新しい研究によれば、脳内に特定パターンの電気的活動が見られる乳幼児は、自閉症の可能性が高いことを示しています。
具体的には生後3か月で、測定した脳波の同期が異常に高いまたは低い赤ちゃんは、生後18か月の時点で、自閉症関連行動の標準基準で高いスコアを示す傾向があります。
なお、脳波の同期の異常は、脳の部位の接続パターンを反映するものです。
この研究結果は、脳波で赤ちゃんの自閉症を診断できるようにするかもしれません。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神医学および神経学の准教授であり、今回の研究を行ったシャファリ・スプーリング・ジェステはこう言います。
「早期に効果的な療育を行えば、脳の再配線を開始できるようになると信じています」
この研究には、自閉症児のきょうだいである「きょうだい児」が参加しました。きょうだい児は、一般の人口よりも自閉症になる可能性が10倍から20倍高くなります。
これまでの研究で、後に自閉症と診断された乳児について、機能的磁気共鳴画像法(MRI)によるデータでも同様な異常の脳の接続パターンが示されています。しかし、MRIはコストがかかりエラーが発生しやすいという問題がありました。
一方、今回の研究で用いられた脳波測定は比較的安価で簡単に実施できるものです。
医師が実際に利用しやすいものだと、この研究に関与していない米ハーバード大学の小児科および神経科学の教授であるチャールズ・ネルソンは言います。
「もちろん、MRIは素晴らしく、説得力があるものです。
しかし、MRIを大規模に利用することはできません。
対象となる子ども数千人に上るのですから」
今回の研究を行ったジェステ准教授のチームは、頭皮に貼った電極を使用して、36人の「きょうだい児」赤ちゃんとそうでない29人の赤ちゃんの脳波を記録しました。
そして、ニューロンの大きなグループが協調したときに発する、6から12ヘルツの周波数のアルファ波に注目しました。
このアルファ波で、脳の各領域で同期の程度を分析しました。
同期が取れているほど、その領域同士はつながりやすくなっています。
そして、それらの子どもたちが18か月になると、研究者は自閉症診断観察スケジュール(ADOS)と呼ばれる臨床アンケートを使用して、反復行動と社会的コミュニケーションの困難から子どもたちを評価しました。
前頭葉内の同調性が低く、社会的認知と注意に重要な領域である右側頭葉と頭頂葉の間の同調性が高い子どもほど、自閉症の特徴を示していました。
研究チームはAIを使用して、幼児の自閉症特性を予測する乳児期の脳波のパターンも特定しました。
この研究結果は”Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging.”に掲載されています。
自閉症の特徴を持つ子どもたちはそうでない子どもたちに比べて、前頭葉のつながりが少なく、側頭頭頂接合部のつながりが強いことが示唆されました。
側頭葉と頭頂葉が出会う場所(社会情報処理に関連する領域)で強くつながっていることは、そこでのニューラルネットワークの非効率性、および白質として知られている脳領域を接続する神経線維の構造変化を反映している可能性があると研究チームは考えています。
この研究の目的は、自閉症と診断されることを予測するものではありません。
自閉症の特徴の測定が目的です。
「自閉症のスペクトラムは信じられないほど多様です。
自閉症であるか、そうでないか、そう簡単に二つに分類はできないのです。
なので、この研究に取り組みました」
ハーバード大学のネルソン教授によれば、MRIによる脳のスキャンでも、脳波測定でも、脳の機能的接続性の測定は自閉症の特徴の原因となる脳の領域を特定するのに役立つと考えられるといいます。
米国国立精神衛生研究所の小児神経科医であるアシュラ・バックリーは今回の研究は、効果的で扱いやすい脳波測定による、脳の発達の予測。それを実現できる可能性を示したといいます。
しかし、今後さらなる研究を計画している、今回の研究を行ったジェステ准教授はこう言います。
「私たちは、脳波測定を自閉症の診断ツールとして利用することを推奨する段階にはありません」
早期発見、早期療育がとても重要だと言われています。
安全で確実なそれに貢献できる診断方法につながる研究は、ますます望まれています。
(チャーリー)