- 自閉症の子どもや若者のこだわり・反復的行動は時間の経過とともに増えるものと減るものがあるのか?
- 制限性・反復性行動は一括りにできるほど単純なものなのか?
- 自閉症の子どもや若者を支援するには、行動がどのように変化するかを追跡することが重要なのか?
自閉症の子どもや若者に見られるこだわり・反復的行動は、年齢や知的能力に応じて時間の経過とともに増加するものと、減少するものとがあることが2つの新しい研究で明らかになりました。
この結果は、自閉症の診断の中核となる制限性・反復性行動(反復的な動作、同じものへのこだわり、感覚的な敏感さ、興味の制限などを含む)は、一括りにするにはあまりにも多様であるという主張を新たに裏付けるものとなります。
今回の研究を主導した豪メルボルン大学の上級研究員であるミルコ・ウルジャレビックはこう述べます。
「この行動は、原因や治療法が異なるいくつかの異なるサブドメインからなる複雑な行動領域です」
今回の研究には参加していない米ペンシルバニア大学の心理学のベンジャミン・エリス助教授はこう言います。
「自閉症の子どもや若者を支援するためのよりよい戦略を開発するためには、これらの行動が時間とともにどのように変化するかを追跡することが重要です。
例えば、3歳のときにある種類の行動に対して支援を必要としていた子どもが、13歳になったときにはもうその支援を必要としていないかもしれないし、別の種類の支援を必要としているかもしれません」
もう一つの別の研究を主導したカナダの依存症・メンタルヘルスセンターのポスドク研究員バレリー・カーチェンスはこう言います。
「いずれなくなるものを、なくそうとしてリソースや労力を費やす必要はないのかもしれません」
ウルジャレビック教授らのチームは、SPARKと呼ばれる遺伝子登録機関に登録されている自閉症の17581人について、制限行動や反復行動の重症度、言語能力、認知機能に関する親からの報告データを分析しました。
そして、様々なタイプの制限行動や反復行動を、
- 反復運動行動
- 同一性へのこだわり
- 自傷行為
- 強迫観念
- 狭い興味
の5つのグループに分類しました。
自閉症の男の子は、自閉症の女の子に比べて、反復運動行動と狭い関心事が重度であるのに対し、強迫観念と自傷行為はその逆であることが示されました。
また、反復運動行動の程度が高いほど、認知能力や言語能力のレベルが低く、年齢も低いという傾向が見られました。
この研究成果は、米国の児童青年精神医学学会誌”Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry”に掲載されています。
また、知能指数(IQ)が低いと、興味の対象が狭くなる傾向が見られました。
しかし、親が記入した質問票では、強度が異常な狭義の興味と、内容が異常な興味は区別されていない、とウルジャレビック教授は指摘します。
「この2つの異なるタイプの興味には、おそらく異なるメカニズムがあり、IQなどの要因と異なる形で関係している可能性があることは明らかです」
もう一つの研究では、205名の自閉症の子どもを対象に、診断時から11歳までの3つの時点で、親の報告に基づく自閉症診断面接改訂版を用いて、15種類の制限行動および反復行動を記録しました。
狭い関心事や騒音への敏感さは年齢とともに増加し、一方で、物の反復使用、異常な感覚的関心事、複雑な物言い、異常なこだわりなどは減少することが示されました。
いくつかの軌跡は、IQに基づいて年齢とともに変化しているようです。
例えば、日常生活の変化に対する困難さは、IQが93未満の子どもでは年齢が高くなるほど顕著になりますが、IQが93以上の子どもでは安定していました。
この研究成果は”Molecular Autism”誌に掲載されています。
「これらの行動が発達に果たす役割は非常に複雑で、まだよくわかっていません」
そう、カーチェンスは言います。
米ペンシルバニア大学の心理学のベンジャミン・エリス助教授は、これらの2つの研究結果を総合すると、さまざまな制限行動や反復行動は互いにダイナミックな関係にあり、ある行動を改善するための戦略が別の行動を増幅させる可能性があるという考えを裏付けるものだと言います。
例えば、音に敏感な子どもは、ヘッドフォンを使うことに慣れてしまい、依存するようになると、同じものにこだわるように見られるかもしれません。
「私たちは、サポートがどのように役立っているのか、あるいはどのように役立っていないのかがわかっていません」
個々の行動を対象とするのではなく、それらの行動の根底にある核心的な問題に取り組むことで、自閉症の子どもや若者をよりよく支援できるかもしれません。
例えば、自閉症の若者の実行機能を強化することで、変化に柔軟に対応できるようになるとエリス助教授は言います。
また、不安に対処することも有効だとカーチェンスは言います。
多くの自閉症の若者は、制限された反復的な行動をとることで、自分の感情をコントロールし、自己を落ち着かせるようとしているからです。
今回の研究結果は、個々の制限行動や反復行動を研究することの重要性を示しているとカーチェンスは言います。
しかし、これらの行動を細かく分けすぎると、お互いの関係を見失ってしまう危険性があることにも言及します。
「共通のメカニズムや治療ターゲットの研究には、ある程度、まとめたほうが有効かもしれません」
ウルジャレビック教授らは、カテゴリーレベルの区分を維持しつつ、個々の制限行動や反復行動の全容をよりよく把握し、発達における役割をより深く理解するための新たな臨床ツールの開発に現在取り組んでいます。
2つの研究からわかったことを列挙すると、
- 自閉症の男の子は反復運動行動と狭い関心事が重度
- 自閉症の女の子は強迫観念と自傷行為が重度
- 反復運動行動の程度が高いほど、認知能力や言語能力のレベルが低い
- 知能指数(IQ)が低いと、興味の対象が狭くなる
- 狭い関心事や騒音への敏感さは年齢とともに増加
- 物の反復使用、異常な感覚的関心事、複雑な物言い、異常なこだわりなどは年齢とともに減少
- 日常生活の変化に対する困難さは、IQが93未満の子どもでは年齢が高くなるほど顕著
うちの子も年齢とともに増えてきたこと、減ってきたことがあります。
理解が深まれば、「いずれなくなる」ことをなくそうとする必要はなくなりますね。
(チャーリー)