- 自閉症スペクトラム障害の人は他人の考えと自分の考えをどのように識別しているのか?
- 他人との会話でどのように自分の考えを調整すれば良いのか?
- 自閉症スペクトラム障害の社会的認知の困難はどのように現れるのか?
他人の考えを理解することよりも、他の人が自分とは異なる考えを持っているかどうかを知ることのほうが、注目するべき重要なことかもしれません。
蘭ヘント大学と豪ニューサウスウェールズ大学の神経科学者たちによる研究チームは、50以上の神経画像の研究を系統的にレビューし客観的に分析し、そう結論づけました。
研究では、私たちが他者を理解するときに活動する脳の主な領域の一つが、自分が考えていることと他者が考えていることの違いを検出するために活動していることを発見しました。
これまで、この脳領域は主に他人が何を考えているのかを理解するために活動していると考えられていました。
しかし今回の研究で、この脳領域は、自分が考えていることと他人が考えていることの違いを検出するために活動していることがわかりました。
これにより「関係性メンタライジング」と呼ぶ、人間の社会的認知の新しい理論が導かれました。
エリエン・デシャイヤー博士はこう言います。
「二人の人間が同じ出来事を全く同じ目線で見たり、経験したりすることはありません。
実際、どのような会話をしているときでも、思考の些細な違いは常に起こります。
ある人は上司との状況について話しているかもしれません。
しかし、あなたはあなたの猫の話題に変えようと考えていたかもしれません。
他の人と同じことを考えていない場合は、脳はこれを処理し、自分の考えに言い換えたり、相手の話題に焦点を当てるかどうかを判断することを求めます。
これは社会的相互作用の流れを決定します」
他の人の思考と自分の理解との間の違いを検出するのは、側頭頭頂接合部と呼ばれる脳の領域です。
そして、この脳領域は発達障害の自閉症スペクトラムの人では多くの場合、過剰に活動するところです。
新しい理論を提唱する研究チームは、これまでの「心の理論」に基づく35年分の研究結果を研究チームは再評価しました。
その結果、自閉症スペクトラムの人たちの脳は、他の人が何を考えるかを把握することができると考えられるものの、他の人が自分の考えとは異なっているその程度を処理するのに困難をかかえていると考えられました。
デシャイヤー博士はこう言います。
「自閉症の人たちは、たとえば他人が自分の興味に対して関心がないことに気づかないために、その話を止めないのだと考えられます。
これでは、自分の考えを無理に押し付けようとしていると思われてしまいます。
逆のことも起こるかもしれません。
相手と異なる考えをもっていることに過剰に反応し、自分の考えが社会的にも良い考えであっても口に出さないようにしてしまうこともあるでしょう。
相手とのコミュニケーションにおけるこうした問題が、自閉症スペクトラムの困難の中心にあると考えらます」
この新しい理論は自閉症の人の、嘘への気づき、道徳的判断、皮肉やユーモアの理解など、複雑な社会的相互作用のこれまでの理解も変えるものとなります。
たとえば、雨が降っているときに「なんて、いい天気!」と言っている人がいたら、これが皮肉だとわかるには、この人の発言と自分の考えとの違いを検出できる必要があります。
この新しい「関係性メンタライジング」の理論に沿えば、多くの新しい研究課題が生まれるはずです。
(出典:米Medical Xpress)(画像:Pixabay)
自分の考えと相手の考えが違うことに気づけない。
そう言われると、誰しもそんな困難をかかえているようにも思いますが、その程度が深刻ということなのでしょう。
無駄な誤解を生じさせずに、お互いのことを理解し合えるようになるように、研究が進むことを期待しています。
自閉症の子はまず自分の考えを抑えてから人の考えを推測している
(チャーリー)