- 自閉症の人は他者の感情を認識できないのか?
- 自閉症の人の言葉の理解能力はどうなのか?
- 自閉症の人のコミュニケーションスキルは向上する可能性があるのか?
社会的コミュニケーションと相互作用の困難さは、自閉症の中核的な特徴と考えられています。
自閉症の人は、他人の感情を認識するのが苦手で、それがどのような影響を与えるかについての洞察が乏しいという共通認識があります。
私たちは、テレビ番組「グッド・ドクター」など、大衆文化の中でこれらの課題が描かれているのをよく見かけます。
そして、心理学者や言語聴覚士のもとで、自閉症の人がこの重要な社会的スキルを向上させるために行う練習や治療もあります。
これまでのいくつかの研究では、非常に参加者が少なかったり、他の認知能力を考慮していなかったり、参加者が反応する感情の範囲を限定していたりします。
また、顔の表情の静止画像に大きく依存したり、複数選択肢の回答しか求めない研究もあります。
このような研究では、日常的な社会的相互作用を捉えることはできません。
私たちの新しい研究では、これらの課題を克服しようとしたものです。
そしてその結果、自閉症の人とそうでない人の間で、他人の感情を認識する能力にほとんど差がないことを発見しました。
この研究では、当時博士課程に在籍していたマリー・ゲオルゴプロス博士、私、ロビン・ヤング教授、ポスドク研究員のカルメン・ルーカス博士が、IQが一致する自閉症の67人のと自閉症でない67人の比較的多い参加者によっての研究を行いました。
静止画だけでなく、社会的相互作用の中でビデオ撮影された12種類の顔の感情の例を複数提示しました。
そして、参加者は、見た感情について自由記述で報告しました。
その結果、いくつかの重要な知見が得られました。
まず、感情の種類、刺激の提示方法、回答の形式はすべて、感情認識の精度と速度に影響を与えました。
しかし、これらの変化は、自閉症でない人でも同様でした。
第二に、感情認識の精度は自閉症の人たちではやや低くなっていましたが、多くの感情については同様でした。
また、自閉症の人のうちでも、自閉症でない人たちを下回るのはごく一部でした。
第三に、自閉症の人はよりゆっくりとした反応を示しましたが、これについても自閉症でない人たちと多くは違いがありませんでした。
自閉症の人は、他者の感情に対する反応が遅かったり社会的相互作用を阻害されている可能性はあるものの、自閉症の人は、実験室での特殊な環境においては、より慎重に行動していただけであることを示唆しています。
この研究の結果、自閉症の人は自閉症でない人と比較して、感情認識能力が劣っているという証拠はないことがわかりました。
そして、自閉症の人、そうでない人どちらにおいても、個人ごとに大きく異なっていることもわかりました。
これらの知見は、自閉症の人の他者の感情を認識する能力や、他者の感情処理に対する洞察力に関するいくつかの一般的な認識を覆すものです。
そして、この発見は、多くの自閉症の人のこれまで認識されていなかった能力を示し、自閉症の人もがみな同じではないことを気づかせます。
とはいえ、まだ多くの未解決の問題があります。
自閉症の人の感情処理を完全に理解するためには、今後の研究においてさらに多くの要素を取り入れる必要があるでしょう。
たとえば、今回の研究結果は、自閉症者の感情処理の難しさを過小評価している可能性もあります。
このような困難は、日常生活の現実において、他者との慌ただしい相互作用の中でしか現れないかもしれません。
そのため、慎重に環境をコントロールした研究を行うことができる、より洗練された研究方法を開発する必要がああります。
顔だけでなく、ジェスチャーや声のトーンや強調も同時に処理する必要があるような、日常の複雑な対人関係にも対応できるような研究が必要でしょう。
今後の研究では、自閉症の人が他者の感情にどのように反応するかにもっと焦点を当てる必要があります。
たとえば、自閉症の人は感情を認識することはできても、社会的交流の効果を損なうような反応を示してしまうことがあるのではないでしょうか?
私たちは、自閉症の人と自閉症でない人が、他者によって表されるさまざまな感情に対してどう反応するのかが適切だと考えているのかも調査しました。
悲しい、怒っている、またはイライラしている他の人に直面したときに、何が適切な反応と見なされるかを調べました。
しかし、適切な反応だと思っていることと、実際にした行動やしようとした行動は、必ずしも一致しません。
自閉症の人の反応についての疑問に対する答えは、自閉症者の社会的相互作用のスキルを向上させるための介入や治療法を改良する上でとても重要となります。
介入のための最も重要な焦点、最も効果的な手順、そうした介入を実施すべき発達段階を特定することを目的に、現在さらなる研究を進めています。
(出典:英THE CONVERSATION)(画像:Pixabay)
感情に反応しないと思っていても、感情は理解できているものの、適切な反応がわからないだけかもしれない。
という研究結果です。
うちの子は話すことができません。
しかし、私の言っているいることは理解できているものの、言葉を発することができないだけかもしれません。
言い換えれば、言語は頭の中にあるものの、口にすることができない。
いや、やっぱり言語そのものを理解できていない。
ずっと、私の中ではぐるぐる回っています。
けれど、「できない」と決めつけないで、実はここまではできていると考えるほうがお互いに良いと思っています。
なので、自閉症の方は相手の感情を理解できない、そう一方的に決めつけるのはとても乱暴なことだと思います。
裏打ちするこうした研究結果にはうれしくなります。
自閉症の人は表情を認識することはできている。問題はそこでない
(チャーリー)