の成人にとっては一般的です。
後見人は、人生の一部または全部の領域について意思決定する能力を裁判所に移譲されています。
後見人の法律は米国では州によって異なります。
後見人の承認による研究の参加を禁止している州もあれば、リハビリテーションや深刻な健康リスクの予防を目的とした研究など、特定の状況下で研究を許可している州もあります。
また、IRBも後見人が被後見人に代わって研究に同意することを制限しています。
IRBは、最小限のリスクであれば研究を承認するかもしれませんが、リスクのレベルが上がれば上がるほど、被後見人にもたらされる潜在的な利益も増加しなければなりません。
研究機関では、「直接的な利益を伴わない最小限のリスク以上の研究」に被後見人を参加させるために代理意思決定を行うことを制限したり、完全に禁止したりすることが多いとシルバーマンは言います。
「法律上、研究者はまず法的に認められた代理人から同意を得る必要がある場合でも、研究者は参加者自身から『アセント』を得ることを考えよう」
そう、アペルバウム教授は言います。
アセント(法的代理人に加えて、参加者のイエスかノーを意図的に求めること)は、子どもを対象とする研究ではすでに一般的です。
テイラーパーカーによれば、後見人をつけている人の多くも、まだ自分の欲求を伝えることができます。
参加者に法的な自律性がない場合でも、研究者は、その人が研究を理解し、研究に参加することを望んでいることを確認するために、自由に使えるすべてのコミュニケーションツールを使用する用意をしておくべきだといいます。
■ このガイドラインはどこから来ているのか?なぜ、それが重要なのか?
インフォームド・コンセントに対する現在のアプローチは、しばしば「保護願望」に根ざしているとシルバーマンは説明します。
たとえば、現在のインフォームド・コンセントの共通規則の倫理的基盤となったベルモントレポートは、20世紀の社会的弱者を対象とした研究の違反があったため作成されたものです。
しかし、アペルバウム教授は、研究においてある集団が参加しない場合には、長期に渡るマイナスの結果をもたらす可能性があると言います。
たとえば、女性や子どもの研究参加が少なかった結果、「私たちの知識基盤に欠落が生じました」
シルバーマンはこう言います。
「障害のある人たちを研究から排除すれば、障害のある人たちに役に立つ、医薬品が承認されなくなってしまいます」
「選択するべきことを理解し、意思決定する」
これは、「研究への参加」について述べられているものですが、もちろん求められる機会はそれだけではありません。
うちの子は重度の自閉症、発達障害、知的障害もあり、話すことはできません。
状況を理解し判断すること、意思表示、ほとんどできません。
昨年春に、特別支援学校の高等部を卒業しましたが、間もなく【参議院議員】「選挙のお知らせ」が届きました。
とくに政治に強い興味があるわけではないのですが、財産権などは親や法定後見人が代わりに守ってやれるものの、選挙権についてはそれがないので、どうするべきなのだろうとずっと思っていました。
「特別支援学校の生徒会選挙で投票しました!」
のようなことを特別支援学校に通う頃、伝えられても正直、ホントか?ただ紙を入れただけでしょ?
なんて思っていました。
そしてあるとき、選挙管理委員会に「クレーマーでもありません、困らせるつもりもありません、時間も頂きません」と前置きして電話で尋ねてみたことがあります。
「身体障害の方と違って、決まった対応ルールは現状ないようです」
そんな回答でした。
意思決定ができない人への対応なんて、それはやはり難しいことなので、私は現在の状況がわかっただけで良いと思っていました。
で、とうとう「選挙のお知らせ」が届いたわけです。
電話で尋ねたときと同様に前置きをして、投票所の方に相談してみました。
※親や介助者が、代わりに投票用紙に記入することは認められていません。それは知ってます。
「お家でよく考えられた上で候補者をメモに書いて、そのメモを投票の係の者に見せ、投票用紙には係の者が記入し、投票は自分でする。そうされる方が多いです」
丁寧にそんなことを教えていただきました。
ナルホドね。と思いました。
「お家でよく考える」
それで、「意思決定できない人」が急に意思決定できるようになるわけではありません。
(そこに深くツッコミはしません)
しかし、「意思決定できない人」にとって、ベスト(だと思われる)な選択をし意思表示するのに、これ以上ない現実的な解、アドバイスだと思いました。
(家では選挙公報を広げ、各候補者の顔写真などを指差ししながら、うちの子に説明し、好きに選んでもらいました)
白票では結局、ただの無効票でしかありませんので。
いつか将来、「やさしそうな顔をしているから」そんな理由でも私は良いと思いますので、うちの子がきちんと自分で選択できるようになってくれたらいいなと思っています。
(チャーリー)