- 睡眠障害が発達障害とどのように関連しているのか?
- メラトニンが睡眠や行動にどのような影響を与えるのか?
- 夜間の光が自閉症や睡眠障害にどのような影響を与えるのか?
新しい研究によれば、自閉症に関わるある遺伝子が欠損しているマウスは、本来夜行性であるにも関わらず、夜間により多く眠ります。
そして、夜間に光にさらされた場合にはいつも以上に毛づくろいを行います。
しかし、そのマウスに睡眠ホルモンであるメラトンを投与すると、どちらの行動もなくなりました。
遺伝子の変異が原因と考えられる睡眠障害について、この研究を行った米カリフォルニア大学のクリストファー ・ コルウェル精神医学教授はこう述べます。
「発達障害である自閉症をかかえる人の多くは、眠ることに苦労しています。
そして、睡眠不足は、反復行動や社会的困難など、自閉症に関連するいくつかの課題を悪化させる可能性があります」
いくつかの研究から、人工光が自閉症の人たちの睡眠障害に影響を与えていることが示されています。
夜間の街灯や電子スクリーンなどの光源からの光は、遺伝子発現、ホルモンレベル、眠りやその他の機能のパターンを調節するリズムとして知られている体内の24時間の「時計」に干渉するのです。
米国では、医師は子どもを含む自閉症の人たちに、暗闇に反応して睡眠を誘導するホルモンであるメラトニンを処方することが多くあります。
今回の新しい発見は、メラトニンがいくつかの自閉症の特徴を緩和することができることも示唆し、照明の考慮は、自閉症や他の神経発達の条件を持つ子どもに重要となる可能性を示すものです。
「照明条件は、我々が評価してきた以上に重要かもしれません。
これは管理しやすいものです。
それで生活の質を向上させることができるのです」
コルウェル教授ら研究チームは、CNTNAP2という遺伝子を欠失したマウスを用いて、睡眠パターン、社会活動、反復行動を調べました。
人間の場合では、この遺伝子の変異は自閉症、言語障害、脳の接続性の変化に関連することが知られています。
典型的な照明条件(昼間12時間、暗闇12時間)では、その遺伝子が欠乏したマウス(ノックアウトマウス)はそうでないマウスに比べて、通常は起きているはずの夜間の活動が少なくなっていました。
また、遺伝子発現と神経活動のパターンに基づいた睡眠パターンと生活リズムにもわずかな違いが見られました。
ノックアウトマウスでは、自閉症の人に見られる反復行動に似た行動と考えられる毛づくろいを頻繁に行いました。
ノックアウトマウスでは、物体と新しいマウスに興味を持ちましたが、そうでないマウスでは知っている他のマウスとの関わりを好みました。
研究チームは、それぞれのタイプのマウス数匹を、夜のライトの明るさ程度の薄暗い光に一晩中さらし、生活パターンを変化させました。
夜間に薄暗い光にさらされたノックアウトマウスとそうでないマウス、どちらも本来は夜行性であるにも関わらず夜間によく眠るようになっていました。
そうでないマウスは物体も他のマウスのどちらにも興味を示していたのに対し、ノックアウトマウスは物体だけを好み、社会的関心も低下していました。
毛づくろいは、ノックアウトマウスのみ増加しました。
研究チームはまた、生活リズムを制御する脳の領域であるマウスの視交叉上核のニューロンの遺伝子発現と電気的活動のパターンも調べました。
通常、これらのパターンは昼と夜で異なりますが、ノックアウトマウスとそうでないマウスの両方で、この日中の区別がほとんど失われていました。
そして、夜間の光はノックアウトマウスの細胞に、そうでないマウスの細胞よりも大きな影響を与えていました。
夜間光を照射したノックアウトマウスにメラトニンを夕方に投与すると、過剰な毛づくろい行動が減少し、夜間の活動が活発になりました。
朝にメラトニンを投与しても効果がなかったことは、生活リズムを正常化することの重要性を意味しているとコルウェル教授は言います。
この研究は、”Neurobiology of Disease”に掲載されています。
夜間に光を照射するのを止めると2週間後には、ノックアウトマウスもそうでないマウスも対照マウスも通常の生活パターンや行動に戻っていました。
夜間の光の影響は一時的なものであることが示唆されます。
今後の研究では、光が睡眠障害に永続的な変化をもたらすことができる発達の時期があるかどうかを調べる必要があるとコルウェル教授は言います。
一方で、この実験は夜間の光が人の睡眠にどのように影響を与えるかを完全に模倣したものではないと、研究には関与していない米スタンフォード大学の精神医学・行動科学のフィリップ・ムレイン准教授は言います。
「光を浴びると、人ではメラトニンの産生が一時停止しますが、夜行性のマウスでは逆になります。
研究者たちは、マウスを一晩中一定の光にさらしましたが、ほとんどの人が光に遭遇するのは、例えば寝る前にデバイスを使用しているときなど、散発的なものです」
しかしそれでも、この研究は睡眠だけでなく、生活パターンを正常化することの重要性を示しているとムレイン准教授は言います。
「この研究は、睡眠は関係なく、生活リズムが自閉症の特徴に大きく関係することを示しています。
しかし、夜によく眠れる、睡眠の観点から発達期の子供の健康を改善する方法を考えたいのであれば、睡眠と生活リズムの両方を考慮に入れる必要がありますが、マウスではそれをモデル化することはできません」
この研究に関与していない米カンザス大学の精神医学と行動科学のオリビア・ビーチ助教授は、この研究は睡眠と重度の自閉症の特徴との間の因果関係を理解しようとする最初の試みであると言います。
「これまでのところ、研究者たちは、重度の自閉症の特徴が睡眠を妨げているのか、睡眠不足が既存の困難を悪化させているのか、あるいは両方のことがサイクルの中で起こっているのか、よくわかっていませんでした。
今回の研究では、使用したマウスは自然にメラトニンを生成しません。なのでメラトニンに確かに効果があることがわかったのは興味深いです。
メラトニンは、自閉症の子どもたちがすでにそうでない子どもたちと同レベルに持っている場合でも、睡眠を改善することができ、ホルモンは不安を軽減するなど、睡眠以外にも重要な機能を持っている可能性があることも示唆されています。
今後、メラトニンがどう機能しているのかを把握する必要があります」
今回の研究を行ったチームは次に、異なる色の光が異なる効果を持つかどうかを調べる予定です。
例えば、電子機器の青色の波長は、注意力とエネルギーを高めます。
その他に、乱れた睡眠と脳の炎症の関係性も研究します。
うちの子も本当に寝ないので、メラトニンを飲ませるようになりました。
うちの子にはとても良く効いて、最近はよく眠れていて、笑顔も増えてきました。
(チャーリー)