- 人の顔の識別が難しい原因は何か?
- 顔認識能力の低さが自閉症スペクトラム障害の人にどんな影響を与えるか?
- 顔認識能力の向上にはどういったアプローチが有効なのか?
顔を認識する能力には人によって大きな差があります。
発達障害である自閉症スペクトラム症の人は特に苦労し、社会的相互作用に大きな影響を与えている可能性があります。
米ペンシルベニア州立大学の研究チームは40年分の自閉症の人のデータを分析して、自閉症の人がかかえる顔認識の障害を初めて明らかにしました。
今回の研究を行った、発達神経科学研究所の所長、スージー・シェルフ准教授の研究室に所属するグリフィンによれば、顔の認識は社会的相互作用への入り口であり、複雑な社会的合図を利用するためには、それがまず出来なければなりません。
「自閉症スペクトラム障害(ASD)の人は、しばしば社会的な相互作用に苦戦しています。
その結果、友人関係の発展や維持、社会的な文脈に適応する行動が困難になっています。
そしてこれは、自閉症の人の一部が、人を認識することができないことの原因になっている可能性もあります」
そう、グリフィンは言います。
グリフィンは自閉症スペクトラム障害の兄弟がいます。
顔認識の能力を含む自閉症スペクトラム障害の人の社会的困難の理解を目的に研究を行ってきました。
「顔認識能力の問題を自閉症スペクトラム障害の人が潜在的にかかえている重大な問題であることは、研究者の間では40年前から考えられてきました。
そのため、何百もの研究が行われてきましたが、結果は異なったものとなっていました。
ASDと一般的な発達障害者を比較した、顔の同一性処理に関する研究について、今回の研究では分析を行いました」
この研究は”Psychological Bulletin”に掲載されています。
グリフィンらの研究チームは、5000人以上が参加したものも含む、112の研究について、客観的にすべての証拠を組み合わせて重み付けする方法のメタアナリシスによって比較しました。
その結果、顔の同一性処理のテストについて、自閉症スペクトラム障害の人の平均して80パーセント以上が自閉症スペクトラム障害でない人よりも成績が悪いことがわかりました。
「人の顔を認識することの困難が、自閉症スペクトラム障害の社会的な困難の原因になっている可能性が高いと考えられます。
社会的なやりとりを行うためには、相手が誰であるのかを識別する能力が必要だからです」
なお、年齢、性別、IQによる、顔認識の困難の違いはありませんでした。
スージー・シェルフ准教授はこう言います。
「私は2009年以来、自閉症のための標準的な療育方法の研究に取り組んでいます。
顔認識などの社会行動の最も基本的な側面をどのようにして改善するかを解明しようとする多くの研究がこれまでに行われてきました。
過去には、自閉症スペクトラム障害の人の行動を一時的に改善するような療育方法も開発されてきましたが、現実の生活状況ではうまく一般化されないことが多いのです。
今回の発見を受けて、これらの困難に寄与する他の基礎的な困難があるのかもしれないと考えています。
さらに、この知識は、教育者、ソーシャルワーカー、その他自閉症スペクトラム障害の人と接する人たちにも知ってもらう必要があるでしょう。
私たちが知っている人が私たちを認識していない場合、それは否定的な反応を引き起こす可能性があります。
自閉症における顔認識能力の低さについてのこの知見があれば、より自閉症の人について理解を深め、自閉症の人に社会的交流を支援するサポートをすることができます」
グリフィンによれば、この研究は、研究室で行われている継続的な療育にも役立つ可能性があるといいます。
自閉症青年のためのソーシャルゲーム(SAGA)プログラムでは、ビデオゲーム療育を開発しています。
「アバターの社会的な合図に注意を払うことで、ゲームの中で社会的なスキルを学べます。
うまくいけば、このゲームは顔認識能力の向上にも役立つはずです」
(出典:米ペンシルバニア州立大学)(画像:Unsplash)
人の顔の識別が難しい。
それは、確かにコミュニケーションの基礎に問題をかかえることになります。
コミュニケーションは双方向です。片方だけを問題の原因とするのは幼稚です。
自閉症の人がかかえている困難について、相手となる多くの人に知って頂くことが、コミュニケーションに関わる問題を助けることに一番なるはずです。
(チャーリー)