- 自閉症は女性よりも男性に多いのはなぜですか?
- 自閉症の診断に性差があるのはなぜですか?
- 自閉症に関連する遺伝的変異は性別によってどのように異なるのですか?
女性は、自閉症に関連する一般的な遺伝的変異体の影響を受けにくいことが、新しい家族研究で示唆されました。この発見は、X染色体を2本持つ人は何らかの形で自閉症から守られているとする一般的な理論である「女性の保護効果」の裏付けるものです。
自閉症と診断される男の子の数は女の子の3倍から4倍です。
女の子と女性の自閉症の診断は難しいものとなっていますが、遺伝もこの偏った比率に影響を与えています。
自閉症の女の子や女性は、男の子や男性に比べて、ゲノム上の大きな障害や小さな挿入・欠失など、自閉症に関連するめずらしい突然変異をより多く持っていることが、これまでの研究で明らかになっています。
新しい研究では、一般的な遺伝性の変異体の性差に焦点を当てました。
この研究を主導したハーバード大学の疫学エリス・ロビンソン助教授によれば、自閉症の症状や遺伝的構造における性差があるために、一般的な変異体の比較が困難であり、その結果これまでに得られた知見に一貫性がないこととが問題となっていました。
今回の研究結果では、女性の兄弟姉妹が自閉症である場合のほうが、男性の兄弟姉妹が自閉症である場合よりも、きょうだいは自閉症である可能性が高いことが明らかになりました。
また、自閉症の子の母親は、父親よりも多く遺伝子変異をもっていることも明らかになりました。
「Cell Genomics」誌にこの研究論文が掲載されています。
この研究には参加していない、米ウィスコンシン大学マディソン校のドナ・ワーリング助教授は、この研究結果は「女性の保護効果モデルを強く支持するもの」であり、その背景にあるメカニズムを理解することが研究者の意欲をさらにかき立てるかもしれない、と述べています。
「もし、そのようなメカニズムがわかれば、生物学的に自閉症をよりよく理解できる可能性があります」
今回の研究では、デンマークで生まれた147万人以上の医療・遺伝情報の収集データから、知的障害を持たない自閉症女性のきょうだい1707人と知的障害を持たない自閉症男性のきょうだい6270人のデータを利用しました。
知的障害は男性よりも女性に多いという性差があるために、その性差をなくすために知的障害をもたない自閉症の人を対象としています。
その結果デンマークでは、遺伝情報からの分析では、「自閉症の女性」のきょうだいは、年齢と性別を一致させた自閉症でない人の7倍、「自閉症の男性」のきょうだいは4倍、自閉症と診断される可能性があることがわかりました。
兄弟姉妹は遺伝子の大部分を共有していることから、この結果は、自閉症の女性が自閉症の男性よりも自閉症に関連する変種を多く持っていることを示唆しています。
ロビンソン助教授の研究チームらは、自閉症の人7628人、その両親13362人、自閉症でない人18862人について、自閉症に関連する多遺伝子リスクスコア(共通変異体の総和)を調査した別の分析も行いました。
多遺伝子リスクスコアは、自閉症でない人たちでは性別による差はありません。
しかし、自閉症の子の母親は父親よりも有意にスコアが高いことが解析で示されました。
また、自閉症に関連する共通遺伝子変異を両親からどの程度受け継ぐかについても、性別によって異なる可能性があることが予備的な研究結果によって示されています。
自閉症の女性の、自閉症とは診断されていない兄弟姉妹の多遺伝子リスクスコアは、両親のスコアのほぼ平均値でした。
しかし、自閉症の男性の、自閉症とは診断されていない兄弟姉妹のスコアは両親の平均値よりも低く、予想よりも少ない変種を受け継ぐことが示唆されました。
ロビンソン助教授はこう言います。
「女性は自閉症から守られているのかもしれませんし、男性は自閉症に敏感なのかもしれません。
しかし、自閉症に関連する遺伝的影響は、他の属性、例えば、高い学歴や推論能力とも関連しています。
自閉症だけでなく、人間の多様性の中で、利益をもたらす要因と困難をもたらす要因のバランスを理解することが重要です」
前提:自閉症の人ときょうだいは遺伝子の多くが共通。
- デンマークの147万人以上の医療・遺伝情報データの分析結果、「自閉症の女性」のきょうだいが自閉症である可能性は、自閉症でない人に比べて7倍であり、4倍である「自閉症の男性」のきょうだいより多い
- 自閉症の人の父親よりも母親のほうが遺伝子変異が多かった
- 「自閉症の女性」の遺伝子変異に関わるスコアは、両親の平均値だった。一方「自閉症の男性」は両親の平均値より低い
→ 以上から、「自閉症の女性」のほうが自閉症に関わる遺伝子変異が「自閉症の男性」よりも多い
→ しかし、実際に自閉症と診断されるのは3〜4倍、男性が多い
→ つまり、遺伝子変異が多くても、女性は自閉症になりにくい
= 「女性の保護効果」
ということです。
(チャーリー)