- 1. 不安を抱える自閉症の人の脳の発達は他の子どもと異なるのか?
- 2. 自閉症特有の不安は脳の扁桃体の大きさと関連しているのか?
- 3. 不安の種類によって扁桃体の形成の仕方が異なるのはなぜか?
恐怖や感情の処理に関与する扁桃体(脳の各半球にある小さな領域)が、不安を抱える自閉症の子どもでは、不安のない自閉症の子どもや自閉症でない子どもとは異なる発達をすることが、新しい研究で明らかになりました。
子どもが経験する不安の種類によって、扁桃体の形成の仕方が異なるのです。
自閉症の人の多くは不安を抱えており、ある推定によれば3分の2以上が不安を抱えています。
そして、精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)に定義されている不安の他に、自閉症の人は自閉症に特有の不安の種類が発生する可能性があるとする研究者もいます。
例えば、特別な興味へのアクセスを失うことへの恐れや、日課の中断の可能性に対する心配などです。
このような不安を抱える自閉症の人は、扁桃体が異常に小さい傾向があることが、これまでに発表されています。
そして、いわゆる「DSMで定義された不安」を持つ自閉症の子については、扁桃体が大きいという新たな傾向を明らかにしました。
この研究を行った、米カリフォルニア大学デービス校MIND研究所の精神医学と行動科学のデイビッド・アマラル教授はこう言います。
「不安の2つの種類について、扁桃体が反対の発達傾向を示す理由は本当に謎です。
神経細胞レベルでは実際に何が起こっているのでしょうか」
アマラル教授らの研究チームは、まだ発見されていない何かが、自閉症特有の不安と扁桃体の小ささの両方を促進する原因となっており、それにより、自閉症の中に新たな分類が定義される可能性があるかもしれないと考えています。
米バージニア大学シャーロッツビル校の神経学のケビン・ペルフリー教授はこう言います。
「これは素晴らしい研究です。
自閉症の人は、自閉症に特有の不安をかかえることを示す証拠となるものです」
アマラル教授らの研究チームは、71人の自閉症の子と55人の自閉症でない子の脳を、約3歳から11歳までに、最多で4つの時点でスキャンしました。
最後の時点では、彼らが開発した自閉症に特化したツールを用いて、子どもたちの不安レベルも評価しました。
自閉症の子どもたちのうち、43人(60パーセント以上)が、不安をかかえていました。
28人が自閉症特有の不安、32人がDSMで定義された不安、16人がその両方をかかえていました。
自閉症でない子は、不安はかかえていませんでした。
DSMで定義された不安のある自閉症の子は、最初の時点でも最後の時点でも、自閉症でない子と比較して右扁桃体の肥大が見られました。
しかし、その他については典型的な扁桃体の時間的成長を示していました。
一方、自閉症特有の不安をもつ自閉症の子は、他のすべての子どもよりも右扁桃体の発達が遅く、最終スキャンまでには扁桃体が小さくなっていました。
自閉症の子の知能指数は25〜170で、32人が知的障害の範囲に入っていました。
33人の自閉症の子は最初の評価でほとんど言葉を話すことはありませんでした。
しかし、知能指数や自閉症特性は、この扁桃体の形成の違いの原因と考えることはできませんでした。
この研究結果は”Biological Psychiatry”誌に掲載されています。
この研究に関与していない、カナダのウェスタン大学の応用心理学で、自閉症の扁桃体と不安について研究しているエマ・デューデン助教授は、自閉症特有の不安は社会的ストレスと関連していて、脳内のストレス系が過剰に活性化することで、扁桃体や感情、学習、記憶に関わる脳部位に下流の影響を及ぼす可能性があると言います。
「とても複雑な問題です。
そして、とても重要であり、さらなる研究が必要です」
今回の研究は、これまでの自閉症の人たちの不安と扁桃体の大きさに関しての相反する知見を解明するのに役立つかもしれません。
アマラル教授の研究室の博士研究員であるデレク・アンドリュースはこう言います。
「私たちは、これらの関連性をもっとよく理解する必要があります。
不安を自閉症特有の不安とに分けることができたことは、本当に正しい方向への第一歩です」
この発見は、脳の発達パターンによっても、さまざまな形の不安を診断できることを示唆していると、ペルフリー教授も言っています。
不安に対するより詳しい治療法を開発するのに役立つかもしれません。
「神経回路レベルで、こうした違いが存在する理由を理解することは、自閉症についての精密医療への道に沿った重要なステップです」
今後、今回の研究チームは、性差や、脳が異常に大きい自閉症の子をよりよく理解するために、女の子を対象に加えることを予定しています。
そして、どのような子どもが不安を抱えるようになるのか、より早い段階で予測できるようにしたいとアマラル教授は言います。
「私たちは、自閉症の人の不安を実際に減らすことができるように、このような研究を行っています。
今回の研究は自閉症の人の生活の質を向上させることを目的とした、より長期的なプロジェクトの第一段階のようなものです」
うちの子は話すことができません。
大きくなった今でも、どうして泣いているのかわからないことが、親であってもよくあります。
本当に申し訳なく、悲しくなります。
かかえている不安や困っていることについて、よりわかり、そうならないようにできる研究にはすごく期待しています。
(チャーリー)