イーロン・マスクが先日、米国の国営テレビで自分が自閉症であることを明かしました。
電気自動車ブランド「テスラ」で有名なこの起業家は、神経多様性を肯定的に受け止めています。
ビジネスリーダーや技術革新者としてのマスクにどのような印象を持っていようとも、彼の告白が社会、とくに雇用する側が神経多様性をもつ人たちへのアプローチを再考するきっかけになることを、多くの人が望んでいます。
自閉症は神経多様性の一形態に過ぎません。
ジェンダーや人種の多様性と同様に、神経多様性にもジェンダーや人種と同等の注意を払って採用し、リーダーシップを発揮してもらう必要があります。
企業のCIOやCTOが技術者の確保に苦労しているなかで、神経多様性を持つ人たちは可能性を秘めた金脈のような存在だと考える人は少なくありません。
神経多様性とは、アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラム、注意欠陥多動性障害(ADHD)、難読症、計算障害、協調性や動作に影響を及ぼすディスプラクシアなどの発達障害、トゥレット症候群など、多岐にわたる特性を指します。
英サウスウェールズ大学の発達障害学科長であるアマンダ・カービー教授は神経多様性、ニューロダイバシティという言葉が最近使われるようになったことを歓迎しています。
「この枠組みは、あなた自身のことを少し教えてくださいという意味で、とてもポジティブなものであり、大きな変化です。
神経多様性とは、私たちの脳がどのように分岐しているかということです」
カービー教授は、ニューロダイバーシティを意識することで、社会、ひいてはビジネステクノロジーのリーダーたちが、例えばADHDの人はエネルギッシュで熱意があり、クリエイティブでプレッシャーに強く、パターンを見極める能力があると考えることができるようになるといいます。
「適切なタスクに配置されたときには超集中力を発揮できる、チームメンバーがプロジェクトや成果を重視しなければならない今日の動きの速いデジタル経済においては理想的な人たちです。
人それぞれに、脳があり、思考、感情、気分、行動があるということは、究極的にはみんなに神経多様性があるということです。
私たちの脳は当然ながら人によって異なり、それゆえに多様であり、それは人間の違いの一部でもあります。
86億個の脳細胞があるのに、なぜ全員が同じように行動するのでしょうか?
あなたが仕事をしている相手にも、神経多様性があります。
ある分野では発散的で、ある分野ではスキルが飛びぬけているような人がいるはずです」
CIOのマーティン・カーペンターはこう言います。
「神経多様性のメンバーは、自分の乖離と衝突する状況に対処するための個人的なルールをもって行動しています。
何年もかけて対処法を身につけています」
カービー教授の著書には、カーペンターが言うこのような対処法をカモフラージュと呼び、そうした従業員は自分が神経多様性を持っていることを公表したがらないということが書かれています。
特に女性は、自分のスキルや困難さを隠すのが得意だといいます。
「これは、目に見えない違いであり、行動にのみ現れ、時には文化的規範に挑戦するような、民族、性的指向、アイデンティティ、宗教的信念を超えたものです。
神経多様性のある人は、多くの場合、無口で控えめですが、自分がよく知っている分野のことになると、過剰にシェアすることがあります。
このような特性に対する認識や受け入れが、まだ不十分です」
もしあなたが自閉症であれば、雇用のチャンスは3分の1しかありません。
企業は自分たちが仕える社会を代表していないことに気づくでしょう。
カーペンターは、数年前から神経多様性への関心を高める必要性を訴えるCIOの一人です。
シノミクス・アグリテック社のCIOである彼は、ビジネステクノロジーのリーダーにとって、神経多様性のある候補者は、データ分析、テスト、セキュリティなど、組織が必要とするスキルを持っていることが多いと説明します。
「私は、当時は知らずに神経多様性のある人たちを雇用し、育ててきました。
これは私のキャリアの中でも輝かしい経験でした。
他の人が『合わない』という人を採用し、その人が生き生きと活躍できる環境を提供することで、結果的に人生の選択肢が格段に広がるのであれば、これほど嬉しいことはありません。
ときには、最高の人材であっても、彼らの旅を助けるために特別な仕事が必要になることがあります。
もし私たちが神経多様性についてもっと積極的に考えれば、その人の能力を最大限に引き出すために、企業の組織をその人に合わせていくためにどうするべきかと考えるはずです」
自閉症の人たちを雇用する非営利団体アンビシャス・アバウト・オーティズムのビジネスアンバサダーであるドミニク・ヒラードは、こう言います。
「神経多様性とは、自分が本当に得意なことに集中する人たちのことです」
英国の放送局BBC、ユニバーサルミュージック、政府機関のGCHQ、電話会社のバージンメディアなどの組織が、自社のビジネスにおけるニューロダイバシティを高めるためのプログラムを開始しています。
しかし、ヒラードはそれには、もっと組織の文化やリーダーシップのスタイルを変えなければならない。
そして、それがどれほど困難なことであるかについてはまだ理解されていないと言います。
過去に採用の仕事もしていたヒラードは、これまでの採用の慣行は神経多様性のある候補者やCIOにとって有害であるといいます。
CIOのカーペンターも同意見で、テクノロジー分野の人だけでなく、CIOやCTOの面接もそれではうまくいかないといいます。
「不安を抱えている人を面接の場に立たせてても、その人はパフォーマンスを発揮する、表現することはできません。
それよりも、実際に働く機会で評価を行ったほうがいいでしょう」
CIOのクレア・プリーストリーも同意見です。
「広く深く豊かな人材を活用するためにはどうすればよいかという視点に立てば、異なる考え方で探索を始めることができます。
積極的に異なるものを求めることで、これまで知らずのうちに排除してしまっていた才能をもつ人を探索することができます。
つまり、幅広い才能を持つ人たちが最も効果的なチームを作り出せるということを理解すれば、職場の多様性を実現できないことは、企業の採用が失敗していることを意味します」
企業のCIOやCTOが自分たちのチームや組織の中で神経多様性に対する態度やアプローチを変えようとしているのと同じように、社会でも変化が必要だとカービー教授はいいます。
「神経多様性について会話をする必要があります。
しかし、多くの人は避けてしまいます」
そして、神経多様性を持つ人たちは人生の早い段階で神経多様性を理解することが重要だといいます。
そうすることで、彼らの才能を早期に開花させ、得意なことに集中し、不得意なことを理解して受け入れることができるのです。
カービー教授によると、教育は長い道のりを歩んで発展してきましたが、手書きの文字に頼った試験など、神経多様性の人に沿っていない従来の評価方法があまりにも多く存在しています。
「公平性とは、人々のニーズ、スキル、才能に応じて異なる扱いをすることです。
私の経験では、CIOやCTOは性別の多様性がもたらすメリットをよく理解しており、人種の多様性、さらにはニューロダイバシティにも取り組まなければならないことを認識しつつあります。
多くの組織が、スキルをもつ人の不足を懸念している状況で、ニューロダイバシティの人たちはビジネス・テクノロジー・リーダーが必要とする多くの才能を持っています。
デジタルトランスフォーメーションと同様に、受け入れるためには、組織の文化を変えることが必要です」
(出典:英diginomica)(画像:Pixabay)
注目しなければ、取り残されていきます。
企業だけにとどまりません。
社会の進歩も滞ります。
(チャーリー)