アリシア・ハワードは貧乏ゆすりをします。
この繰り返しの動きは生まれつきなので、それをしていても自分では気づきません。
「止めて。すごく不快だから」
そうよく言われてしまいます。
米クーパー大学の臨床心理学のフィリップ・ファイザー博士はこう言います。
「それは自己刺激、情動行動、スティミングと呼ばれるものです。
他人には目的のない無意味な行動のように見えるかもしれません。
しかし、本人には目的のある行動です。
コミュニケーションのためであったり、自分を落ち着かせるための刺激であったり、その刺激が楽しいと感じるからそうするのです」
英国チェシャーアンドウィラルパートナーシップの成人自閉症スペクトラム障害サービスの主任精神科医、イアン・デイビッドソン博士はほとんどの人もそれを行っていると言います。
「待合室や退屈な会議にいる人を見てみてください。
多くの人がいたずら書きをしたり、指やペンを叩いたり、携帯電話をいじったりしています。
落ち着きがないと言われる行動をしています」
39歳のアーティストであり母親でもあるハワードは不安症、パニック障害、ADHD、および聴覚感覚障害ををかかえています。
貧乏ゆすりや他の自己刺激を行うことで自分は落ち着くことができる。
自己刺激は圧倒されそうなときに自分を助けるための方法だといいます。
貧乏ゆすりの他に、耳をつまんだり、指を曲げたり、手を叩いたり、キングコングのように拳で胸を叩くなどの自己刺激も行うことがあります。
ハワードが説明するような行動の他に、光などの刺激をじっと見つめたり、音を立てたり鼻歌を歌ったりする自己刺激もあるとデイビッドソン博士はいいます。
そして、自己刺激は自閉症と関連しているともいいます。
米国精神医学会のDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)でも、自閉症スペクトラム障害の診断基準として自己刺激行動が含まれています。
自閉症の人が刺激を与えるときには、手を叩いたり、前後に揺らしたり、音やフレーズを繰り返したりするような、社会的には行儀の良くない方法で刺激を与えることがあります。
統合失調症、強迫性障害、あるいは心的外傷後ストレス障害を持つ人もこうした行動をとることがあります。
自己刺激を行う理由は、ストレスや感情を調整するための方法となるからです。
「これらの行動は感覚的な入力のすべてにつながるだけでなく、深刻な緊張とエネルギーの解放もしてくれるからです。
自己刺激行動は究極的には友人と話したり、ジョギングをしたり、ワークアウトをしたり、詩を書いたりするのと同じ、ストレスを和らげる行動です。
感情的な緊張は、ネガティブなものだけではなくハッピーでエキサイティングな感情でも伴うことがあります。
また、感覚を助けたり、社会的なコミュニケーションを助けるために刺激を与える人もいます」
自己刺激をすると気持ちが良くなる理由は正確には明らかになっていません。
ファイザー博士によれば、感情を調節する多くの神経伝達物質、つまり脳内化学物質を活性化させるのに役立つからだといいます。
ドーパミン、セロトニン、グルタミン酸などの神経伝達物質が、自己刺激行動に大きく関連しています。
ハワードは自己刺激によって得られる安堵感についてこう説明しています。
「刺激が必要になるときは、皮膚の表面のすぐ下でくねくねと蠢くミミズのような感じがします。
ときどき、その感覚が来る前に突然の恐怖のラッシュや風がの感覚があるときもあります。
自己刺激をすると安堵感と快感が得られます。なので、ますますそうしてしまうのです」
以前は、自己刺激はしないように促され、治療や投薬の対象となっていました。
最近では、ほとんどの医師が自己刺激を認めるようになり、害がないのであればそれを制限する必要はないと考えるようになってきたとファイザー博士は言います。
「そのためだけに抗精神病薬のような薬物を利用するのであれば、副作用のほうが危惧されるからです」
この受け入れをさらに一歩進めて、とくにソーシャルメディア上では自分の自己刺激行動を積極的に紹介している人もいます。
しかし一方で、自己刺激は気晴らしの行動に過ぎず、少なくとも人前で見せるべきでない、すべきでないという考えも未だに残っています。
自閉症の成人を対象にしたある研究では、自己刺激止めるように言われたときに混乱、怒り、憤り、侮辱、恥ずかしいと感じたと研究者に話していたことを考えると、これは問題です。
また、この研究に参加していた自閉症の人たちは、しばしば自己刺激行動によって自分が誤解されていると感じていました。
自己刺激は、自閉症の人たちが社会へ対応するための方法です。
それができなくなれば、社会に対応することがますます難しくなってしまいます。
ハワードによれば彼女の母親は、まわりの人が自己刺激を受け入れない扱いをした場合には、自分を助けるために必要な行動をするように応援してくれたといいます。
しかし、自己刺激を行う人の多くはそれを隠すことも学んできました。
デイビッド博士は、そうすることは特定の環境では正しい選択かもしれないが、根本的な対処方法にはならないと言います。
「自己刺激を行うことによって、コミュニケーションをしようとしていることもあります。
それを制限するのは、伝える手段も奪うということなのです。
自閉症の人たちが不安を感じているのに伝えられない、それに対処する方法も奪われた。
それでは自閉症の人たちは、どうなってしまいますか」
自己刺激の行動については、危険がないように気をつける必要があります。
「体にあざや生々しい傷があれば、その自己刺激は明らかに有害です」
そうファイザー博士は言います。
自己刺激が痛みや怪我につながる場合は、健康的な方法へ変えましょう。
ハワードはこう言います。
「私には血が出そうになるまで爪で皮膚をひっかく行動もありました。
数年かかりましたが、それはしないようにしました」
公共の場での自己刺激行動については、それを説明するカードを表示するなどによって、まわりの人には危険がなく安心してもらえるようにする方法も良いとファイザー博士は言います。
身近な人であれば、自己刺激の重要性についてきちんと説明しましょう。
自己刺激は生活していくための対処方法であり、コミュニケーションの方法です。
そして、自己刺激は自分の感情や自分を圧倒するものをより深く知ることにも役立ちます。
ソーシャルメディアで自分の自己刺激行動を紹介する人たちを見れば、孤独も和らぐはずです。
基本的に、無害な自己刺激の行動は変える必要はありません。
しかし、特定の環境で自分のためにそれを隠したり、止めたりしても、まったく恥ずかしいことではありません。
自分だけで決めればよいのです。それが正しいのです。
うちの子もいろいろな行動や奇行があります。
まわりに迷惑になりそうなときには何とか止めようとしますが、そうでないときには自由にさせています。
自分を守り、自分を伝える行動だと私もずっと思ってきたからです。
それすらできなくなってしまったら、本当にどうすれば良いのだろうと深刻に思ってきました。
「行儀が悪い」
そんな上辺だけの理由だったら、簡単に止めろと思うのはやめてほしいと思います。
(チャーリー)