- 自閉症の人たちが生活の質に影響を受ける主な要因は何か?
- 自閉症の成人と子どもとで生活の質に違いはあるのか?
- 自閉症の人たちの生活の質を向上させるためには、どのような支援が重要なのか?
自閉症の人たちは、生活の質がそれぞれに大きく異なることが、新しい研究で明らかになりました。
身体的な健康状態や学校での成績に問題があると報告する人もいますが、そうでない人も多くいます。
自閉症の人たちの幸福感と生活の満足度を向上させるためには、研究者はその人に何が重要なのかをよりよく理解する必要がある。
そう、英キングス・カレッジ・ロンドンの法医学と神経発達科学のでエヴァ・ロス上級講師は言います。
「一人ひとりの人とその状況を個別に考慮し、生活の質のどのような側面が影響を受けているのか、なぜ影響を受けているのかを理解した上で、何が最も有用な支援であるかを一緒に決めることが本当に重要です」
これまでに発表された研究によれば、自閉症の人はそうでない人に比べて生活の質が低いと報告することが多く、この傾向は社会的孤立と自分の能力に対する自信の低下の一因となっています。
また、不安や抑うつを抱えている可能性が高く、社会での機能や人生の目標を達成する能力に影響を与える可能性もあります。
今回の新しい研究では、多くの自閉症の人は生活の質について自閉症でない人よりも低いスコアになっている理由は、自閉症の特徴によるものではなく、不安や抑うつであることを示唆しています。
そして、自閉症の人の生活の質が低くなっているのは、身体的な健康、余暇活動や学業の達成など特定の領域に限られていました。
自閉症の人とそうでない人とでは平均的には大きく違いはありますが、
「個人の生活の質の結果はさまざまであり、自閉症の人でも一部の個人は明らかにうまくいっている」
とこの研究には関与していない米フィラデルフィア小児病院の自閉症研究センターの上級科学者兼トレーニングディレクターのジュディス・ミラーは言います。
「私たちは、苦労している自閉症の人について学ぶべきことがたくさんあることを知っています。
この研究では、うまくいっている自閉症の人からも学ぶべきことがたくさんあることを示しています」
今回の研究を行ったロス上級講師らの研究チームは、344人の自閉症の人と229人の自閉症でない人の調査データを分析しました。
身体的健康、心理的健康、社会的関係、余暇活動の機会について26項目について回答されたアンケートです。
子どもである場合には、身体的・心理的な快適さ、リスク回避、学業成績、問題について相談できる大人の有無などを親が評価し記入した項目のアンケートです。
すべての分野で、自閉症の人は自閉症でない人よりも悪い結果となっていました。
2つの重要な領域で、最も劇的に違いが見られました。
自閉症の成人は、身体的苦痛で高くなっていました。
自閉症の子どもたちは、学校の成績で低くなっていました。
しかし、これらの違いは「すべての」自閉症の人の経験を反映したものではありません。
自閉症の成人のほぼ半数が、自閉症でない人と同じ程度の心理的健康と友人関係の満足度を報告しています。
そして、約55パーセントの自閉症の成人が、自閉症でない成人と同程度の余暇活動の機会も持っていると報告していました。
自閉症の子どもたちの間でも、個人差が大きくありました。
43パーセントが、自閉症でない子どもと同等の学業成績を示し、約67パーセントが自閉症でない子どもと同等の親のサポートになっていました。
研究チームは、社会的コミュニケーション能力に関する65項目の調査で測定された自閉症の特徴に関するデータ、子どもについては感覚処理の違いに関しての親からの報告、参加者の自己または親が報告した抑うつと不安の特徴に関するデータも調査しました。
自閉症の成人において、自閉症の特徴は生活の質の程度とは有意の関係を示しませんでしたが、うつ病の重症度は生活の質の程度と深く関係していました。
自閉症の子どもについては、うつ病と不安が社会的コミュニケーションの困難と同様に複数の分野で生活の質の低下と関係していました。
この研究は”Autism”に掲載されています。
「精神的な健康が生活の質に影響を与えることは直感的に多くの理にかなっている」
この研究に関与していない、米ピッツバーグ大学の精神医学と心理学のカーラ・マゼフスキー准教授はそう言います。
「医師としても、私の研究でも頻繁に、苦痛と調節障害が生活のほぼすべてに影響している自閉症の大人や子どもをみます」
今回の研究を行ったロス上級講師は、自閉症の人が今回利用したアンケートが必ずしも、自閉症の人の生活の質の向上に寄与する重要な要因を知るためのものになっていない可能性を述べています。
今回の研究のものを含め、ほとんどのアンケートなどのツールは自閉症ではない人のために開発されたものであるため、自閉症の人が自分たちにとって良い生活と考えるものを正確に把握できない可能性があるからです。
「自閉症の人にはたくさんの友だちや仲間はいないかもしれません。
だからといって、自閉症の人はそれを理由に生活の質が低くなっていると感じるとはかぎりません」
そのため、ロス上級講師らの研究チームはアンケートの項目が適切かどうかについて自閉症の人たちへの確認インタビューを現在行っています。
発達障害、自閉症だからって、その人自身や家族のみんなが不幸ということはもちろんありません。
そして誰しも、いつも不幸、いつも幸せということもないと思います。
しかし、理不尽な不幸せを減らす、幸せを増やすことにつながる研究にはもちろん期待しています。
(チャーリー)