- 自分や家族が自閉症かもしれないと感じたとき、どのように対応すればよいか?
- 自閉症と診断された方が、自分の日常生活や仕事にどのように影響するか?
- 親が自閉症と診断された場合、子どもとの関係にどのような影響があるか?
ジョン・パーネルの10歳の息子が自閉症と診断されたとき、彼はどう対応すればよいか、はっきりわかっていました。
「私はいつも、研究すること、詳しく調べること、何かについて知るべきことをすべて知ることに魅了されてきました」
学術論文を読みあさり、医学を掘り下げていくうちに、自閉症の人たちの多くが、膨大な量の研究をする傾向や欲求を持っていることなどを知りました。
「自閉症者の特徴、社会的な状況での困難さ、秩序と計画の必要性などを読んでいて、突然思ったんです。
これは、私の息子だけのことではない。
私自身なんだ」
近年、自閉症と診断される人の数が急増しています。
英国で8月に発表された診断傾向の調査によると、診断される年齢の中央値は男性で10歳、女性で13歳で、自閉症と診断される人の割合は、2018年までの20年の間に、787パーセント増加しました。
そして、診断される子どもの数が増えたことによる予想外の結果として、多くの親が自分も自閉症であることを知りました。
英国の自閉症研究の第一人者であるケンブリッジ大学のサイモン・バロン=コーエン教授によれば、正確な数字はないものの、これは一つの社会現象だといいます。
自閉症の人が実際に急に増えたというわけではなく、過去の診断が不十分で、現在になって医学が追いついてきたことが原因です。
バロン・コーエンによれば、こうした自閉症の成人は、必ずしも正式な診断を必要としない場合も多いとのことです。
自閉症の特性が、その人の能力を妨げていないかが重要だといいます。
バロン・コーエンは、より自閉症の人の把握がより正確になったことを歓迎する一方で、この新しい数字が、自閉症であることの意味についての理解を薄めるようなことがあってはならないとも考えています。
「自閉症は医学的な診断です。その症状が苦痛を与えている場合にのみ診断されるべきものです」
ビジネスで成功を収めているパーネルは、少なくとも一面では、うまく適応しています。
「自分の自閉症を理解したことで、それが社会人生活でどれほど役に立ったかを知ることができました。
自閉症であることがもたらす多くの利点の中で、私は信じられないほど組織化され、多くのことを成し遂げることができるようになりました。
また、細部へのこだわりが強く、多くの情報を素早く考慮することができ、適切な判断を下すのに役立つ関連パターンを見出すことができます」
また、同僚に異常だと思われるような自分の行動も、説明がつきます。
「一緒に働いている人たちに、こう言ったことがあります。
『誰にどう思われようが、私は気にしないんだ』
そうしたら、『本当に?本当に気にならないのか?』と返ってきました。
10代のころは、うつ病、不安神経症、怒りっぽい性格と闘いましたが、今では、これらの症状は自分の自閉症と関係があると分かっています」
多くの自閉症の人にとって、最も困難なことは、自閉症でない人たちが築いた社会的規範に適合しようとすることです。
バロン=コーエンはそれに対して、こう考えています。
「自閉症に慣れる必要があるのは、社会のほうであって、自閉症の人に社会に慣れることを求めるものではありません。
10歳や13歳のときに自閉症と診断されることが多いのは、小学校から中学校への進級と重なるからです。
より大きく、より複雑な社会情勢を生き抜かなければならないため、自閉症がより明らかになることが多いのです」
子どもが自閉症と診断されてから、親も自閉症だとわかることが多くなり、女性の自閉症にも注目が集まってきました。
「食べ物にうるさいために、摂食障害と診断された女性がたくさんいます。
しかし実際には、摂食障害ではなく、自閉症なんです。
特定の、しばしば淡白な食べ物を好むのも自閉症の特徴です」
40歳のキリ・リン・ガードナーも、子どもの自閉症がきっかけで、自閉症と診断されることになりました。
現在17歳の息子フィンは、5歳のときに診断されています。
彼女は自分の体験と息子の体験の共通点に気づき検査を受けました。
「息子は典型的な自閉症で、物を並べるのが好きで、整理整頓が得意でした。
息子の行動には共感できるところがたくさんありました。
自分自身が診断を受けたことは、やはりショックでしたが、すぐにメリットがあることに気づきました。
私が受診した専門医は、それまで理解されなかった方法で私を理解してくれました」
彼女の母親は、自閉症とは関係なく、精神衛生上の問題で生涯にわたる闘争に耐えており、ガードナーは自分も同じような困難を抱えているのではないかと恐れていました。
「私もそうなのだと、思い込んでいました。
そして、ずっとこれからもそうなのだろうと思っていました。
