- 自閉症スペクトラムの子どもが他の生徒とコミュニケーションをとる方法を教えてください。
- 自閉症の子どもが学校で孤立しないためにできるサポートは何ですか?
- AACや動画VSDのようなツールが自閉症のコミュニケーションにどのように寄与するのですか?
自閉症スペクトラムの青少年は、しばしば仲間との社会的交流に困難を経験します。
これらの課題は、言葉が不自由な青少年にとってはより深刻なものとなります。
米ペンシルベニア州立大学教育学部の研究者らは動画を利用した、関連する語彙、具体的な議論のテーマ、コミュニケーションを支援する拡張代替コミュニケーション(AAC)が、自閉症の青少年たちを支援できることを確認しました。
「自閉症をかかえコミュニケーションが簡単でない生徒は、物理的には、教室に一緒にいたり仲間の近くに座っていても、交流がほとんどないことが研究で明らかになっています」
そう、特別支援教育学のセレバ・バブ助教授は言います。
「自閉症の青少年、その両親、クラスメート、そして教師、みんながより多くのコミュニケーションをすることを望んでいるのです。
私たちは、これがとても求められていることであることをはっきり知っていました」
バブ助教授は、新しい論文“Two friends spending time together: The impact of video visual scene displays on peer social interaction for adolescents with autism spectrum disorder” (一緒に過ごす友だち:自閉症スペクトラム障害を持つ青少年の仲間同士の社会的相互作用に及ぼすビデオ映像シーンディスプレイの効果)という論文を”Language, Speech, and Hearing Services in Schools”誌に発表しました。
自閉症の青少年は、過去や未来の出来事について情報を共有すること、適切なタイミングで適切な語彙を使うこと、対話の中で適切な会話をすること、という3つの重要な社交スキルに課題を感じています。
そして、これらのスキルのいずれかが困難であれば、仲間との交流に悪影響を及ぼす可能性があります。
「自閉症の人は、孤独を感じることが多い、あるいはいつも感じていると表現する傾向が、自閉症でない人の5倍もあります」
そう、共著者のデイビッド・ナクノートン教授は言います。
「それはとても悲しいことです。
私たちは、コミュニケーションや交流をサポートする新しい方法を見つける必要があります」
論文の中では、「複雑なコミュニケーションのニーズをかかえる自閉症の青年達にとっては、社会的相互作用の困難はさらに強くなる」と述べられています。
また、自閉症の子どもの約30パーセントが9歳までに発語しない(または限定的な発語しか示さない)ことを示す研究を引用し、それらの人々の多くが、思春期や成人期にも発語を使うことに深刻な困難を経験し続けることも述べています。
「その結果、自閉症の青少年は、教育、職業、レクリエーション活動におけるコミュニケーションの機会において限られた成功しか経験せず、社会的孤立感や抑うつを頻繁に訴えている」
研究によれば、AACによって、自閉症の青少年のコミュニケーションを支援することができます。
仲間同士の交流を支援するためには、AACは3つの重要な課題をクリアする必要があります。
- 必要に応じて過去の出来事について話し合うための言語的・認知的サポートを提供する
- トピック固有の言葉に簡単にアクセスできるようにする
- 速いペースで進む社会的交流の中で、自閉症の人がコミュニケーションの順番を認識しできるようにサポートする
ビデオ・ビジュアル・シーンディスプレイ(動画VSD)は、これらの課題に対応する新しい拡張代替コミュニケーション(AAC)ツールとなります。
動画VSDでは、個人的に関連性のある動画をアプリに追加します。
アプリではその動画は、関心の高い場面では一時停止し、その瞬間をとらえた写真のように表示をします。
そして、それに関連するメッセージを画像に描画(ホットスポット)し表示します。
そうして、動画によるコミュニケーションのきっかけを作ります。
ナクノートン教授はこう言います。
「バブ助教授の今回の研究で本当に革新的だったのは、自閉症の青年を障害のない仲間と交流させたいと思ったことです。
