- 自閉症の人が他人の感情を読み取るのが難しい原因は何ですか?
- 自閉症と失感情症の違いは何ですか?
- 失感情症がある場合、どのように感情認識のトレーニングを行えばよいですか?
顔を見たときの視線のパターンは、自閉症というよりも、自分の感情を認識することが困難な「失感情症(アレキシサイミア)」に関連していることが、新しい研究で明らかになりました。
この研究結果は、自閉症の核心と考えられている感情処理の違いが、実際には失感情症によるものであることを示唆していると研究チームは述べています。
自閉症の人は、顔の表情や感情を認識したり反応したりするのが苦手だと思われがちです。
しかし、これまでの研究では一貫性がありませんでした。
英国オックスフォード大学の認知神経科学のジオフ・バード教授はこう言います。
「自閉症の人がかかえる困難は失感情症が原因であることを示唆する証拠が増えている」
自閉症の人の約50パーセントが失感情症をかかえているのに対し、自閉症でない人では5パーセントです。
「自閉症の症状を引き起こしているのは、自閉症ではなく失感情症です。
だからこそ、自閉症の研究論文にはさまざまな結果が掲載され、自閉症の人の中にもさまざまな能力が存在するのです」
これまでの研究では、一連の静止画を使って、人が他人の目に視線を向ける頻度を追跡することで、感情処理を測定しています。
今回の研究では、より自然なコミュニケーションに近づけるために、動画を見ている間、状況に応じて視線のパターンがどのように変化するかを観察しました。
オックスフォード大学の大学院生であるエリオ・クレメンテ・キューブはこう言います。
「コーヒーを淹れようとしているときと、キッチンにあるものを洗おうとしているときでは、視線が異なる可能性があります。
人が顔や表情を見る方法は、その人が何をしているかによって大きく異なります」
自閉症の成人25名と自閉症でない成人45名の被験者は、ニュートラルな表情をしている人の短い動画を見た後、喜び、悲しみ、怒り、恐怖、嫌悪の5つの感情のいずれかの表情をしている人の動画を見ました。
感情を認識したり、その強さを判断したりしてもらったり、事前にどの感情を見るかを知らせることもありました。
自閉症や失感情症の特性、抑うつや不安の症状を測定する調査票にも記入してもらいました。
研究チームは、すべての実験条件において、自閉症の特性よりも失感情症の特性の方が、目を見る時間やその行動の変化とより関連していることを発見しました。
また、失感情症の特徴が多い人は少ない人に比べて、特に顔を自由に探索しているときに、目を見る回数が少なくなっていました。
「失感情症を考慮しなければ、社会的情動行動の重要な側面を見逃す可能性があります」
この研究結果は”Cognition”誌に掲載されました。
自閉症の人とそうでない人は、指示された内容に応じて、目を見る時間が変わりました。
例えば、ある感情を期待するように指示された場合、彼らの視線パターンは、感情を知ろうとしているときよりも構造的で予測可能なものとなり、目からの情報をあまり求めていないことが示唆されました。
しかし、失感情症のレベルが高いと、指示に応じて視線を調整する度合いが低くなっていました。
また、失感情症の人は、手がかりがある状態では視線のパターンが少なくなるのではなく、より感情を知ることができなくなっていました。
この結果は、自閉症の人は事前の知識を意思決定に組み込めないという説を否定するものであるとバード教授は言います。
「なぜなら、自閉症の人の視線パターンは、これから見ようとしている感情を知っているときには、その時間がより予測しやすくなったからです。
しかし、まだ失感情症がトップダウンの統合の欠如や事前情報の利用の失敗の原因であるとは言い切れません。
それでも、この結果は、自閉症の人が事前の情報を判断や行動に利用しないという考えとは、相容れないものです」
インド工科大学の電気工学のウッタマ・ラヒリ准教授は「今回の研究成果は、非常にエキサイティングで印象的です」と述べています。
自閉症の子どものためのバーチャルリアリティプラットフォームを開発するために視線を研究しているラヒリ准教授は、静的な画像ではなく、動的な感情に反応する視線のパターンを分析することは有用だと言います。
英国バーミンガム大学のジェニファー・クック上級研究員は、今回の論文は、視線パターンが自閉症よりも失感情症によって引き起こされるというバードの仮説を強く裏付けるものだといいます。
「これは非常に重要なことです。
もし、失感情症を考慮していない研究で、発見されたものが自閉症に特有のものであると主張しても意味はないでしょう」
クック上級研究員は、失感情症を考慮して、自閉症の成人と自閉症でない成人の間には、怒りの認識に違いはあるものの、幸せや悲しみの認識には違いがないことを発見しています。
これは、自閉症はある感情の処理に影響を与えるものの、他の感情には影響を与えないことを示唆しています。
今回の論文で用いられた手法、特に時間経過に伴う予測可能性の測定は、他の研究者にとってもロードマップとなるものだとクック上級研究員は言います。
うちの子は以前よりも目を見てくれるようになりました。
なかなか自分の感情を表現することは上手ではないので、失感情症と評価もされるのかもしれません。
いずれにせよ、うちでは目を見ることに無理する必要もなく、その分、もっと近寄ろう理解しようとするほうが大事だろうと思います。
(チャーリー)