- 自閉症スペクトラム障害を持つ人と持たない人の違いは何によるものか?
- 幼少期の重度の感染症が自閉症リスクと関連している可能性はあるか?
- 特定の遺伝子変異と幼少期の免疫活性化が自閉症にどのような影響を与えるのか?
自閉症と診断されるリスクを高めるような遺伝子変異は数多く発見されています。
しかし、これらの変異があっても、自閉症スペクトラム障害を発症する人とそうでない人がいる理由は明らかになっていませんが、幼少期の重度の感染症が可能性として挙げられています。
今回の研究では、特定の遺伝子、結節性硬化症複合体2(Tsc2)遺伝子に変異があるオスのマウスは、幼少期に免疫に強い負担がかかると、脳の免疫細胞であるミクログリアが変化し、それに関連して、社会的行動に障害が生じることがわかりました。
また、300万人以上の子どもたちの入院記録を分析したところ、生後18カ月から4歳までの間に感染症で入院した子どもたち、とくに男の子は、健康な子どもたちに比べて将来、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断を受ける可能性が高くなっていることもわかりました。
米テキサス大学オースティン校デル・メディカル・スクールの小児神経科医で、今回の研究には関与していないオードリー・ブランバックはこう言います。
「遺伝子に原因の可能性を考える研究者もいれば、胎内での暴露や幼少期のストレスに原因の可能性を考える研究者もいます。
しかし、この2つを組み合わせて、遺伝子と環境の相互作用を見つけようとしている研究者は非常に稀です。
そして、神経科学では神経細胞を中心に研究しますが、脳の大部分は非神経細胞です。
このような非神経細胞を研究したことは非常に興味深いことです」
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の神経科学者アルチノ・シルバはこう言います。
「突然変異が自閉症に影響を与える可能性はわかっていましたが、遺伝子に変異がある患者を調べても、その変異を持つすべての人が自閉症になるわけではありませんでした」
2010年、シルバ准教授らの研究チームは、妊娠中のマウスの免疫系に負荷をかけると、遺伝子に特定の変異をもつ子どもに、自閉症のような行動が現れることを明らかにしました。
今回の研究では、シルバ准教授らは発達のもっと遅い段階で、遺伝と環境の相互作用をさらに詳しく調べました。
特定の遺伝子変異をもつマウスとそうでないマウスに対し、生後3日目、7日目、14日目に、免疫刺激剤か生理食塩水を注射しました。
特定の遺伝子変異をもつマウスが成体になった後、研究チームは社会的相互作用テストを行いました。
片方の部屋は空っぽ、もう片方にはマウスがいます。
そして24時間経過後には、片方の部屋には見慣れたマウス、もう片方の部屋には新しいマウスの状態にします。
すべてのマウスは、初日、空の部屋よりもマウスと一緒にいる時間を長くもちました。
24時間経過後、部屋の状態を変えると、マウスの多くは新しいマウスの部屋よりも一緒に過ごした見慣れたマウスの部屋を好みました。
しかし、幼少期に免疫刺激剤を投与された特定の遺伝子変異をもつマウスのオスだけは、見慣れたマウスの部屋と新しいマウスの部屋を同じように好みました。
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の神経科学者で、今回の研究には参加していないアニー・シエニアは、こう言います。
「これは社会記憶に特有なもので、社会性の障害につながらなかったことは、非常に興味深いことでした。
このことは、生後のウイルス感染が、生後早期では脆弱な社会的記憶に重要な神経回路を破壊している可能性を示唆しています」
そして、特定の遺伝子変異をもつマウスは、そうでないマウスと同じようには発声せず、母マウスが反応しにくいような短い声で発声することがこれまでに明らかになっています。
シルバ准教授らの研究チームは、UCLAの生物学者で発声学習の専門家であるステファニー・ホワイトのグループと共同で、感染症がこれらの発声に及ぼす影響も調べました。
そして、初期の免疫活性化が、発声の違いをもららすことを明らかにしました。
このことは、ヒトに見られるASDの初期の社会的コミュニケーション障害と類似しているかもしれないと述べています。
次に、成体マウスの脳内の遺伝子発現を解析したところ、免疫機能を活性化させる免疫賦活剤を投与した特定の遺伝子変異をもつオスでは、中枢神経系において唯一の免疫細胞であるミクログリアや、ウイルス感染を感知するとそれを伝えるインターフェロン応答に関連する遺伝子が活発になっていましたが、他のマウスではそうではありませんでした。
そして、免疫刺激剤を投与した特定の遺伝子変異をもつオスに、ミクログリアを枯渇させる薬剤を使用すると、数ヵ月後にミクログリアが再び出現しても、社会的行動の障害はなくなっていました。
「これは、(ミクログリアの)再増殖が、成人におけるミクログリアの機能を再構築する新たな機会となり、成人のASD患者に新たな治療法を提供できる可能性を示す最初の例の一つと考えます」
さらに研究チームは、遺伝子変異や免疫抑制剤の投与によってインターフェロンのシグナルが機能しなくなったマウスでは、感染を疑似体験しても社会的記憶や発声に障害が生じないことも明らかにしています。
以上の結果から、マウスの自閉症のような状態の発現には、ミクログリアによるインターフェロン反応が関与していることが示唆されました。
また、自閉症は男の子が女の子よりも約4倍多いことを考えれば、オスとメスでミクログリアの発達が異なることが免疫活性化に対する反応の性差を説明するのに役立つかもしれないとシルバ准教授は言います。
そして、シルバ准教授は友人である米シカゴ大学の計算生物学者アンドレイ・ルジェツキーに、350万件以上の健康保険請求のデータを調べてもらい、重度の感染症と自閉症との間に何らかの関係があるかどうかを調べてももらいました。
「数か月後経って、
このデータセットで見つけた中で最大の関連性だ、
そう彼は言っていました」
1歳半から4歳までの間に感染症で入院した男の子は、感染症で入院しなかった男の子に比べて、後に自閉症と診断される可能性が40パーセント高くなっていました。
女の子の場合は、統計的に有意な差はありませんでした」
UCLAの神経科学者であり、今回の研究を共同して行ったマヌエル・ロペス・アランダはこう言います。
「感染症は命にかかわるだけでなく、生き残った子どもの自閉症のリスクを高める可能性があることがわかりました。
この論文は、子どもにワクチンを接種する必要があるという証拠として理解されなければなりません」
今回の研究に参加していない米ル・ボヌール小児病院の小児神経科医のタンジャラ・ギプソンは、基礎科学と300万人以上の子どもたちの臨床データの分析の組み合わせたことは素晴らしいと言います。
しかし、こうした疑問も言います。
「自分の子どもが、感染症の危険にさらされていることをどうやって知ることができますか?
熱が出るたびに心配しなければなりませんか?
そのために、次のステップとしては、子どもがいつよりも危険な状態にあるかを示す指標があるかどうかを調べることが必要だと考えます」
(出典:米TheScientist)(画像:Pixabay)
特定の遺伝子変異+感染症などによる幼少時の免疫活性が、自閉症の状態にしている。
つまり、ある特定の、遺伝と環境が揃ったときが自閉症の原因になる。
そういう研究でした。
自閉症を防ぐために「ワクチンも」というようなコメントも挙げられていましたが、それは私はちょっと違うかなと。
少なくとも現在は、自閉症や発達障害に紐付けるような考えはもたず、ワクチンが対象とする病気のためにワクチンは摂取するものだと思います。
うちの子も新型コロナのワクチン2回目の摂取が済み、ちょっと安心です。
(チャーリー)