これまで、自閉症の人に社会的スキルを学ぶ機会を与えるのは、専門家だと考えがちでした」
今回の研究の目的は、自閉症の青年と仲間のパートナーとの相互作用の中で、動画VSDがコミュニケーションに与える影響を調査することでした。
自閉症をかかえコミュニケーションが簡単ではない4人の青年が、高校の環境における仲間たちとの社会的相互作用にタブレットベースのアプリで提示される動画VSDを使用しました。
交流中に使用される動画VSDの内容は、自閉症の青年とその仲間たちの興味に基づいて選択されたものです。
バブ助教授はこう言います。
「私たちは、共有できるアクティビティを見つけたかったのです。
ただ一緒の部屋にして、『コミュニケーションをとりましょう』と言うようなことはしたくなかったんです。
高校にいる子どもたちが何をしているかというと、みんな同じです。
廊下でたむろしているときなど、スマホを見ているのです。
私たちは、好みの動画を使うことで、仲間同士の交流を支援するコンテクストを提供することに決めました」
VSD研究に使用する動画を決定するために、自閉症の学生の興味を調べました。
スポーツ、メイクアップチュートリアル、料理、ユーモアなどの分野で、自閉症でない学生と共通のテーマを発見しました。
バブ助教授によれば、彼らが求めている最も重要なサービスのひとつは、その場で簡単に言葉がわかることです。
「学生がコミュニケーション機器を使う場合、あらかじめたくさんの単語がプログラムされていますが、その単語が動画にあったものだとは限りません。
私たちは、動画の特定のセグメントに必要な単語に正確にアクセスでき、新しい単語が必要な場合は、その場で新しい単語を追加できるようにしたいと思いました」
この研究では、始めに動画VSDの作成方法と使用方法を参加者に教えました。
そして、動画VSDの導入前と導入後で、参加者のコミュニケーションの頻度を測定しました。
まず初期段階では、参加者はただの動画を視聴しました。
この段階では、自閉症の参加者とそうでない仲間たちはほとんどコミュニケーションをとりませんでした。
その後、参加者はビデオVSDを作成するための簡単なトレーニングを受けました。
アプリを使って、動画を一時停止し、画面上に円を描き音声を録音します。
動画を見るときには、表示された円をタップすると、録音した音声が再生されます。
そして研究者たちは、自閉症の参加者全員とそうでない仲間たち全員が、一緒に動画を見ながらコミュニケーションをすぐに増やしたことを発見しました。
その後研究期間中ずっと、彼らのコミュニケーションの回数は増加していきました。
「すごくシンプルで、直感的に使えるアプリになっています。
これによって、自閉症の人たちとそうでない人たちが、一緒に言葉を増やし、コミュニケーションの機会を作り、お互いにコミュニケーションをとるようになりました」
こうして、動画VSDの使用は、自閉症の青年とその仲間とのコミュニケーションを促進するのに有効なことが確認されました。
これにはいくつかの理由があるとバブ助教授とナクノートン教授は言います。
まず、自閉症の子どもたちが、自分たちだけでは苦労しがちなコミュニケーションのための明確で支持される文脈を得ることができたことです。
「家族と一緒にアルバムを見るようなものです。
誰にとっても、特に自閉症の人にとっても、過去の出来事を説明するのは難しいことです。
今回のような視覚的なサポートがあれば、お互いが同じことを話しているとわかって、コミュニケーションがとても楽になります」
そしてバブ助教授は、今回の方法が自然な会話の機会を生み出し、両者が単に受動的に動画を見るのではなく、相互作用により深く関与するようになったと付け加えます。
「ホットスポットを追加すると、動画を見るとき、ホットスポットが作られた場所で動画が自動的に一時停止するのです。
それが、自然な会話のきっかけになりました」
自閉症の子どもたちが仲間と交流するのに役立つだけでなく、自閉症の子どもたちが学校に関連する話題について親とコミュニケーションをとるのにもこの動画VSDの技術は役立つとナクノートン教授は語っています。
(出典・画像:米ペンシルバニア州立大学)
困難をかかえる人を助ける技術。
多様な人たち、それぞれがのびのび楽しく生きていけることに役立っていく技術。
こうした技術研究、開発はますます進んでほしいと願います。
(チャーリー)