- 自閉症の遺伝的要因は父親から受け継がれることが多いの?
- 自閉症と親の年齢の関係はあるの?
- 遺伝子の大きな変異と小さな変異、それぞれが自閉症にどんな影響を及ぼすの?
自閉症と関連する、自然発生の大規模な遺伝的突然変異のほとんどは、父親から受け継がれます。
そして、それは小さな突然変異とは異なって、親の年齢は関係がありません。
2020年米人間遺伝学会会議でこの研究が発表されました。
親から受け継いだものでなく、新しく発生する突然変異は精子や卵子の細胞内、または胚の発生の非常に早い段階で発生すると考えられています。
これらの変異の多くは、DNAの1文字または塩基対に関わるもので、「点突然変異」(小さな変異)として知られるものです。
これらの変異は、精子や卵子に時間をかけて蓄積する傾向があります。
そのため、高齢の親、とくに高齢の父親から生まれた子どもの自閉症の発症率が高くなるのは、それが一因になっている可能性があると考えられてきました。
DNA配列の欠失や重複などの大きな突然変異も自閉症と関連しています。
しかし、これらの大きな突然変異はまれです。
今回の研究では、自閉症の人とその家族と分けて、2つのグループにし、50以上の塩基対を含むDNAの大きな構造的変異を調べました。
今回の研究を行った米ユタ大学の人間遺伝学と生物医学情報学のアーロン・クインラン教授はこう言います。
「今回の研究でわかったのは、子どもの自閉症に親の年齢が影響するとしても、それはとても小さい」
研究者チームは、2363人の自閉症の人と、自閉症でないその人たちのきょうだいや親の1938人のゲノムを分析しました。
染色体全体が関与するものを除いて、大きな構造的変異の割合を比較しました。
その結果、自閉症の人の5人に一人以上が大きな構造的変異を持っていました。
自閉症でない人の場合では、6人に一人以下でした。
自閉症の人とそうでない人の両方で、突然変異の約4分の3は、母親の細胞ではなく父親の細胞によって受け継がれたDNAで発生していました。
そして、大きな構造的変異のある自閉症の人の父親と、それがない自閉症の人の父親を比較すると、年齢には大きな差はありませんでした。
また、研究者チームは、大きな構造的変異のある165人の自閉症の人と、同じく大きな構造的変異のあるものの自閉症でない85人を比べると、自閉症の人と点突然変異の数、父親の年齢に関連が認められました。
点突然変異と構造的変異には、根本的にメカニズムが異なります。
「点突然変異」(小さな変異)は、細胞分裂とゲノム複製中にランダムに発生する傾向があります。
「構造的変異」(大きな変異)は、染色体の破損を修復する細胞の働きの結果です。
今回の研究による発見は自閉症だけでなく、遺伝学が大きな役割を果たす他の複雑な条件の構造的変異の役割の理解を深めることにつながる可能性があります。
少しややこしいですが、この研究では自閉症に関わる遺伝的な違いへの影響についてこういっています。
父親由来(年齢関係なし:大きな変異)> 年齢由来(父母どちらでも:小さな変異)
そして、その理屈はこんな感じです。
①自閉症の人はそうでない人に比べて、遺伝子の大きな変異をもっていることが多い
②自閉症の人の遺伝子の大きな変異は、父親から受け継いでいた。父親の年齢は関係ない。
③遺伝子の大きな変異がある人たちの中で見ると、父母に関わらず年齢に関係する小さな変異と自閉症には関連が見られた。
なお、自閉症の原因の100パーセントが先天的なものとは現在考えられていません。
この研究でも、自閉症と「関連する」遺伝子、DNAやゲノムと言っても、原因とは言及していません。誤解なきように。
(チャーリー)