- オキシトシンと自閉症の関係はどのように研究されているのか?
- オキシトシンの血中濃度と脳内オキシトシン濃度の関係はどのように理解されているのか?
- オキシトシンを用いた自閉症治療の効果について、どんな研究結果があるのか?
自閉症の研究者が研究している脳内化学物質の中で、「社会的ホルモン」と呼ばれる、オキシトシンほど注目されているものはありません。
自閉症の子の中にはオキシトシンの血中濃度が低い子がいます。
そのため、いくつかの研究チームがオキシトシンを自閉症の治療として鼻経由での投与する実験を行ってきました。
しかし、これまでのところ、このような臨床試験では一貫した結果が得られていません。
オキシトシンと自閉症との関連について、これまでにわかっていることをお伝えしましょう。
■オキシトシンは脳と身体でどのような働きをするのか?
オキシトシンは、人と人との信頼関係を促進し、脅威に対する反応を和らげ、授乳や母子の結びつきをサポートするなど、さまざまな役割を担っています。
このホルモンは、主に視床下部という、飢えや渇き、体温などの基本的な身体機能を仲介する脳領域で生産されます。
視床下部のオキシトシン産生ニューロンは、側坐核など脳の他の部位に投射し、このホルモンが社会的報酬の学習を制御しています。
嗅球を含む脳の感覚系では、オキシトシンは興奮性シグナルと抑制性シグナルのバランスをとるのに役立ち、少なくともラットでは、社会的情報処理を改善します。
扁桃体では、オキシトシンは否定的な社会的情報に対する脅威反応を鈍らせ、社会的認知を促進するのに役立ちます。
下垂体が、血流中へのオキシトシンの放出を制御しています。
血中オキシトシンは、出産時に子宮筋収縮を開始させるのに重要です。
また、乳汁分泌反射を促進し、乳頭への乳汁の流入を促すことで、授乳をサポートしています。
オキシトシンが社会的相互作用に果たす役割については、科学者たちがプレーリーハタネズミで初めて明らかにしました。
オキシトシンは、ハタネズミが交尾するときに脳内で放出され、一夫一婦制の絆を形成するのを促進しています。ハタネズミのオキシトシン受容体をブロックすると、ペアの結合が阻害されます。
オキシトシンを投与すると、交尾をせずにペアになるになることが、1995年の研究で明らかにされています。
2009年のある研究によれば、若いハタネズミに少量のオキシトシンを投与すると、成体になってからの結合能力が向上し、不安様行動も減少しました。
しかし、長期間の投与は成体になってからの結合能力を損なうことも、2012年に行われた研究で明らかになっています。
■なぜ研究者は自閉症とオキシトシンの関係に注目しているのか?
いくつかの研究で、自閉症の子はそうでない子に比べて平均してオキシトシンの血中濃度が低いことが判明しています。
そして、オキシトシンレベルの低い自閉症の子は、高い自閉症の子に比べ、社会的スキルが低いことも分かっています。
さらに、自閉症の人の中には、オキシトシン受容体(オキシトシンが結合してその機能を発揮するタンパク質)の遺伝子に変異がある人がいます。
しかし、オキシトシンと自閉症との間の正確な関係は明らかにはなっていません。
すべての自閉症の人がオキシトシンレベルが低いわけではありません。
また、すべての自閉症の人がオキシトシン受容体の変化を有しているわけでもないからです。
■オキシトシンの血中濃度と脳内オキシトシン濃度はどのように関係しているのでしょうか?
簡単には答えられません。
オキシトシンの血中濃度は、脳脊髄液中のオキシトシン濃度と高い相関があることを示す証拠があり、これは脳内のオキシトシン活性を反映していると考えられています。
しかし、オキシトシンの血中濃度は、測定方法によって大きく異なるため、中枢神経系におけるオキシトシン濃度を示す信頼性の高い指標とはなり得ないことを示唆する研究結果もあるからです。
■オキシトシンレベルを上げる治療は、自閉症の人の社会的機能を改善することができるのでしょうか?
不明です。
血中のオキシトシンは脳に入ることができないので、研究者は鼻腔スプレーの形で投与する必要があります。
嗅球は鼻腔のすぐ上にあり、ニューロンが鼻腔内に投射されているのため、鼻から投与されたオキシトシンであれば取り込むことができます。
2010年に行われた小規模な研究では、オキシトシンを経鼻投与された自閉症の人は、協力的なゲーム中に他人の顔をよりよく見ていました。
これは、このオキシトシンが自閉症の中核的特徴の1つに対応できることを示す証拠になります。
また、オキシトシンを投与された参加者は、投与されなかった参加者に比べて、ゲーム中に他のプレーヤーとより深く関わりました。
2017年の研究によると、もともと血中のオキシトシン濃度が低い自閉症の子どもたちは、オキシトシン治療後に社会的スキルの改善を示しています。
しかし、もともとオキシトシン濃度が低くなかった自閉症の子は、同じような改善を示しませんでした。
2021年10月に結果が発表された試験によれば、オキシトシン鼻腔スプレーは、自閉症の子の社会的行動を改善しませんでした。
なぜ、これらの臨床試験の結果はさまざまに異なるのでしょうか。
その理由のひとつは、ホルモンの効果を測定する方法と関係がありそうです。
例えば、2021年の臨床試験では、研究者は被験者の社会的引きこもりのレベルを測定するために設計されたツールを使用しました。
しかし、このようなツールは、直感的な合図や微妙な規範を拾うなど、自閉症者の社会的機能を高める他のスキルのわずかな改善を測定するのに十分な感度がないかもしれないと、2010年の小規模試験に参加した米トレド大学精神医学のエリサー・アンダリ助教授が指摘しています。
また、結果がまちまちなのは、経鼻オキシトシンが社会的行動に関与するオキシトシンニューロンに到達できない可能性があるから、という指摘もされています。
さらに、もう一つの説明として、社会的手がかりがない治療状況では、社会的行動に対するオキシトシンの効果は限定的であることが考えられます。
オキシトシンは社会的刺激の顕著性、すなわち相対的重要性を高めると、アンダリ助教授や他の専門家は述べています。
したがって、オキシトシンを用いた治療研究では、効果を最大にするために行動療法と一緒に行われるべきだといいます。
また、これまでのすべての研究からも、自閉症の人の社会的機能を改善するためにどれくらいのオキシトシンが必要か、どれくらいの期間投与すればよいかが、まだわかっていないとアンダリ助教授は述べています。
もう10年近く前になるでしょうか。
海外の大学、日本の大学、の研究による自閉症に対するオキシトシンの効果をメディアで知ると、私はすぐに海外から購入しました。
ただ、手にしたものの、やっぱり不安で、うちの子に使うことはありませんでした。
現時点では、それで良かったと思います。
使うことを検討するにも、素人判断ではなく、きちんと医師に相談するべきです。
薬の影響を受けるのは自分ではなく我が子なのですから。
(チャーリー)