しかし、実際には自閉症であり、そうではなかったことがわかりました。
自分の人生に大きな変化をもたらす、本当のことを知ることができました。
例えば、社会的なイベントに参加する必要がないことに気づいたのです。
それは、参加したくないからではなく、感覚が過敏になりすぎているからです。
以前は、参加できないことに罪悪感を感じていましたが、今では自分自身に許容範囲を設け、家族や周りの人たちも同じように許容しています。
例えば、旅行に行ったとき、パンフレットに載っているのと違うということで、私はよく落ち込むことがあります。
頭の中では、同じように見えると思っていたのに。
でも、今は理由もわかったし、家族も理解してくれているので、大丈夫です」
自閉症の人は構造を必要とし、不確実性や異なるルーチンと大いに闘う傾向があります。
彼女は、自閉症と診断されたおかげで結婚生活を維持できたと思っています。
「診断がなかったら、私たちは離婚していたかもしれません。
夫は、私の行動が自閉症であるためによることを理解してくれるようになりました」
おそらく、女性よりも男性の方が「世話好き」のパートナーを見つけやすいのでしょう。
これも、自閉症の女性が大人の生活に対応するのが難しい理由のひとつです。
ジョン・パーネルの妻ポーラは、ジョンの診断で大きなプラスになったことは、これまでの困難のいくつかを理解し、それを克服できるようになったことだと言います。
「以前はジョンを置いて友人と外出することに罪悪感を感じていました。
しかし今は私は外出し、ジョンは家にいても大丈夫に思えます。
これまでは、私が夜の外出を計画すると、ジョンは嫌々ながら一緒に来ていました。
ジョンはただ、気難しい人なのだと思っていました」
自閉症は精神疾患ではありません。
その一方で、自閉症をかかえる人は不安やうつ病になりやすい傾向があります。
バロン・コーエンによれば、彼のクリニックに来る成人の3分の2は自殺を考えたことがあり、3分の1は自殺未遂をしたことがあるといいます。
ガードナーにとって、自閉症という診断結果はほろ苦いものだった一方で、自分の経験が息子のフィンの役に立つことも喜んでいます。
そいてガードナーは、自分がより良く過ごせたかもしれない子ども時代や思春期を嘆いてもいます。
「大人になった私は、小さなことが大きな違いになることを知っています」
パーネルの息子は、父親の経験が自分にも利益をもたらしたと言います。
「父が自閉症と診断され、そして詳しく学んだことは、私の自閉症とメンタルヘルスをよりよく理解することにも役立ちました」
自閉症の子の親も自閉症である。
それは、遺伝が関係していることも一般的には考えられることです。
実際、科学は染色体に関する明確な要因があることを発見したとバロン=コーエンは言います。
しかし、子どもの自閉症は、必ずしも遺伝的なものであるとは限りません。
39歳のケビン・チャップマンは、新しいパートナーに出会い、そのパートナーの息子は8歳のときに自閉症であることが判明しました。
それがきっかけで、チャップマン自身も自閉症であることがわかりました。
「正式な診断が完了したわけではありませんが、私のこれまでのいろいろなことに納得できました。
私はいつも友だちを作ることに苦労し、自分は外れていると考えていました。
コンピュータのコーディングなど、特定のことにすごく夢中になる傾向もあります」
バロン・コーエンは、自分が自閉症であることに気づいた大人の生活を改善する方法はたくさんあると言います。
「多くの自閉症の人は、騒がしい環境を苦手とし、感覚的な困難を抱えています。
診断を受けることは、雇用主に対して、
『私の職場環境には合理的な調整が必要であり、平等法の下でそれを求める利があります』
と主張するのに良い理由になります。
自閉症の人が暮らしやすいようにするためには、性別や民族の違いと同じように、彼らも違っていることを認めることが大切なのです。
これらのこととまったく同じように、その人のアイデンティティの一部であることを人々が認識しつつあること、ニューロダイバーシティは本当に良いことです」
自分の問題を指摘してくれる子どもがいない自閉症の大人はどうでしょうか?
バロン・コーエンは、大人が自閉症の検査を受ける理由として、友人関係や親密な関係を維持するのが長い間困難であったことや、職場の人とうまくいかなかったことなどを挙げています。
しかし、「自閉症」というレッテルを貼られることは不愉快なことだと考える人もいます。
バロン-コーエンは、このような偏見をなくすことは私たちの責務であり、自閉症と診断されることが増えるのは自閉症の人だけでなく、すべての人にとって良いことだと言います。
(出典・画像:英The Guardian)
診断が正しくされるようになってきたのは本当に良いことです。
そして、社会のほうが変わるべきというコーエン教授の常々の発言は心強く思います。
(チャーリー)