- 診断を受けることで、自分を理解し生き始めることができるのはなぜ?
- 自閉症の成人が診断を受けるまでに苦労する理由は何か?
- 自閉症の成人が診断を遅れると生活の質や精神的健康にどのような影響があるのか?
サム・フレミングは、物心ついたときから、不安やうつを抱えていました。
33歳になるまでに、社会的困難、感覚障害、引きこもりなどの問題を生涯にわたって抱えてきました。
懸命な努力にもかかわらず、どんなに治療や投薬をしても効果がありませんでした。
そのためフレミングは自分の性格に原因があるのではないかと考えるようになりました。
それが変わったのは今年、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されてからです。
「診断結果を伝えられたとき、私は震えていました。
長い間、息を止めていたのが、ようやく大きく息を吐くことができた気がしました。
ようやく自分を理解して、生き始めることができる言葉を聞くのを待っていたのです」
診断を受けるまでにも苦労がありました。
当時20歳だった2008年にそれは始まりました。
ある知人がフレミングにアスペルガー症候群の特徴があると指摘しました。
アスペルガー症候群は、現在では正式な診断名ではなく自閉症スペクトラム障害に分類される言葉です。
診断を受けるために、待機リストで3年半も待ちました。
こうした経験をしたのは、フレミングだけではありません。
最近、イギリスのエッジヒル大学の研究者が、自閉症の成人のかなりの割合が、人生の後半になるまで診断されていないことを発見しました。
そして、多くの自閉症の人たちが、診断が遅れることで、生活の質が低下し、精神的な健康状態も悪くなっています。
“Journal of Autism and Developmental Disorders”に掲載された研究では、420人の自閉症の成人とそうでない成人を対象に、生活の質と自閉症の特性レベルについて調査を行いました。
そして、成人期に診断を受けた8人の自閉症の人にインタビューも行いました。
この研究の共著者であるライアン・クロス博士によれば、自閉症でない人は年齢を重ねるごとに生活の質が高くなる傾向があり、これは不安の軽減や社会的支援の増加に大きく起因しています。
しかし、自閉症の人の場合はそうなっていませんでした。
調査のインタビューでは、自閉症の成人が、いろいろな理由で子どもの頃に診断を受けなかったことが明らかになりました。
両親が自閉症に対して否定的な認識を持っていたために、診断を受けることをためらっていたケースもありました。
また、自閉症の人の中には、サポートの必要性が低く、「高機能」と見なされていたために、診断を受けられなかった人もいます。
クロス博士はこう言います。
「これは、多くの自閉症の人が育った70年代、80年代、90年代の文化を反映しているのかもしれません。
診断を受けることがいかに難しいか、特に大人の場合、診断にどれだけの時間がかかるか、診断のための資金がどれだけ少ないか、どれだけ多くの穴を飛び越えなければならないかが明らかになりました」
本研究の共著者であるグレイ・アテロン博士はこう言います。
「診断を受けることは、年齢に関係なく、とくに自閉症の成人の生活を改善するために重要です」
アテロン博士は、自閉症と診断されることで、その人のアイデンティティが確立され、自分の違いを科学的に説明できるようになり、その特徴を個人的な欠陥のせいだと誤って考えてしまうのを防ぐことができるといいます。
「そのために、診断を受けるのが早ければ早いほどいいと思います」
また、研究者らは、自閉症の成人の診断年齢と生活の質の向上に、性別が大きく関わっていることも明らかにした。
この研究によると、一般的に男性は女性よりも数年早く自閉症の診断を受けています。
女性は未診断のままでいるリスクが高く、そのために支援を受けることができません。
また、女性は、自閉症の正式な診断を受けていなくても、社会的な状況に適応するために自閉症の特徴を「カモフラージュ」する傾向があるという小規模な研究結果もあります。
アテロン博士は、女性の自閉症がどのようなものか、いわゆる「表現型」についても誤解があると付け加えています。
「情報が不足していたり、矛盾していたりするために、自分が自閉症であるかどうか疑問に思っている多くの女性が混乱しているのではないでしょうか。
私たちの研究に参加した自閉症の女性は、男性に比べて成人してからの診断が多くなっていました。
親、教育者、診断者、臨床医に、自閉症女性の症状がどのように異なるか、しかし、彼女たちが診断を必要としていることに変わりはないということを、どうやって伝えるかを考えなければなりません」
多くの自閉症の女性がそうであるように、ジェニー・カーティも幼少期以降に診断を受けました。
27歳の彼女が正式な診断を受けたのは、ちょうど1年前のことでした。
しかし、彼女は25歳になるまで、自分が自閉症かもしれないとは考えもしませんでした。
というのも、「自閉症の少年」というステレオタイプに自分が当てはまっていないからです。
それどころか、カーティは自分の敏感さや苦労は性格の欠点だと考えていました。
これは彼女の精神的な健康に深刻なダメージを与えました。
「診断を受けたとき、私はさまざまな感情を抱きました。
自分の脳が周りの人と違う働きをしている理由がわかって、安心しました。
自分が持っている特殊性をすべて合理的に説明できるようになりました」
そうカーティは言います。
そして、自分が自閉症であることを知ったことで、安心して自分の診断結果を他の人に伝えることができるようになったといいます。
「私は学校に対してもかなりの憤りを感じていました。
例えば、私が子どもの頃に気づかなかったこと、私が落ちこぼれてしまったことなどです」
自閉症を専門とする臨床心理士のソパナ・ブラエ博士によれば、今回の研究は診断時の年齢が自閉症の発達を予測する重要な要素であることを示しています。
また、年齢や性別が自閉症の成人のメンタルヘルスにどのような影響を与えるかを明らかにすることで、専門家は特定のグループを対象に早期発見と療育を行うことができると付け加えています。
「自閉症の人の生活の質を向上させるためには、早期発見が重要です。
この研究は、自閉症に対する一般の理解を深めることと、診断を受ける機会を増やすことがいかに重要であるかを示しています」
アテロン博士は、自閉症をかかえる大人にとって、診断を受けることは戦いの半分に過ぎないと付け加えています。
今回の調査では、ヨーロッパと北米の両方の国から参加した被験者が、診断後のサポートを受ける際の待ち時間の長さやサービスの充実度についても伝え、だからこそ早期診断が重要だと結論づけます。
自閉症と診断された子どもたちには、教育支援などのシステムが組み込まれています。
また、子どもたちには介護者がいます。
しかし、自閉症の子どもたちが大人になって、そのような公的なシステムから離れてしまうと、セーフティーネットを失うことになります。
自閉症の大人に対する医療支援や自閉症の人たちが主導する草の根運動など、より良いケアシステムが求められます。
成人になってから自閉症と診断を受けたとしても、その診断がもたらすはずのサポートが必要なのです。
(出典:米verywell health)(画像:Pixabay)
正式に診断されることで助かる方がいます。
なにより、適切な支援を受けるための一歩となるものです。
(チャーリー)