- 自閉症の脳構造は他の人と異なっているのか?
- 自閉症の脳構造の研究で得られる情報は一貫しているのか?
- 自閉症の脳構造の研究から、適切な支援方法を見つけることは可能か?
発達障害である自閉症は、偏った興味や反復的な行動、社会的相互作用やコミュニケーションの難しさという行動の存在に基づいて診断されます。
そしてこれらの特徴は、脳のさまざまな部分の形成のしかたや接続が他の人たちとは異なっているために生じると考えられています。
しかし、自閉症の「特徴的な」脳構造を明らかにできた研究はありません。
それは、自閉症の人すべてが、同じように異なっているわけではないからです。
これまでの脳構造の研究では、多くの場合、それぞれが異なる結果になっています。
しかし、自閉症の人たちもさらにいくつかのタイプに分けることができる。
そのような傾向が見えてきています。
自閉症の人のなかでもあるタイプの人については、脳がどのように機能しているのかが今後わかるかもしれません。
そうなれば、自閉症のタイプごとに適切な療育方法も開発できるかもしれません。
自閉症の人とそうでない人の間での脳の構造の違いについて、これまでにいくつかわかっていることがあります。
・自閉症の人とそうでない人とで、構造が異なっている脳の領域について
MRI(磁気共鳴画像法)と呼ばれる脳のスキャン技術を利用した研究では、自閉症の人で構造的に異なるいくつかの脳領域が浮き彫りになっています。
自閉症を持つ子どもや青年はしばしば海馬が肥大しています。
それは記憶を形成し、格納する重要な役割をもつ脳の領域です。
いくつかの研究でそれが示唆されています。
なお、その違いは成人になってもずっと続くのかはわかっていません。
扁桃体の大きさも自閉症の人とそうでない人の間で異なるようです。
しかし、これまでの研究ではいろいろ結果が相反しています。
ある研究では、自閉症の人の扁桃体はそうでない人よりも小さい。
自閉症の人でも不安をかかえている場合にのみ小さい。
また、自閉症の子どもは扁桃体が大きい。
成長していくと、そうでない人と変わりなくなっていく。
などです。
また、小脳の一部、頭蓋骨の基部にある脳の構造の脳組織の量が減少していることを、脳スキャン画像から示唆する研究があります。
これまで、小脳は主に運動機能に関わると考えられてきましたが、それだけでなく認知や社会的相互作用に役割を果たしていることがわかってきています。
より広くとらえれば、大脳皮質 – 脳の外層 – は自閉症の有無にかかわらず、それぞれの人ごとに厚さが異なるようです。
そして、2020年の研究では、この違いは、発達に関わるニューロンの変化に関係することが示唆されています。
・これらの構造的な違いが、発達に与える影響について
複数の研究によれば、後に自閉症と診断された乳児の中には、特定の脳領域の成長が異常に速いことがあります。
自閉症でない子と比較して、自閉症の子は生後6ヶ月から12ヶ月の間に大脳皮質の表面積の拡大が著しく速くなります。
生後2年目には、自閉症の子の脳の体積はそうでない子よりもはるかに速く増加します。
そして、自閉症でない人に比べて早々に、20代半ばで縮小に転じます。
後に自閉症と診断された子たちの中には、脳脊髄液 – 脳を取り囲んでいる液体 -が過剰になっている人もいます。 それは、自閉症ではない人と比べて、頭が大きくなっていることの原因の一つかもしれません。
そして、脳脊髄液が多い人はまた、大きくなってから最も顕著に自閉症の特徴を持つ傾向がありました。
脳脊髄液の過剰は、早ければ生後6ヶ月で現れ、39歳まで続いていました。
・脳領域間の接続の違いについて
白質、脳の各領域をつなぐ長いニューロン線維の束は、自閉症の人では異なっていることが、確固たる証拠で示されています。
研究者は通常、拡散MRIと呼ばれる技術を使用して脳全体の水の流れを測定し、白質の構造を推測します。
脳の2つの半球を接続している呼応野と呼ばれる白質のすべてまたは一部を欠いている人は、自閉症であるか、または条件の特徴を持っている可能性が高くなっています。
胼胝体には、脳全体に延びる長距離の接続の多くが含まれています。
これらの接続が破壊されると自閉症の特徴につながる可能性が高くなるという事実は、自閉症の原因が脳の領域の接続に関係するという考えを支持します。
2020年の研究によれば、自閉症の未就学児は、複数の白質の構造に有意な差を示していました。
明らかに自閉症の幼児や青年は、脳全体で白質に違いがあることを示しています。
・自閉症の人の脳構造の性差について
それは不明です。
自閉症の性差を特定することが、まず困難なままです。
それでも、いくつかの最近の研究では、自閉症の脳の性差のヒントが見えてきています。
2020年の研究では、扁桃体が自閉症の男の子よりも自閉症の女の子の方が影響を受けることが示されています。
扁桃体の拡大は、他の研究によれば、自閉症の女の子で特により深刻となる感情的な問題に関連しています。
自閉症をかかえる就学前の子どもたちの白質の変化も性別によって異なります。
自閉症の女の子は、そうでない女の子と比較して、胼胝の構造的完全性の測定値が増加しています。
そしてその差は、自閉症の男の子とそうでない男の子との違いに比べると大きくなっています。
脳の成長速度や脳脊髄液の量などの他の構造的な違いも、それと同様に女の子と男の子とで違いがあるようです。
・自閉症の人の脳構造を研究する重要性について
自閉症とは他の人とは異なる状態です。
後に自閉症と診断されても、そのすべての赤ちゃんが生後6ヶ月で脳液が過剰になっているわけではありません。
自閉症の成人のすべてが脳の胼胝体が未発達であるわけでもありません。
しかし、こうした特徴をもつ自閉症のタイプについてより詳しく理解することは、そのタイプの自閉症の人を適切にサポートできるようになるのに役立つはずです。
さらに、自閉症の行動が検出される前であっても、身体を傷つけることのない方法で、自閉症と診断できる生物学的な特徴を見つけることは、早期発見、早期療育に役立つはずです。
うちの子も小さなとき、発達障害と診断されてからMRIで脳を見てもらったことがあります。
私もその画像を見ましたが、画像で見る限り特に異常はありませんとのことでした。
少なくとも、当時は「違い」を見つけることができませんでしたが、今後は見つけられるようになるのかもしれません。
そうなれば、早期発見、早期療育に役立つのは間違いありませんね。
(チャーリー)